2017年新春のごあいさつ

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

前回の投稿を見ると、2015年11月。実に1年2か月ぶりの更新となりました。
今年こそは、週1回程度の更新は続けたい(あくまで希望)。

2016年もまた企業不祥事には事欠かない1年でありました。
2017年も企業不祥事は相次ぐことが予想されます。ますます企業危機管理の必要性は高まっても下がることはないでしょう。

少しでもお役に立てるように、2017年もアンテナは敏感に建てていきます。
重ねますが、本年もよろしくお願いいたします。

なお、今さらですが、2016年に何があったのかを大きく振り返ります(要は、こんな仕事してますよ、という近況報告と宣伝です)

2016年

雑誌「広告会議」連載

事務所のブログを1年2か月放置していました。
ただ、ここ1年以上に亘って、雑誌「広告会議」にて「リスク広報最前線」というテーマで、危機管理広報についての連載記事を続けています。

2016年に取上げたテーマは、

  • 2月号;横浜マンション杭打ち問題での親会社の広報と責任
  • 3月号;セーラー万年筆社長解任劇と広報
  • 4月号;軽井沢バス転落事故後の運行会社の記者会見
  • 5月号;イソジン訴訟合戦の広報比較
  • 6月号;読売巨人軍野球賭博問題
  • 7月号;滋賀県議会議員、高校球児に「1回戦負けしろ」発言騒動
  • 8月号;舛添要一前都知事の広報対応
  • 9月号;株主を味方につける広報・・・2016年株主総会(タカタ、大戸屋)
  • 10月号;伊藤忠商事、グラウカス社レポート対応広報
  • 11月号;PCデポ高額解約料問題
  • 12月号;鹿児島県志布志市「うなぎ少女」動画炎上

でした(1月号は「危機管理広報マニュアル」です)。

どれもブログでも取上げるに値するテーマだったように思います。

連載は、主に危機管理広報の観点から解説しましたので、興味を持たれた方は大きな書店にあるバックナンバーなどでご覧いただければうれしいです。

(株)イー・コミュニケーションズ「月刊コンプラ放送局」

(株)イー・コミュニケーションズのサービスの一部で、「これって大丈夫?月刊コンプラ放送局」という動画を流しています。

毎月1か月分の企業不祥事から2例か3例を取上げて、法律上の問題点とコンプライアンスの観点からの問題点の両方を5分前後で解説しています。
プリンシプル・コンサルティング・グループ代表の秋山進氏との対話形式にして、わかりやすく解説しています。
社員教育用の教材としてご利用いただけることを念頭において作成しています。

(株)イー・コミュニケーションズのウェブテスティングサービス「SAKU-SAKU Testing(サクサクテスティング、以下「サクテス」。)」をご契約いただくとご覧いただけます。
こちらも興味があれば、社員教育としてお使いいただければうれしいです。

企業内研修・公開セミナー

2016年、ついに企業内研修と公開セミナーが60回を超えました。
1年間は52週間ですから、毎週1回以上研修・セミナーを行っていた計算になります。

研修・セミナーで取上げた主なテーマは、こちらに実績一覧として掲載しています。

ザッと整理すると、対象者ごとに、次のような内容での研修が多かったように思います。
また、セミナーとともに、社内研修用のテスト教材や配布するパンフレットやガイドラインの作成も行うこともありました。

もし、「うちの会社でもこんなテーマで研修やってくれないか」という御希望がございましたら、まずは遠慮なくご相談してください。

役員・広報部門 「危機管理広報」
役員・一般従業員 「情報管理(企業秘密、個人情報)」

「ハラスメント(セクハラ、パワハラ)」

「公務員との付き合い方や営業活動上の留意点(国家公務員倫理法・倫理規定、独占禁止法)」

営業部門 「特商法・景表法に基づいた営業方法(営業でのNGワード、広告宣伝の注意点)」

「業務委託契約書の注意点」 ※企業内研修の場合には、ひな型をそのまま使った場合に、実際の契約で起きかねないトラブルと回避方法

その他 「コンプライアンス全般(基本的なところから)」

「法律の基礎知識(契約・印鑑などの基本から債権回収の基本まで)」

契約書のひな型は、そのまま使うものではありません

11月下旬になりますが、未だ、東芝会計問題、三井不動産レジデンシャル・旭化成建材データ改ざん問題は、全容が解明されません。
どこまで発展するのか気になるところです。
年内に落ち着いたところで、一度まとめてみようと思います。

さて、今回は、いつもと違って「契約書のひな型」の話をします。

「契約書のひな型」は、そのまま使うものではない

どこの企業、どの取引でも、合意が成立したら「契約書」「合意書」の類を締結します。
定型的な契約内容であれば、「定款」になっていたり、社内に「契約書のひな型」が存在することもあるでしょう。

「契約書のひな型」について、現場で間違えた理解があるようなので、あえて言いたい。
契約書のひな型は、そのまま使うな、と。

先日、ある取引分野に関する契約書に関するセミナーを行いました。
セミナーのテーマは、よくある既存の契約書が抱える問題点やトラブルを引き起こす課題を実例に照らして説明し、そうした問題点やトラブルを回避するためには、契約書をこうやって修正したほうがいい、という提案をするものでした。

セミナー終了後のアンケートを拝読すると、9割以上の方が参考になった、わかりやすかったと感想を追加してくれていたので、趣旨を理解しくれてよかったと安堵していました。
しかし、1人だけ、「契約書のひな型や大手企業からもらう契約書と違うので参考にならない」という趣旨の感想を書かれた受講者の方がいました。

唖然としました。
過去に何度も同じテーマのセミナーを行ってきて、初めて見る感想だっただけに、なおさら、でした。

どうして、この方はこうした感想を書かれたのだろう?と考えてみました。
私なりに考えた推論は「契約書のひな型や取引先からもらった契約書の文案を修正してはいけないと誤解しているのではないか」「契約書の文言一つ一つについて交渉したことがないのではないだろうか」ということです。

「契約書のひな型」は、あくまでも「ひな型」

契約書のひな型は、毎回1から起案していたのでは時間がかかるから、時間と労力を節約するために作成されたものです。
絶対的なルールではありません。

契約書は、当事者同士が合意した内容や取引条件を紙に記録して証拠化したものです。
あくまでも、当事者が合意することが大前提です。

合意するときに、トラブルを想定する。
その想定されたトラブルを回避できるような取引条件を付ける。
その取引条件を契約書に反映させる。
ひな型がある場合には、ひな型を修正する。
この修正を巡って、当事者同士が侃々諤々やり取りする。

これが契約の醍醐味です。
契約書のひな型に記載されている、取引の数字や納期を調整するのが契約交渉ではありません。

「契約書のひな型」の修正に取引先が上場企業だろうが中小企業だろうが個人事業主だろうが関係ない

上場企業や大手企業が「ひな型」を持っていて、契約の場で「これが取引条件だ、よろしく」と突きつけてくることは、よくあります。
「○○社から、こんな内容の契約書をサインしろと言われてるんですが、なんとかできませんか」と相談にいらっしゃる企業さんは、いつものことです。
むしろ、そういって悩んでいるからこそ、相談にいらっしゃるのです。

相手方が上場企業や大手企業であろうと、呑めない内容には承諾しない。
だからといって、全面的に反発したら、取引自体がなかったことになってしまって、売上がなくなる。
この矛盾を調整するために、契約書のひな型の中で、どこが譲れない部分なのか、どこが譲れる部分なのかを一つ一つバラバラにして考える。
そのうえで、譲れない部分について、相手が修正に応じてくれそうな部分はどこだろうか、どの表現なら修正可能だろうか。
こういう検討作業を行うのです。

