シルバニアファミリーを燃やす演出で女性ファッション誌LARMEの企画動画が炎上。広告内容の事前チェックは法律以外にも目を向けて。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

GW明け初日なのに都内は雨。
休み明けというだけでも憂鬱なのに、雨で余計に憂鬱ですね。
のんびり仕事モードにして行きましょう。

さて、GW中にも炎上案件が発生したので、今日はその話しを取り上げます。

LARMEの10周年記念動画の炎上

シルバニアファミリーの人形と家を燃やす演出

徳間書店が発行する女性ファッション誌の「LARME」が、5月3日に10周年記念の動画を公式Instagramで公開しました。

しかし、動画の中にシルバニアファミリーの人形と家を燃やす演出がされているシーンがあったため、「シルバニア燃やすってどうして」「雑誌媒体なのに他社商品に敬意がないどころか馬鹿にしとる」などの批判が集まり炎上してしまったのです。

動画のスクリーンショットは、こちらのサイトでご覧下さい。

LARMEの謝罪

炎上を受けて、LARME編集部は5月5日に公式サイトと公式Instagramのストーリーズに謝罪文を掲載し、動画も削除しました。

先日公開した映像作品について、一部不適切な表現が含まれており公開を中止いたしました。この点についての判断を誤ったことついてもお詫びいたします。不愉快な思いをさせてしまったことを、深くお詫び申し上げます。今後は、表現方法に十分に注意し、チェックを強化し適切な表現をして参ります。大変申し訳ございませんでした。

LARME

公式サイトとストーリーズに掲載された謝罪文は、ほぼ同じ内容です。


ストーリーズでは「チェック」ではなく「精査」という言葉を使い、また「お知らせいただき、ご指摘いただきました方々に、心より感謝申し上げます」という一文が付け加えられています。

3日に動画を掲載して4日にかけて炎上したのを受けて5日に謝罪文を掲載したので、対応は非常に早かったと思います。

炎上するような動画を投稿してしまった原因

考えられる原因〜制作過程の問題と納品後の問題

疑問なのは、

  • なぜこんな動画を投稿してしまったのか?
  • 事前のチェック体制がなかったのか?

という点です。

炎上する動画を投稿してしまった原因は、いくつかのパターンが考えられます。

動画を制作した過程の原因と、制作会社から動画が納品された後の原因です。

制作過程の原因としては

  1. 意図してシルバニアファミリーを燃やす動画を作成した
  2. 動画の内容は制作会社に任せきりにしていた

が考えられます。

動画が納品された後の原因としては

  1. 制作会社から納品された動画を確認する体制(社内手続)がなかった
  2. 納品された動画を確認する体制はあったが、実際には確認しなかった
  3. 納品された動画を確認する体制はあったが、燃やす演出があることに気がつかなかった
  4. 納品された動画を確認する体制があり、燃やす演出があることにも気がついたが、燃やす演出が不適切であることに気がつかなかった

が考えられます。

では、実際の原因はどれだったのでしょう?
謝罪文から読み解いてみます。

謝罪文から読み取れること

謝罪文には「表現方法に十分に注意し、チェックを強化し適切な表現をして参ります」と書かれています。

まず、「表現方法に」であって「表現方法には」ではないので、意図して演出したのではないことが伺えます。

これが「表現方法には」としていたら、意図して演出したのだけれど想定外に炎上してしまった、演出での配慮が不十分だった、というニュアンスが出てきてしまいます。

日本語って難しいですね。

次に「チェックを強化し」(ストーリーズでは「精査を強化し」)とあるので、制作会社から納品された動画をチェックする社内体制や手続が存在したことは伺えます。

普通の会社に置き換えれば、納品された商品の受入検査や検収作業です。

おそらく、そのチェックのときに、「適切な表現」であるかどうかの観点は抜けていたのでしょう。

10周年記念動画としてイメージにあっているか、満足いく動画であるかどうかの観点からの確認だけだったのだと思われます。

広告・宣伝での表現チェックは多角的に

不適切な表現ではないかのチェックも必要

今回のような記念動画だけでなく、一般的にどこの会社も、商品・サービスの広告・宣伝で用いる表現については社内で企画・検討したうえで決定していると思います。
その後、決定した表現へのチェックも行ったうえで(行っていて欲しい)、最終のゴーサインを出しているはずです。

その際には往々にして、法令違反がないかのチェックだけに留まっている会社が多いのではないでしょうか?
景品表示法や不正競争防止法、特商法、薬機法などで規制されている誤認させるような表示や虚偽誇大広告になっていないかなどのチェックです。

コンプライアンスを法令遵守と捉えていると、そうなりがちです。

しかし、コンプライアンスの本来の英語での意味は、法令遵守だけではなく「誰かの期待・要望に応える」ことまで含んでいます(詳しくは下記投稿を見てください)。

そうだとすれば、広告・宣伝の表現チェックをするときには、法令の観点からのチェックだけではなく、不適切な表現が含まれていないかという観点からのチェックも必須です。

不適切な表現であることを理由に炎上した広告・宣伝事例

ここ数年だけでも、法令違反ではなく不適切な表現であることを理由に炎上した事例はいくつも出ています。

最近では、2021年3月、VALENTINOが広告に使用した写真が炎上したケースがあります。

モデルが着物の帯に座る、ヒールで歩くなどの演出をしたことで、「日本の文化をバカにしている」などの批判が集まり、謝罪することになりました。

当時の写真がこちらです。

どんな広告が「不適切」と言われやすいか

過去に「不適切な表現である」と批判されて炎上した広告は、

  • 人種差別を想起させるもの
  • 危険な演出であるもの
  • 文化など誰かをバカにしたもの(敬意を表していないもの)
  • 性的な演出であるもの
  • ジェンダー平等に反するもの
  • 古い価値観の押し付けになるもの

などがあります。

過去の炎上例がこれだけ豊富にあるのですから、不適切な表現かどうかは、この角度からはチェックして欲しいところです。

何でもかんでも批判を気にしていては、当たり障りのないつまらない広告・宣伝しかできなくなってしまいます。だからといって、不適切ではないかの検討をしなければ炎上してしまう。

なかなかバランスを取るのが難しいですが、炎上するかもしれないなと思ったときには、演出を工夫するようにして欲しいです。

不適切と指摘されるポイントについて掘り下げた投稿を別に書いたので、そちらも読んでいただければと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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