こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
総務省が2025年6月9日、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を公表しました。4月からパブコメを募集していたガイダンスです。
この内容を踏まえて、企業がブランド価値を毀損させないためのデジタル広告出稿の注意点と、取締役の責任について整理します。
デジタル広告のリスクと、取締役が構築すべき体制
ネットの利用時間の増加に伴い、企業はネット経由で配信されるデジタル広告は増えています。SNSを見ていても、Youtubeを見ていても、ネットニュースを見ていても、デジタル広告だらけです。
デジタル広告は、アルゴリズムにより自動で広告が配信・掲載されるケースが多く、ネットユーザーの嗜好に合わせた広告(興味のある人に向けた狙いうちの広告)を出せるメリットがある一方で、配信先・掲載先を広告主自身が完全に把握できない場合が少なくありません。
広告主が意図せぬ、アダルトサイトなど反社会的コンテンツや陰謀論を掲げるYoutubeアカウントなど偽・誤情報が流布される媒体に掲載され、その結果、広告主のブランド価値が低下したり、社会的非難を受けるリスクも伴います。
実際に、ユナイテッドアローズが配信した広告の配信先の約60%がブランド毀損やターゲットに合わないサイトがあったケースや、コメ兵が日本国内向けに配信したはずの広告が、海外サイトや個人ブログに広告が配信され、配信先の中には、ブランド品の偽物を紹介しているサイトなど、コメ兵の企業価値を毀損する恐れのある低俗なコンテンツを提供するサイトがあったケースが報じられています(日経クロストレンドの有料記事)。
これらのケースのように出稿した広告が意図しないコンテンツに掲載されたときには、ネットユーザーから「陰謀論やアダルトサイトを支持・支援しているのか?」といった誤解や批判を招きかねません。
これらのリスクは営業、マーケティング、広報部門の担当者だけで担うものではなく、取締役が対処すべき課題と言ってもいいかもしれません。
取締役がこうしたリスクの存在を認識しながら、適切な社内体制を構築せず、リスクが顕在化してしまったときには、善管注意義務違反と評価されるおそれもあります。
具体的には、取締役は配信先の審査基準や運用ルールの整備、品質認証事業者との連携、第三者機関による監視ツールの導入などが求められます。
営業、マーケティング、広報部門にとってのリスクではなく、企業価値を守るための取締役の経営判断やガバナンスそのものです。
企業の社会的責任(CSR)の観点からの注意点
企業の社会的責任(CSR)の観点からも、偽・誤情報や違法コンテンツを助長するような広告配信は看過できません。
「ビジネスと人権」の事例では、人権侵害をしている企業との取引を停止するなど、人権侵害を助長・促進しない行動が求められています。
それと同様に考ると、偽・誤情報や違法コンテンツを配信するサイトに広告が掲載され、それらのサイトにお金が落ちることになれば、企業の社会的責任(CSR)を果たしていないことになります。
特に株主・投資家、消費者、世の中の人たちからの期待を踏まえると、どのような媒体に広告を出すか、それらのサイトに広告を配信することが社会に与える影響をどう評価するかは、企業の信頼性に直結していると言えます。
ガイダンス11頁に掲載されている総務省の調査結果によれば、広告主の92%が、偽情報を掲載している媒体への広告配信には「問題がある」と回答しており、その理由の多くは「企業の社会的責任が果たされていないから」というものでした(以下の図はガイダンスからの引用)。

デジタル広告の配信について経営陣のあるべき姿勢
株主・投資家、消費者、世の中の人たちからの期待に応えるには、取締役ほか経営陣が「なぜこの媒体に広告を配信しているか」と説明できるだけの広告戦略の透明性が不可欠です。
短期的なクリック率やコンバージョン率のみを重視する姿勢は、アドフラウド(広告詐欺)の温床になりブランド価値を損なうだけでなく、アドフラウド詐欺の食い物になり財産的損害を負うリスクを高めます。
そうならないようにするためには、ビューアビリティ、無効トラフィック率、ブランドリスク媒体比率等の品質管理指標を取り入れ、これらの指標を広告の目的に応じて適切に設定し、経営層自らが理解・支援する体制を整えることが重要です。
広告は単なる販促手段ではなく、企業の姿勢や価値観を社会に伝える「企業の顔」です。
自社の広告戦略が企業価値を高めるものであるか、社会に対して責任を果たすものであるか、あるいはブランド価値を毀損する広告配信をしていないか、社会的責任を果たさない広告配信をしていないかを適宜モニタリングし、適切な管理体制を継続するようにしてください。