反対に、自社が「ひな型」を提示する場合には、相手方に「ひな型」を提示する前に、同じ作業を行うのです。
自社にとって強みを持たせたい条項があるとしたら、「ひな型」を思いっきり自社に有利な内容に変更してみる。
そのうえで、相手と交渉して譲歩するか、そのまま押し通すか考える。
こちらは散々悩んで追加条項が、意外とノーチェックでスルーされて承諾されることさえあります。

「今までどの契約書でも見たことがないけれども、今回の取引のためには、この条件を入れておきたい」
こういう思いがあるときには、それを条項にして、新しく契約書に追加する。
こうしたことを積極的に試みる必要があります。

取引先が上場企業だろうと中小企業だろうと個人事業主だろうと関係ありません。
また、取引内容が、何を対象とする取引だろうと関係ありません。

「契約書のひな型」のひとり歩き

「ひな型」を作った人は、以上のような理解のもとで作っています。
しかし、いつしか、その「ひな型」の背後にあるものが忘れ去られ、「ひな型」が所与のもの、不動のものとして、ひとり歩きしているのが現状です。

一昨年、30年以上前に日本にM&Aに関する契約書の「ひな型」を一番はじめに紹介したという方にお目に掛かったときに、同じことを感想として漏らしていらっしゃいました。
「ひな型を作成したときには、どこの会社にも共通するようにあえて抽象的な内容で書いて、現場で具体的な内容に変更してもらえると思っていた。しかし、その意図を理解してもらえず、抽象的な内容のまま利用され、それが一般的なひな型として浸透してしまって残念だ」という趣旨のことをおっしゃっていました。

「ひな型」は、与えられたものではなく、あくまで時間を節約するためのものだと理解してください。
スーツでいえば、オーダーメイドは時間と費用と労力がかかるので、イージーオーダーとして「ひな型」を作ったにすぎません。
「ひな型」は決して既製服ではありません。
既製服ですら、お直しはできます。

ビジネスの現場で、そのお直しすらしないのですか?ということです。

危機管理広報の成り立ちなど

マンションのくい打ち問題は、まだまだ続きがありそうです。
そのため、くい打ち問題についてのレビュー第2弾は、もう少し経過を見てから書きます。

先日、同業者と飲み会をしていたときに、私の仕事内容が通常イメージする弁護士の業務=訴訟業務と違いすぎるということで、色々と質問されました。
そこで、今回は、「危機管理って何?」「なんで、危機管理広報を、やることになったの?」という、素朴な質問に回答しようと思います。

私が危機管理広報をメインにするようにした成り立ちと言い換えることができます。

辞め検(ヤメ検)の「危機管理」とは何が違うのか

最近では、元検察から弁護士に転向した、いわゆる「辞め検(ヤメ検)」の弁護士の方々が「危機管理」を業務内容としてアピールしているのをよく見かけます。
おそらく、元検察という経歴から察するに、「企業不祥事が起きても、いかに刑事事件にならないようにするか」というところに主眼があるのではないかと思います(あくまでイメージです)。

「いかに刑事事件にならないようにするか」は、私が考える「危機管理」ではありません。
それは、私の中では、刑事弁護でしかありません。
より広い意味では、予防法務ではあるかもしれません。

私が考えている「危機管理」は、企業が社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すためにはどうしたらいいか、そもそも信頼を失わないようにしないためにはどうしたらいいか、に主眼を置いています。
社長であろうと従業員であろうと誰かが逮捕されるべきケースでは、逮捕され起訴されるべき、と思っています。
むしろ、逮捕、起訴されてでも、企業の中で変えていかなければならない部分は変えていこうと考えながら、アドバイスしています。
その点では、ヤメ検の「危機管理」とは、真逆かもしれません。

民暴の「危機管理」とは何が違うのか

一方で、民事介入暴力を専門にする弁護士の方々も「危機管理」という言葉を用いられます。
私の「危機管理」は、民暴の「危機管理」そのものではありませんが、どちらかというと、こちらに近いです。

民事介入暴力の「危機管理」は、企業が反社会的勢力やクレーマーから不当な要求をされたときに、いかに屈しないか、に主眼を置いています(私も過去に民暴委員会に籍を置いていました)。
これは、私が考えている「危機管理」の中に含まれます。

企業が不祥事を起こした場合に、企業は社会からの信頼を回復する、信用を取り戻す必要がある。
そのためには、株主や機関投資家や消費者や地域の意見を聞かなければならない。
その中で真っ当な意見があれば組み入れるけれども、すべて言うがまま、言いなりになるわけではない。
この言うがまま、言いなりになるわけではないというのは、民暴の「危機管理」と共通しています。

言うがまま、言いなりになるわけではない、というところの延長に、あくまでも会社の意思決定を行うのは、会社の取締役・取締役会である、という発想があります。

どういう成り立ちでの「危機管理」か

私が考えるところの「危機管理」は、社会からの信頼を回復する、信用を取り戻すための手段を講じるべきというところに主眼があります。
このベースになったのは、不当なクレーマーへの対応、土壌汚染をきっかけとした住民説明会、株主総会での取締役の説明義務、IR型の出資者(株主)に説明することに主眼を置いた株主総会への移行、企業の社会的責任が問われるようになった時代背景、個人情報漏えいでの被害者向け説明、マスコミへの取材対応などでの経験です。

弁護士である以上、法律で禁止されていることは企業活動でも禁止される、というところからスタートするのは当たり前です。
しかし、コンプライアンスという言葉が2000年以降に言われるようになった当初は、「法律をまもって、会社が潰れる」とも揶揄されました(今でも言っている人はいます)。
それも、違うだろ、と。

法律は守らなければいけない。でも、法律が定めていない中で企業にはできることがあるだろう。
まして、企業不祥事が起きたときには、会社が信頼を回復する、信用を回復する、ファンを失わない。そのために、できることは、山ほどあるではないか。
企業が不祥事を起こしたときこそ、マーケティングの手法などを積極的に活用すべきではないのか。
松下電器(現パナソニック)の石油ファンヒーターの大規模リコール事件のときに行われていた回収のために、次から次へと出てくる方策を見て、その思いは強くなりました。

ましてや、先に挙げたような経験を通じて、回答として期待しているのは、法律の話ではないことを体感しました。

そこからスタートしたのが、私が考えているところの「危機管理」の具体的な中身です。
一見するとコンサルティングのように誤解されるかもしれません。
しかし、あくまでもベースは、弁護士の立場からの発想です。

ベースは「戦略法務」

むろん、私ひとりで勝手に思い至ったのではなく、私が師事した中島茂弁護士が、日本で一番最初に提唱した「戦略法務」の考え方がベースになっています。
ちなみに、「戦略法務」という言葉は、今では広く使われるようになっています。
しかし、その内容を、企業には戦略目的があり、目的を達成するためには色々な手段があり、その中で法的手段をも使おう、と、広く企業戦略の一つに法務を位置づけているのは、中島茂弁護士だけだと思っています。

「危機管理広報」で考えていること

私が「危機管理」の一つとして行っている「危機管理広報」は、こうした「戦略法務」の考え方をベースにしているものです。

企業が不祥事を起こしたときには、目的は、信頼回復、信用回復、さらには、現在進行形の不祥事の拡大防止や被害の拡大防止などがある。
その目的を達成するためには、いろいろな手段があり、それを考えていこう。
その手段の一つとして用いるべき「広報」が「危機管理広報」である、という考え方です。

