ZOZO創業者が、FacebookやInstagramのなりすまし投資詐欺広告の放置についての責任を求めて運営元のMeta社日本法人を提訴。メディアの広告媒体としての責任について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

GWいかがお過ごしでしょうか。

私は仕事が溜まっていてブログを書く余裕もなく、ジムに行く時間もなく、1日だけ休んで静岡まで高校野球を見に行った以外は仕事しています。

今日は、気分転換もかねて、ブログ記事を久しぶりに投稿します。

今日取り上げるのは、ZOZOの創業者である前澤友作氏が、同人になりすました投資詐欺の広告がFacebookやInstagramに放置されていることの法的責任を追及して運営元であるMeta社日本法人を提訴する件です。

メディアに広告媒体として法的責任があるのでしょうか。

福沢諭吉もメディアの広告媒体としての危険性に警鐘を鳴らしていた

メディアの広告媒体としての責任について調べていたら、福沢諭吉が1878年(明治11年)、民間雑誌に「売薬論」という社説を書いて、近時の新聞広告が売薬師の注文を受けて銭を取って引き札を公告するのは、教育程度の低い一般の人々は良否を問わず信じ込み、新聞屋は売薬師の提灯持ちになりさがると警鐘を鳴らしたこと、が紹介されていました(棚村政行「メディアの媒体責任」早稲田法学80巻3号65ページ)。

今なら「教育程度の低い一般の人々」を「ネットリテラシーが低いユーザー」と読み換えたら、しっくりくると思います。

FacebookやInstagramを利用していると、前澤友作氏や堀江貴文氏、森永卓郎氏らのなりすまし詐欺広告が目に付きます。

ちょっと気をつければなりすまし詐欺広告だなとわかりますし、少なくともそのように疑いますが、でも、信じて被害に遭ってしまう人も少なくないのが現実です。

なお、なりすまし詐欺広告の被害にあった場合は、振り込め詐欺被害救済法に基づく手続をすることで救済されることもあります。

詳しくは、全銀協や金融庁のサイトを確認してください。

メディアの広告媒体としての法的責任についての裁判例

Meta社のように、ネットリテラシーがある人が見ればなりすまし詐欺広告と判断できるレベルの広告を放置している広告媒体には、法的責任はあるのでしょうか。

現在は、以下で紹介する最高裁判決が基準となって、法的責任の有無が判断されています。

日本コーポ事件(最判1989年9月19日。なお、第一審;東京地裁1978年5月29日、控訴審;東京高裁1984年5月31日)

1971年、建築前の分譲マンションの広告をしていた日本コーポ株式会社が倒産したことで、マンションを購入しようとした337名が総額4億8890万円の損害を被ったケースが発生しました。

これにより、被害者5名が、広告を掲載した新聞社3社と各新聞社の系列の広告代理店3社に対して損害賠償を求め提訴しました。

最高裁は、以下のように判断しました。

元来新聞広告は取引について一つの情報を提供するものにすぎず、読者らが右広告を見たことと当該広告に係る取引をすることとの間には必然的な関係があるということはできず、とりわけこのことは不動産の購買勧誘広告について顕著であって、広告掲載に当たり広告内容の真実性を予め十分に調査したうえでなければ新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的注意義務が新聞社等にあるということはできないが、他方、新聞広告には、新聞紙上への掲載行為によってはじめて表現されるものであり、右広告に対する読者の信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく、広告媒体業務に携わる新聞社並びに同社に広告の仲介・取次をする広告社としては、新聞広告の持つ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合には、真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり、その限りにおいて新聞広告に対する読者らの信頼を保護する必要があると解すべき

最高裁は、メディアには、広告掲載にあたって「広告内容の真実性を予め十分に調査」する一般的注意義務はないとして、広告媒体としての法的責任を原則としては否定しました。

しかし、「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情」があって、「読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合」には、メディアには「真実性の調査確認」して、「虚偽広告を提供してはならない義務」があると判示しました。

例外的に、真実性を調査確認し、広告の提供をしてはならない義務があると判断したのです。

この事件では、メディアの広告媒体としての法的責任を否定しました。

メディアが真実性の調査義務を負う場合

最高裁判決の基準によれば、メディアが「真実性の調査義務」を負うのは、

  • 「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情」があり、かつ、
  • 読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合」