単に「訴訟になったときに不利にならないような説明をしよう」「責任を負わないような言葉選びをしよう」とは、発想の原点が違います。

あくまでも、目的達成のために必要なことを世の中や消費者にアピールして伝える、というところから、発想します。
法的責任を免れても、企業がマスコミから叩かれたら意味がない。消費者が離れていったら意味がない。
守るべきものは、社長以下役員の首ではなく、あくまで会社である。
もっと言えば、会社を取り巻く、株主、投資家、消費者、取引先、社会、従業員が守るべき対象である。
この思いに立った上で、今のタイミングで全部情報を隠さずに開示すべき、次の発表はこのタイミングで行うべき、発表を行う前にこの取引先などには事前に根回ししておくべき、軽々しい言葉選びをすると法的責任を認めて争う余地がなくなるので、同じ内容を言うにしても違う説明の仕方ができるのではないか、社内でもこういう言葉で説明すれば役員の理解が得られるのではないか、などのアドバイスをしています。

マンション問題に見る、危機管理の対応窓口は一元化すべき

マンションの基礎工事に虚偽のデータを使用

大型マンションの基礎工事をする際、実際に施工した業者が地盤調査を実施しないまま、虚偽のデータを用いて工事をし、マンションが傾く事態になっていることが問題になっています。

「三井不動産グループ(※三井不動産レジデンシャル)が2006年に販売を始めた横浜市都筑区の大型マンションで、施工会社の三井住友建設側が基礎工事の際に地盤調査を一部で実施せず、虚偽データに基づいて工事をしていたことが13日分かった。複数の杭(くい)が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となっている。」
「住民側の指摘を受け、三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が調査を開始。傾いたマンションの計52本の杭のうち28本の調査を終えた時点で、6本の杭が地盤の強固な「支持層」に到達しておらず、2本も打ち込まれた長さが不十分であることが判明した。傾きの原因の可能性がある。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

実際に、施工した会社は、三井住友建築から下請した、旭化成の子会社の旭化成建材であると報じられています。

対住民との関係では、販売元が責任を負うべし

住民に対してマンションを販売したのは、三井不動産レジデンシャルです。
そのため、住民に対しての責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負います。

三井不動産レジデンシャルは販売元にすぎず、施工業者は三井住友建設、実際に施工したのは旭化成建材です。
しかし、住民からすれば、誰が建てたのかは関係ありません。
住民の立場で考えれば、「三井不動産レジデンシャルから買ったマンションに問題があったのだ。マンションの購入代金は三井不動産レジデンシャルに支払った。三井不動産レジデンシャルが責任を取れ。」となるはずです。
そのため、対住民の問題は、三井不動産レジデンシャルが矢面に立つべきです。

焼肉酒家えびす事件

参考になる事件を一つ紹介します。
2011年5月に発生した、焼肉酒家えびすが店舗で提供したユッケを食べたお客さんが食中毒になり、そのうち5人が死亡するという事件です。
最終的に、焼肉酒家えびすは破産しました。

破産に至るまで焼肉酒家えびすがバッシングされた理由は、初めの社長記者会見で、社長が食中毒での死亡者に対してお詫びをしなかったことと、食中毒の原因が肉の卸業者にあると説明したことです。
お客さんの立場で考えれば、「焼肉酒家えびすでユッケを頼んだら食中毒になった。食事の代金は焼肉酒家えびすに支払った。焼肉酒家えびすが責任を取れ。」となるのです。
ところが、焼肉酒家えびすは、そうではなく、卸業者に責任を押し付けようとした。
責任を他社に押し付けたことで、批判が殺到したのです。

「被害者」意識は危機管理を失敗させる

不祥事の相談を受けていると、「うちの会社に責任はない。うちの会社は被害者です。」という意識を持っている企業が少なからずいます。
しかし、危機管理対応として「自分たちが被害者」との意識を持っていると、必ず失敗します。

焼肉酒家えびすの件は、その典型です。
ユッケを提供し、それにお金をもらっているのは、焼肉酒家えびすです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、焼肉酒家えびすです。

今回のマンションの件でも同じです。
マンションを販売し、それにお金をもらっているのは、三井不動産レジデンシャルです。
だとすれば、お客さまへの責任を負うべきは、三井不動産レジデンシャルです。
施工会社が三井住友建設、実際の施工業者が旭化成建材であると説明する中で、「自分たちは被害者です。自分たちには責任がない」という意識や姿勢を見せた段階で、住民からの信頼を失います。

その点で、三井不動産レジデンシャルが、さっそく住民に対して説明を行っているのは評価できるところです。

「三井不動産レジデンシャルは住民への説明会を始めており「あってはならないことで申し訳ない」と陳謝。施工不良は8本という前提で構造計算をし直した結果「緊急を要する危険性はない」と説明している。」(日本経済新聞2015年11月14日付朝刊)

各関係企業の姿勢がバラバラでは住民の不信感を募らせる

先に書いたように、住民への責任は、販売元である三井不動産レジデンシャルが負うべきです。
つまり、責任の負い方は三井不動産レジデンシャルが自ら決すべきです。
責任の内容を決めるのは、三井住友建設でも、旭化成建材でもありません。

もちろん、その後の求償、役割分担のことを考えれば、三井不動産レジデンシャル、三井住友建設、旭化成建材の間で協議することは不可避です。
しかし、その場合でも、実現困難な責任の負い方にならないかどうかを協議すべきであって、責任の押し付け合いになることは避けなければなりません。
また、三井不動産レジデンシャルが責任を負うことを決めれば、三者間の役割分担や費用分担は後から決めたって言い訳です。
極端な話を言えば、三井住友建設や旭化成建材が協力しない、費用負担しないと拒否するのであれば、三井不動産レジデンシャルは他の業者に依頼して建て替えなりを先に行い、後から求償するということがあってもいいのです。

報道内容からすると、一見、三者の対応は同じ方向を向いているように思えます。

「横浜市都筑区の大型マンション基礎工事で虚偽のデータが使われた問題で、販売元の三井不動産レジデンシャルが、傾いた棟の建て替えも視野に検討を始めたことが14日分かった。施工会社の三井住友建設とともに年内に復元工事の方法を決める。この日、両社の幹部がマンションを訪れて改めて住民に謝罪、補償問題に誠実に対応することを約束したという。」(日本経済新聞2015年11月14日付夕刊)

「旭化成によると、傾いた建物の補強や改修、ほかの棟の調査にかかる費用は旭化成建材が全額を負担する。旭化成は「信頼を損なう結果となったことを深く反省し、心よりおわびする。居住者の安全を最優先に、売り主の三井不動産レジデンシャル、施工会社の三井住友建設と協力して、しかるべき対応をとる」としている。」(日本経済新聞2015年11月15日付朝刊)

「三井不動産レジデンシャルは今月上旬から住民向け説明会を開始。当初、今後の対応は「検討中」などとしていたが、15日には一転、傾いた1棟だけでなく全4棟を建て替える案を住民側に提示した。今回の問題で住民に発生する損害の補償にも対応するとしている。」(日本経済新聞2015年11月20日付朝刊)

その一方で、三者が責任を負うことについて一枚岩ではないかのような報道もされています。

「各社の主張はすれ違いを見せており利害が対立する可能性もある。住民への補償にも影響が出そうだ。
20日の記者会見で旭化成の平居正仁副社長は、データ改ざんの背景にマンションの販売業者や元請けから「工期を守れ」などの圧力があったかについて「当時は少しでも早くという状況はあった」と述べ、プレッシャーの存在を示唆した。
旭化成建材の商品開発部長は、杭(くい)が地中の支持層へ到達したかを担当者が見極める際「(三井住友建設が作製した)設計図を大前提にした」と話した。三井住友建設の設計図に不備があったことが短すぎる杭がいくつか出てきた原因だという考えだ。「非はゼネコンにもある」と漏らす旭化成幹部もいる。
三井不動産レジデンシャルの親会社、三井不動産幹部は「まさか地中奥深くに入っている、杭の打ち込みが不十分だとは思わなかった」と旭化成建材のデータ改ざんにあきれる三井住友建設も「下請けからあがってきた改ざんは見抜けない」という立場だ。」
旭化成の浅野敏雄社長も20日の記者会見で、三井不動産レジデンシャルが示した全4棟を建て替える費用について「売り主、施工会社と誠意を持って協議していきたい」と述べるにとどめ、旭化成側が全額を負担するとの考えは示さなかった。」(日本経済新聞2015年11月21日付朝刊)

このような報道がされてしまうのは、責任の負い方について説明する企業が一元化されていないのも一因です。
関係企業がそれぞれ大きな会社ではありますが、住民への責任の負い方という点では、三井不動産レジデンシャルに一元化して広報対応もすべきです。
対外窓口を一本化することは、企業危機管理の基本です。
仮に複数の企業が関係している場合でも、特定の企業を窓口にすべきです。
そうしないと、情報が錯綜してしまうからです。
上記のような報道がなされてしまうのは、まさに対外窓口が一本化されていないから起きたことです。

報道によると、27日に三井不動産レジデンシャルから責任の負い方が発表されるそうです。
その時点でも、責任の負い方について関係企業が一枚岩になっていないときには、住民からは「責任をなすりつけあっているだけではないか」と批判され、住民からの信頼を失うことは必須だろうと思います。

公務員との付き合い方~注意すべきは贈収賄だけではない

厚労省での収賄事件

マイナンバー制度の導入に関して、厚労省の室長補佐が収賄の被疑事実で逮捕されました。
報道によると、事件の概要は次のとおりです。

「逮捕容疑は2011年11月、マイナンバー制度導入に絡み、社会保障データをめぐる厚労省の調査研究事業など2件で、情報関連会社が受注できるよう有利な取り計らいをした謝礼と知りながら、同社の当時の社長から現金100万円を受け取った疑い。」
「捜査2課によると、同容疑者は公示前、受注の要件を定めた「仕様書」を作成するにあたり、同社に仕様書の原案を作成させるなどして便宜を図ったとされる。同容疑者は当時、社会保障担当参事官室の室長補佐で仕様書の作成で中心的な役割を担っていたという。」
厚労省によると、情報関連会社は逮捕容疑の2件を含め、08年度から15年度までに同省から7件で計約15億円の事業を受注している。」(日本経済新聞2015年10月14日付朝刊)

この事件では、受注できるように有利な取り計らいをしてもらった謝礼を交付したことで、贈収賄が問題になりました(贈賄側は公訴時効が成立しています)。

この事件が発生した現時点で他の企業が学ぶべきことは「公務員との付き合い方」です。
簡単に言えば、公務員に対する金銭の交付はもちろんのこと、受注に向けた営業活動などはどこまでできるのかという限界を知ることです。

公務員との付き合い方に関する規制その1~贈収賄~

企業と公務員との付き合い方に関する規制として、第一に思い浮かべるのは、贈収賄でしょう。

「職務行為」の範囲

例えば、今回の事件のように、発注者側の中心的な役割を担っていた公務員が、受注の便宜を図るのは、公務員の職務行為の典型です。
こうした公務員の職務行為に関して対価を企業が交付する。あるいは公務員が対価を要求する。
単純贈収賄の典型です。
5年以下の懲役です。

それ以外にも、「職務に密接に関連する行為」に対して、企業が対価を交付することや公務員が対価を要求することも単純贈収賄になります。

公務員が職務に基づいて事実上影響力を持っている場合が「職務に密接に関連する行為」です。
例えば、公務員が他の公務員に働きかける行為が、ここに含まれます。

企業からすれば、従前から取引を通じて付き合いのある公務員に依頼して、別の取引を担当する公務員を紹介してもらいたい、取引の受注に向けて口利きをしてもらいたい、と思うこともあるでしょう。
このような他の公務員を紹介してもらったり、口利きをしてもらうことも、「職務に密接に関連する行為」に含まれます。
そのために、紹介や口利きしてもらったことに対して、謝礼の意味などで「対価」を交付すると、贈賄罪になってしまうので、注意しなければなりません。

「対価」の例

「対価」は、金銭に限られません。
物品の贈与、接待、一席設ける、異性間の情交なども「対価」です。

ただし、過去の裁判例では、お中元やお歳暮の類は、社交儀礼の範囲内であれば、「対価」ではない、と判断されています。
そうはいっても、お中元やお歳暮なら必ず許されるわけではなく、あくまでも、社交儀礼の範囲内、という縛りがあります。
お中元やお歳暮で贈る物が高価な物であったり、何度も繰り返しお中元やお歳暮を贈っている場合には、職務行為の「対価」と判断されてしまいます。

企業からすれば、お世話になった公務員やこれから付き合いが始まるであろう公務員にお中元やお歳暮を贈ってお近づきになりたい、と思うこともあるでしょう。
しかし、その場合も、社交儀礼の範囲内か、要は、取引もない間柄のときでも、そういった物を贈るだろうか、ということを配慮しなければなりません。

公務員との付き合い方に関する規制その2~国家公務員倫理規程~

贈収賄以外に見落としてはならない規制があります。
それは、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程です。

これらは「国家公務員はこういうことをしてはいけない」と、あくまでも国家公務員を律する規制です。
違反して処罰されるのは、国家公務員だけです。
しかし、国家公務員に接する企業側が、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程を守らなければ、その企業は国家公務員の側からすれば迷惑きわまりない存在です。
国家公務員に「この企業のせいで処罰されることになった」「あの企業と接すると、まずいことに巻き込まれる」と受け取られたら、その企業は二度と国と取引することはできなくなるでしょう。
そのため、企業は、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程についても熟知しておかなければなりません。

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程のYoutube解説

企業が国家公務員倫理規程の内容を勉強する教材としては、Youtubeの存在があります。
国家公務員倫理審査会が、Youtubeに「事例で学ぶ倫理法・倫理規程」という動画をアップして、細かく解説しています。
https://www.youtube.com/user/koumuinrinri

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の概要

国家公務員倫理規程は、大きく分けると3つの方法で、企業と国家公務員との付き合い方を規制しています。

1つめは、絶対に禁止される行為です。
2つめは、利害関係があるときに禁止される行為です。
3つめは、2つめの例外で、利害関係があっても許される行為です。

絶対に禁止される行為

絶対に禁止される行為の典型は、社会通念上相当と認められる程度を超えた接待や財産上の利益の供与です。
金額面でも、回数でも、「(営業活動として)やり過ぎでしょ」という場合には、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反とされます。
この場合には、贈収賄の場合と異なり、職務行為との対価性は要求されません。

企業側は営業活動ということで、高級な料亭で接待に行く、接待を頻繁に繰り返すなどすると、贈収賄には問われなくとも、営業の相手が国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程違反で処罰されてしまうことを理解しておくべきです。
そうしないと、過度の接待をしたということで、担当となる公務員が処分されいなくなり、結局、過去の営業活動が無意味になってしまうからです。