です。

「特別の事情」としては、広告の内容の真実性について警察や行政当局から注意喚起されている場合や、今回の前澤友作氏のように本人が「なりすまし詐欺広告」であると公の場で主張している場合が考えられます。

警察庁では、SNS型投資・ロマンス詐欺の2種類について発生状況を公表しています。

公表資料によると、男性はFacebook、LINE、Instagram、マッチングアプリの順で、女性はInstagram、LINE、マッチングアプリ、Facebookの順で、当初接触されるようです。

たとえば、糸井重里氏が代表取締役社長を務めるほぼ日は、次のような注意喚起を自社サイトに掲載しています。

また、「不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合」としては、既に詐欺被害に遭っている報じられている場合(メディアなら自分たちで報じている場合もあるかもしれません)、被害者弁護団などができて声明を出している場合が考えられます。

例えば、現時点でも、なりすまし詐欺広告については各種メディアで報じられています。

日経クロステックのように、体験記を投稿している記事もあります。

その他の裁判例

なお、日本コーポ事件最高裁判決以後もメディアの広告媒体としての法的責任を追及する訴訟が何件が起きていますが、いずれも日本コーポ事件最高裁判決が示した基準をもとに、メディアの調査義務の有無を判断しています。

いずれの裁判例も、「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情」がない、または、「特別の事情」があっても「読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合」がないなどとして、メディアの広告媒体としての法的責任を否定しています。

メディアの広告媒体としての社会的責任と整備すべき体制

新聞社に対する信頼と読者保護の必要性

メディアが広告媒体としての法的責任を負うことは、最高裁判決の基準に照らせば、ほぼないと言ってもよいでしょう。

しかし、最高裁判決も指摘するように、新聞広告に対する読者の信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではありません。また、新聞広告に対する読者らの信頼を保護する必要もあります。

SNS運営会社に対する信頼とユーザー保護の必要性

SNSを運営する会社は、新聞社とは違って取材などするわけではないので情報収集能力はありません。

しかし、その代わりに、技術的な専門性を兼ね備えているのですから、AIやプログラムを駆使して、ネット全般について広く情報を収集し、かつ分析しやすい立場にあります。

そうだとすれば、SNSを運営する会社は、著名人のなりすまし広告であるかどうかはAIやプログラム、さらには人海戦術で判別することはしやすい立場と言えましょう。

また、ユーザーは、自身がSNSにアカウント登録する際には本人確認などを厳しくされるのですから、SNSを運営する会社が広告主を厳しく審査した後に広告の提供を許可し、なりすまし広告を排除していると信頼しているはずです。

さらに、SNSを運営する会社は、ユーザーに広告を提供する際も、cookieの情報を分析するなどして特定のユーザーを狙いうちして、そのユーザーに相応しいターゲット広告などを提供する運営もしているのです。

その分、ユーザーは、自分に相応しい広告をSNSを運営する会社が選んで提供したとも信頼しているはずです。

こうしたユーザーのSNSを運営する会社に対する信頼は保護されるべきです。

そうだとすれば、SNSを運営する会社はネットリテラシーが弱い人になりすまし詐欺広告がターゲット広告として提供されるなどしないように、なりすまし詐欺広告を未然に排除する仕組み、スクリーニングする仕組みを整えておくべきとも言えましょう。

例えば、FacebookやInstagramは現在もなりすまし広告やなりすましアカウントを報告する仕組みはできあがっていますが、しかし、FacebookやInstagramに登録している既存アカウントの誰かになりすましていると報告できるだけで、アカウントの登録していない実在の人物になりすましていることは報告できない仕組みになっています。

2023年4月16日には、Meta社は、なりすまし詐欺広告への取り組みを公表しています。

これによって法的責任を果たしたとまで言えるかはわかりませんが、既存アカウントの誰か以外にも実在の人物になりすましている詐欺広告を排除する運用をし、またそうした仕組みを整えておくことは、SNSの運営会社の社会的責任として求められているのではないでしょうか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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