また、「つけ回し」も絶対に禁止されます。
「つけ回し」とはストーカーの意味ではありません。
「うちの会社のつけで飲んで良いですよ」などと、企業側の担当者が不在でも公務員が企業の費用負担で飲食することを認めることです。
これも、企業から公務員に金銭を交付しているのと同じことになるので、許されないのです。

利害関係があるときに禁止される行為

国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程の中心となっているのが、この「利害関係があるときに禁止される行為」です。

例えば、企業が入札しようとしている取引がある、企業が許認可をもらおうとしている状況にある。
このような場合が、「利害関係」があるときの典型です。

このような「利害関係」があるときには、次の9個の行為を禁じられてます。

  1. 公務員への金銭、物品、不動産の贈与
  2. 金銭の貸付け
  3. 企業側の負担での、無償での物品・不動産の貸付け
  4. 企業側の負担での、無償でのサービス提供
  5. 未公開株式の提供
  6. 接待
  7. 遊技・ゴルフ
  8. 一緒に旅行
  9. 企業が第三者に、1~8の行為をさせること

この中で、よく質問を受けるものを説明します。

1の金銭、物品の贈与の典型は、香典や供花です。
例えば、取引担当者の親族がなくなったので、香典を出す、花を供えることは禁止されています。

3と4の企業側負担での無償の物品の貸付け、サービス提供で問題になるのが、企業側が公務員のタクシー代を負担する、公務員のためにハイヤーを用意するケースです。
この場合も、公務員側はタクシー代、ハイヤー代など必要な旅費を支給されるはずなので、企業側は負担できない、用意できないのが原則です。
しかし、例えば、公務員が企業の工場を視察することを予定し、企業側は日頃から工場と駅や空港間に専用バスや専用の社用車を用意しているときには、わざわざ「公務員のために」用意したわけではないので許されると考えられています。
また、例えば、駅から離れた場所にある企業内で公務員と打ち合わせをした後、たまたま企業側で駅や空港に行く者がいたときに企業側がタクシー代を負担するようなときにも、わざわざ「公務員のために」費用を負担したわけではないので許される、と考えられています。

6の遊技はソフトボールやテニス、ボウリングは含まれないと考えられています。なぜなのかはわかりません。

利害関係があっても許される行為

2の例外が、利害関係があっても許される行為です。
例えば、元々、大学時代から付き合いがある友人が、国家公務員になり、自社が取引しようとする部門の担当になった。
この場合に、友だちづきあいは一切禁止されるのか、というと、そういうわけではありません。

利害関係があっても許される行為とされているのは、典型的には、次の8つです。

  1. 宣伝用・記念品などのノベルティを配布
  2. 20人以上が出席する立食パーティでの記念品の贈呈
  3. 公務員が企業を訪問したときに、文房具や電話、ヘルメットを貸す
  4. 公務員が企業を訪問したときに、企業側が用意した自動車を利用
  5. 会議での茶菓子の提供
  6. 20人以上が出席する立食パーティでの飲食物の提供
  7. 会議での簡素な飲食物の提供
  8. 私的な関係でのつき合い

この中でよく質問があるのが、2と6です。
立食パーティは許されるとして、椅子に座ったらどうなるか、ということです。

立食パーティが許されるのは、みんなの見ている前では不正なことは行われないだろう、という理由からです。
そこで、椅子に座っていた場合でも50人以上なら許される、と考えられています。

また、5と7の茶菓子や簡素な飲食物の提供も、接待にならない程度であれば、利害関係があるときに許される、と考えられています。
接待にならない程度というのは、国家公務員側は1万円を超える場合には届け出なければならないとされているので、1万円が一つの目安です。
あえて「簡素」ということを考慮すると、昼食の弁当や茶菓子が3000円を超えている場合も、簡素とは言いがたいとは思います。

8の私的な関係も、大学時代に同級生だった、しかし、大学卒業後付き合いはなく、取引しようと思ったら同級生であることがわかったという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。また、近所づきあいという点でも、日頃はつき合いがなかったのに、取引しようとしてから急に近所づきあいをしだしたという場合には、「私的な関係」よりも「利害関係」が上回るので許されないと考えられています。

4の企業側が用意した自動車の利用は、利害関係があるときに禁止される行為で説明したとおり、企業側が「わざわざ負担した」場合は許されません。

地方公務員、準公務員も同じ

以上は国家公務員に対する企業の接し方を中心に説明しました。
これは、企業が接する相手が地方公務員である場合や準公務員の場合でも同じです。

地方公務員の場合には各地方公共団体が独自に規程を定めているので、どこまでが許され、どこからが許されないかは、都度確認する必要があります。

また、独立行政法人、例えば昔の国立大学なども、同じような規程を定めていますので、都度確認する必要があります。

要注意!法律や規程を守っていれば、何をしても許されるわけではない

以上のように、企業と公務員との接し方には、法律や規程といったルールが存在します。
しかし、これらのルールを守っていれば、それで許されるわけではありません。
社会の目を意識しなければなりません。

世の中から「あの企業は公務員と癒着している」「公務員とズブズブの関係だ」と批判されてしまえば、その後、国や地方公共団体との取引をやりにくくなります。
また、何も違法性がなくても「倫理上問題ではないか」との批判を招けば、企業の見られ方が変わってしまいます。
企業としては、あらぬ誤解を受けないように、公務員との接し方には慎重になる必要があります。

東洋ゴム工業問題の本質と広報の遅さ

東洋ゴム工業の性能偽装問題、何が問題か

性能偽装問題の概要

東洋ゴム工業が3度目の性能偽装をしていたことが2015年10月14日に明らかになりました。
今回は、2005年以降、子会社である東洋ゴム化工品が製造した鉄道車両や船舶の揺れを緩和するために使用される防振ゴムを、東洋ゴム工業は、材料試験を行わないまま、あるいは強度などの性能について虚偽のデータで出荷していたことというものです。
中には、強度の性能が10%に満たない製品もあったと報道されています。

詳しい経緯は、こちら(pdfファイルです)

3度の性能偽装は、東洋ゴム製品の安全性についての信用を低下させる

これで、2007年に耐震パネル耐火性能偽装問題、3月に大臣認定不適合の免震ゴムを出荷していた問題に続く3度目の性能偽装です。
今回の不正発覚は、以下のとおり3月の免震ゴム問題を受け、国内で緊急品質監査を実施して安全宣言をした直後に発覚したものです。

「3月の免震ゴム問題を受け、東洋ゴムは5~7月に国内外全23拠点で緊急品質監査を実施。8月10日に防振ゴムを含む製品で「正規品が出荷されていることを確認した」と対外的に“安全宣言”をしていた。」(日本経済新聞2015年10月15日付朝刊)

それだけに、3月の免震ゴムをきっかけとして行われた緊急品質監査が十分なものであったのか、そもそも過去の2度の性能偽装を会社として真摯に受けとめていたのか、疑問を抱かずにはいられません。

まして、問題が発生したのは、耐震パネルの耐火性能、免震ゴムの性能、鉄道車両や船舶に使用される防振ゴムの性能です。
いずれの製品にも共通しているのは、エンドユーザーの生命や身体に危害を生じさせる可能性があるということです。

そうなると、「東洋ゴム工業はエンドユーザーの生命・身体の安全を念頭に置いていないのではないか」という素朴な不信感も生まれかねません。
例えば、東洋ゴム工業の製品のうち消費者にとって身近な自動車用タイヤについても「安全性は大丈夫なのか」と信用を失い、商品を購入しなくなる消費者が現われる可能性も否定できません。

謝罪会見は本質に答えていない

今回の事件発覚後、東洋ゴム工業は、法令遵守を担当する常務執行役員と防振ゴム事業を担当する常務執行役員が記者会見を行いました。
ここも本当であれば、免震ゴム問題をきっかけに新体制を担うことになる、社長就任予定の常務執行役員が出席すべきです。
そのうえで、社長就任に向けての覚悟を語るべきでしょう。

また、記者会見で発せられた内容のうち、謝罪に関する言葉については、次のように報じられています。

「皆様に多大な心配と迷惑をかけ、誠に申し訳ありません」
「免震ゴム問題で再発防止を誓う中、許されざる行為であり、会社として重く受け止める」
「技術者の倫理意識が欠如している。再生に向け真剣に考えたい」 (日本経済新聞2015年10月15日付朝刊)

これはこれで、謝罪するために必要な内容を含んでいます。
ただ、今回は3度目の不正、しかも安全宣言直後に性能に関する不正が発覚した、という会見です。
そうだとすれば、「エンドユーザーの生命・身体の安全性を脅かす事態である」という、製品の安全性に向き合う会社の姿勢を認識した言葉が欲しかったところです。

従業員コンプライアンス研修が不正発覚に役だった

ただ、東洋ゴム工業が信用を取り戻すための光明がないわけではありません。
今回の防振ゴムの性能偽装が発覚したきっかけが、従業員に対するコンプライアンス研修の成果と言えるからです。

東洋ゴム工業は3月の免震ゴム問題をきっかけに、8月18日、19日に従業員に対してコンプライアンス研修を行った結果、翌8月20日に従業員から今回の防振ゴムの性能偽装について内部通報があり、不正が発覚したそうです。

研修の翌日に内部通報があるということは、滅多にあるものではありません。
従業員は、内部通報することで自分の身がばれることへの不安、通報によって会社に迷惑がかかるのではないかという不安、通報した結果として不利益に取り扱われるのではないかという不安を抱えているからです。
ところが、今回は、その不安を乗り越えて、翌日に内部通報する従業員が現われた。

会社のことを考え、エンドユーザーの生命や身体の安全を考える従業員がいるという点では、会社が信用を取り戻す可能性は十分にあると思います。

危機管理広報の遅さ

東洋ゴム工業の過去の2度の不正でも、今回の防振ゴムの性能偽装でも指摘されているのが、広報の遅さです。
会社が不祥事を起こした際の危機管理広報のタイミングの鉄則は「できる限り即日」です。

3月の免震ゴム問題は、会社が問題を認識してから3月に公表するまで1年半を要したことが批判の対象とされました。
その後、当時の会長、社長を含む取締役5人全員が責任を取って辞任しました。

今回の防振ゴムの性能偽装については、8月20日に内部通報がありました。
もちろん、内部通報はすべて正しいものではないので、ある程度は、社内調査を行うことは必要です。
それにしても、内部通報があってから公表まで2か月弱を要しています。

また、2015年10月14日に公表したにもかかわらず、東洋ゴム工業のウェブサイトのトップページは、10月16日時点で、3月の免震ゴム問題についての謝罪が掲載されているのみです。

TOYO TIRES企業サイト|東洋ゴム工業株式会社

10月14日に3度目の性能不正について公表したのであれば、ただちに、トップページを防振ゴムの性能偽装に関するものに差し替えるべきです。
こうした事実も、社内で横の連携がとれていないのではないかと、組織体制についての信用性を低下させる要素の一つになってしまいます。

「監査役」と「監査等委員である取締役」に求められる資質・能力の違い

監査等委員会設置会社への移行

改正会社法によって「監査等委員会設置会社」という機関設計が認められました。
平成26年6月の定時株主総会を機に、従来の監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した会社がいくつも現われました。
その後も、監査等委員会設置会社に移行する会社が現われています。

監査役会設置会社の何が問題か

従来多くの会社、特に上場企業が利用していたのは「監査役会設置会社」です。
これは、株主総会が取締役と監査役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあう。
監査役会は3人以上の監査役と2名以上の社外監査役をメンバーとして、監査役一人ひとりが取締役を監査する。
それによって、取締役相互の監視監督と監査役からの監査という二重のチェックで、取締役による不正を正そうとすることを目的としていました。

しかし、監査役会設置会社での粉飾決算の発生や、取締役相互の監視監督・監査役からの監査が十分に果たされていないという声も上がりました。
「仲間内だから牽制が働くわけがない。」「取締役・監査役内にも上下関係があるから監督は期待できない。」と。

こうした声を受けて「社外取締役」を期待する声が挙がるようになりました。
「取締役会での意思決定に「社外取締役」という外部の存在を入れて、チェックをしてもらおう」と。
改正会社法でも、社外取締役を選任しないのであれば、「選任することが相当でない理由」を説明する義務づけています。
しかし、「選任することが相当でない理由」を、毎事業年度、しかも具体的に説明することは相当困難です。
そのため、改正会社法は、社外取締役を事実上の義務づけています。

また、東京証券取引所は、平成26年2月10日から上場規程を見直し、独立取締役を1名以上確保することを要求しています。
さらに、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コード」の中で、独立社外取締役を2名以上選任することを義務づけています。

ところが、監査役会設置会社にしてみれば、社外監査役を2名以上選んでいるのに、さらに社外から独立社外取締役を入れるのは負担です。
社外の者を役員に4名も選ばなければならなくなってしまいます。
従業員が少ない会社であれば、役員ばかりが人数が増えるというバランスを欠く事態にもなりかねません。

そこで、社外取締役を導入するにせよ、渋々導入している様子も伺えました。
(※東証一部上場企業では、88%にあたる1655社で独立社外取締役が選任されています(日本取締役協会調べ))

監査等委員会設置会社への移行が増えた理由

こうした監査役会設置会社にとっての負担を回避しつつ、取締役による不正を正そうという目的にも応えるために、新しく創設されたのが「監査等委員会設置会社」です。

監査等委員会設置会社も、監査役会設置会社と同じように、株主総会が取締役を選び、取締役が取締役会のメンバーとなって、取締役をお互いに監視監督しあいます。
しかし、監査等委員会設置会社には、監査役がいません。もちろん、監査役会もありません。
監査役の代わりに、3名以上の「監査等委員である取締役」を選びます。

「監査等委員である取締役」は「取締役」です。
したがって、取締役会での議決権があり、意思決定・経営判断に参加して一票を投じます。

監査役会設置会社の取締役は、一人ひとりが取締役会でのメンバーであると同時に、業務執行取締役であることがほとんどでした。
しかし、「監査等委員である取締役」は業務執行には携わってはいけません。
もっぱら、意思決定・経営判断にのみ参加します。

また、「監査等委員である取締役」の過半数は社外取締役でなければなりません。
社外取締役が最低でも2人以上、取締役会での意思決定・経営判断に参加します。

これまでの監査役会設置会社は、取締役会での意思決定・経営判断を外部から監査役が監査するという仕組みでした。
これを、業務に携わっていない「監査等委員である取締役」、しかも、そのうち最低2人以上は社外取締役が、取締役会での意思決定・経営判断に議決権を持った形で参加する。
そうした方法で、取締役会での意思決定・経営判断の不正を直接止めることができる、というメリットがあります。

また、監査等委員会設置会社に移行することによって、社外監査役2名のほかに、独立社外取締役を2人以上選ぶという負担をも回避できます。

これらのメリットがあることから、「監査等委員会設置会社」に移行する会社が多くありました。

「監査役」に求められる資質と「監査等委員である取締役」に求められる資質に違いがある

監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行は、実質は、従来の監査役会設置会社の監査役が、監査等委員である取締役への横滑りです。
それによって、改正会社法、東証の上場規程、コーポレートガバナンス・コードなどの要請に応えることもできます。

しかし、内実が、監査役から「監査等委員である取締役」への横滑りで、本当に良いのでしょうか。

監査役は、取締役の意思決定・経営判断、業務執行が違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかなど、法的な観点から、取締役を監視監督していれば十分でした。
そのため、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質が要求されました。

他方、「監査等委員である取締役」は、取締役相互の監視監督することに加えて、取締役会での意思決定・経営判断に参加して議決権を行使します。
「監査等委員である取締役」は業務に携わっていないけれども、他の取締役の意思決定・経営判断のほか、業務執行の状況を監視監督します。
しかも、そこで求められる監視監督は、違法(不法)かそうでないか、必要な手続や議論を経ていないのではないかというだけでは足りません。
「監査等委員である取締役」は意思決定・経営判断には参加するので、他の取締役を監視監督する際には、意思決定・経営判断が妥当・適切なのかどうかをも監視監督しなければなりません。

そうなると、「監査等委員である取締役」に求められる能力や資質は、監査役と「監査等委員である取締役」では、自ずと異なってくるはずです。
「監査等委員である取締役」には、違法(不法)かどうかを見極める能力や資質に加えて、会社の意思決定・経営判断をもジャッジできる能力・資質まで求められるのです。

「監査等委員である取締役」を選任する場合には、そういった資質や能力を有しているかを踏まえて候補者を選び、株主に説明できるように備えておくことが不可欠だろうと思います。

取締役・監査役への研修やっていますか?~コーポレート・ガバナンス報告書の提出期限迫る

「コーポレートガバナンス・コード」と「コーポレート・ガバナンス報告書」の提出期限

東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」が、平成27年6月1日から、すべての上場会社に適用されています。
名古屋証券取引所、福岡証券取引所、札幌証券取引所でも、同じようなコーポレートガバナンス・コードが適用されています。

上場会社は、この「コーポレートガバナンス・コード」に基づいて、「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない義務を負っています。

どうでもいいですが、「コーポレートガバナンス・コード」は「コーポレートガバナンス」と中黒なしで、「コーポレート・ガバナンス報告書」は「コーポレート・ガバナンス」と中黒ありと区別しているのは、なんででしょうね?

話が逸れました。
「コーポレート・ガバナンス報告書」は、平成27年6月1日以降に定時株主総会を開催した日から遅くても6か月経過するまでに提出しなければなりません。
3月31日を事業年度末としている上場会社の多くは、6月下旬に定時株主総会を開催したはずです。
となると、そこから6か月が経過する平成27年12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければなりません。

「コーポレートガバナンス・コード」の特徴

ルールは自分で考えろ

「コーポレートガバナンス・コード」は法律ではありません。
そのため、「コーポレートガバナンス・コード」には、細かいルールは定まっていません。

「コード」、つまり、73個の原則を示し、「あとは自分で考えろ」というスタンスをとっています。
これを「プリンシプル・アプローチ」と言います。

社内でコーポレートガバナンスを徹底するため、わかりやすく言えば、取締役以下の上命下達の仕組み、取締役自身の規律維持、従業員からの報連相の仕組み、会社を支える株主との関係や投資家への情報開示は、自分の会社に合ったものを、自分たちで考えなさい、という大人の対応です。

守らないなら理由を説明せよ

「コーポレートガバナンス・コード」は国が定めたルールではありません。
あくまでも、東京証券取引所という組織が定めた規則に過ぎません。

さはさりながら、上場会社にコーポレートガバナンスを徹底させるための「コード」です。
そこで、「コードに従わないなら、従わない理由を説明せよ」というスタンスをとっています。
これを「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)」と言います。

「自分たちは、コーポレートガバナンス・コードに従わなくても、コーポレートガバナンスが徹底している」と自負があるなら、説明してごらんなさい、という大人の対応です。

「コーポレートガバナンス・コード」では、取締役・監査役への教育・研修が求められている

「取締役・監査役のトレーニング」

「コーポレートガバナンス・コード」の内容の多くは、改正された会社法と重複しています。
しかし、改正会社法より踏み込んだ箇所も何点かあります。
その1つが「取締役・監査役のトレーニング」です。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のようように定めています。

【原則4-14】

新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担うものとして期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切に取られているか否かを確認すべきである。

注目すべき部分にアンダーラインを引きました。

1つは、取締役・監査役は、役割・責務に係る理解を深める、知識の習得や適切な更新等の研鑽に努める、との努力義務を課している部分です。
要するに、取締役・監査役は、自分の役割や責務を勉強せよ、ということです。
簡単に言えば、取締役・監査役は社内外での勉強会やセミナーに出席して勉強しなさい、ということです。

もう1つは、上場会社に、トレーニングの機会の提供・斡旋・費用支援を行う義務を課している点です。
要するに、上場会社が取締役・監査役が勉強する場を設けるか、費用を出しなさい、ということです。

さらには、取締役会は、取締役・監査役の勉強の状況を確認しなければならない義務を負っている点です。
社内外の勉強会やセミナーに出席したことについて、取締役会が報告を受けるか、取締役会で個々の取締役・監査役に勉強状況を確認しなければならない、ということです。

トレーニングのタイミング

こうした勉強が求められるのは、社内の取締役だけではなく、社外取締役・社外監査役も、です。
また、1回だけ勉強すれば、それで十分というわけではありません。

「コーポレートガバナンス・コード」は、次のように定めています。

【補助原則4-14①】

社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役は、就任の際には、会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識を取得し、取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会を得るべきであり、就任後においても、必要に応じ、これらを継続的に更新する機会を得るべきである。

ここでもアンダーラインを引きました。

勉強しなければならない取締役・監査役は、社外取締役・社外監査役も含まれます。
また、勉強のタイミングは、就任時と就任後と両方が求められています。

改正会社法の子会社・グループ会社の内部統制システムを考慮すると・・

改正会社法によって、内部統制システム(業務適性確保体制)の対象が、自社だけではなく、子会社含めた企業集団にまで拡がりました。
つまり、「コーポレートガバナンス・コード」に、会社法の改正内容を併せて読むと、親会社は、自社の取締役・監査役だけではなく、子会社・グループ会社の取締役・監査役にも、就任時と就任後の両方のタイミングで、勉強させなければならない、ということになります。

トレーニングの方針の開示

また、「コーポレートガバナンス・コード」は、取締役・監査役へのトレーニングの方針を開示することも求めています。

【補助原則4-14②】

上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである。

 

「コーポレート・ガバナンス報告書」には、取締役・監査役への研修を記載しなければならない

取締役・監査役への研修をまだ行っていないなら、急がないと提出期限に間に合わない

12月下旬までに「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出しなければならない。しかし、取締役・監査役に対する研修を行っていない。
取締役・監査役に対する研修を行っていない場合には、「コーポレート・ガバナンス報告書」にて理由を説明しなければなりません。
単に「研修を行わなかった」では足りずに、「理由」の説明が求められているのです。
ここを見落としてはいけません。
「2015年は取締役・監査役に対して研修をしなかったけれど、日頃から取締役・監査役がこれこれこういうことを自主的に行ってコーポレートガバナンス・コードに沿ったコーポレートガバナンスを徹底できている」と説明できる会社は、それでもいいかもしれません。
他方で、「研修をしていない」会社、「研修をしなかったけれど、コーポレートガバナンスを徹底できている」とは説明できない会社は、至急で、取締役・監査役への研修を実施しなければなりません。

取締役・監査役への研修の実態

上場会社の皆さん、「コーポレートガバナンス・コード」に沿って、社外取締役・社外監査役を含む取締役・監査役、子会社・グループ会社の取締役・監査役に対して、組織についての知識習得や、役割や責務を理解するための研修を行っているでしょうか。

実際のところ、私の場合は、2015年に入ってから、グループ企業全体の取締役・監査役、さらには執行役員を含む役員一同に対しての集合研修の依頼を受けることが増えました。
また、研修対象としては、役員のほかに管理職も受講させる会社もあります。

では、具体的に、取締役・監査役に対してどのような研修を行った方がいいでしょうか。以下、テーマと誰がやるかについて補足します。

取締役・監査役への研修内容・テーマ

依頼される内容は、「役員が知っておくべき会社法の基礎知識」「取締役・監査役・執行役員の役割と責任」「ガバナンスに関わる会社法改正」が多い部分です。
「会社法の基礎知識」や「役割と責任」からスタートして、最近の企業に関するトラブルのトレンドに関するものを話すときもあります。
個別のテーマでは、個人情報の漏えいを筆頭とした情報管理、多重代表訴訟(特定責任追及の訴え)など役員が責任を負いやすい場合、取締役の監視監督義務違反が問われた裁判例、ハラスメントが多いです。
多くはありませんが、危機管理広報に注目して役員研修をする会社もあります。

取締役・監査役への研修を顧問弁護士以外の弁護士が行ったほうが適切な理由

顧問弁護士はいるけれど、あえて顧問ではない私に研修を依頼していただく企業が、ほとんどです。
顧問弁護士が研修したのでは、会社寄りになってしまい役員にとって厳しいことを言わない、という実態あるのだと思います。

また「コーポレート・ガバナンス報告書」に「外部からコンプライアンスや企業危機管理に詳しい講師を招いた」と記載しやすいからかもしれません。
その方が、投資家には、身内同士でお茶を濁したのではなく、キチンとした研修を行った、と見せやすいからかもしれません。

「危機管理広報の基本と実践」出版

「危機管理広報の基本と実践」出版

前回から一夏超えての久しぶりの更新となりました。
前回のレビューが6月の投稿だったので、4か月ぶりです。

まずは4か月間で一番大きいできごととしては、9月に中央経済社から「危機管理広報の基本と実践」を出版することができました。
私の中心業務である企業危機管理のうち「広報」にだけ焦点を当てました。

不祥事後の記者会見での失敗、プレスリリースでの失敗など、「広報」をおろそかにして企業危機管理を失敗し「炎上」してしまうケースが相次いでいます。
そこで、これまでの危機管理に関する仕事でのノウハウをベースに、各企業にて知っておいて欲しい危機管理広報の基本的な考え方とノウハウを解説しました。

なぜ、弁護士が広報の本を書いたのか

本の中でも触れましたが、なぜ、弁護士が危機管理「広報」の本を書くのか、と思われるかもしれません。

理由を一言で言えば、危機管理時の「広報」、これは、取締役の善管注意義務に含まれるからです。

取締役は、企業価値を高め株価を上げる、売上を上げる、利益を上げることが、「善管注意義務」として求められています。
そのために、取締役は、不祥事を起こさないように予防すること、不祥事が起きてしまったときには最少限度に食い止めることが求められます。

例えば、食品メーカーが異物混入事件を起こしてしまったときに、会社に与える損害を最少限度に食い止める。
そのために、異物が混入していたことについて謝罪し、同時に、社会に「広報」し、異物混入について注意喚起する。

顧客の個人情報を漏えいしてしまったときに、顧客離れを食い止め売上の低下を予防し、かつ、漏えいの被害者から訴訟等を起こされて会社が損害を賠償しないようにする。
そのために、情報漏えいした事故の内容について情報開示し、顧客からの信頼を取り戻すための「広報」をする。

このように、危機管理「広報」は、取締役の善管注意義務に含まれます。
どこまで広報をすれば、善管注意義務を果たしたことになるのか。
どのような広報をすれば、善管注意義務を果たしたことになるのか。
これ以上は広報を求められても回答する法的義務はない。でも、社会的責任の観点からは広報した方がよい。
これらの判断はいずれも、法律問題です。

そこで、弁護士の立場から「危機管理広報」にフォーカスした書籍を出版しました。

広報畑出身の危機管理広報のスペシャリストはたくさんいるかもしれません。
でも、弁護士の立場からのスペシャリストは、私が師事した中島茂弁護士しか知りません。

弁護士の立場からの「危機管理広報」が、広報畑出身のスペシャリストがいう「危機管理広報」とどこが違うのか、読み比べてみてもおもしろいかもしれません。

「月刊広報会議」での連載「リスク広報最前線」もスタート

「危機管理広報の基本と実践」の出版と奇しくも同じタイミングで、「月刊広報会議」の2015年9月号から、「リスク広報最前線」と題した危機管理広報についての記事を連載しています。
月刊広報会議での連載は、毎月1回、その月にあった不祥事に関わる広報について、弁護士の目から見て、危機管理広報として良かったところ、悪かったところを解説しています。

連載開始から、これまで3回記事を書きました。

1回目(2015年9月号)は、トヨタ自動車役員の薬物輸入事件。
2回目(2015年10月号)は、東芝の会計問題。
3回目(2015年11月号)は、オリンピックエンブレム問題。

今後も、トピックなテーマを取りあげて、弁護士の目線で解説していきます。

近況

前回の投稿から久しぶりの投稿です。
前回の投稿はいつだったかな、と振り返ってみたら、1月末でした。
いつの間にか4か月が経過していたのですね。

近況その1・危機管理に関する本の執筆

近況報告も兼ねまして、この4か月間何をしていたのかと言いますと・・

仕事の傍ら、企業の危機管理に関する本を執筆していました。
3月4月に集中して執筆し、5月に修正し、間もなくゲラになるという流れです。
大きな作業は一段落つきましたが、ここからが加筆もありつつ、もう一踏ん張りです。

近況その2・役員向けレクチャーや企業内研修

また、この4か月間は例年以上に役員会議でのレクチャーや企業内研修なども数多くありました。

企業内研修は、コンプライアンス全体についての漠然とした研修は減り、各企業が抱えている課題に応じた研修が多かったように思います。
6月は株主総会シーズンなので一段落しますが、7月8月は新任役員研修などが目白押しです。

3月までの役員会議でのレクチャーは、主に、会社法改正に伴う監査等委員会設置会社への移行やグループ会社管理についてのポイントを解説するものでした。
これから行う役員研修は、改正会社法が施行されたことで、役員は日頃から何をすればよいか、役員会議のあり方の変化や組織体制の変化に関するものが中心です。
もちろん、改正会社法の施行に併せて、社内規程・社内規則の見直しという仕事もまだまだ続きます。

これから

ブログを更新していなかった4か月間に企業を巡る危機管理や企業法務の話題は事欠かず。
大きく取り扱われたものだけでも、先日の年金個人情報漏えい事件、家電メーカーグループでの不正会計問題、改正会社法施行でのグループ会社管理や監査等委員会設置会社への移行、ドローン問題、免震装置用ゴムの性能偽装問題、私立学校裏金問題、家具販売店での創業家オーナー問題のほか、エアバックリコール問題なども昨年から続いています。また、複数の会社で企業秘密に関わる問題も発生しています。

4か月間に起きた事件を全部取りあげるのは難しいですが、この中から、企業危機管理に関する問題をいくつか取りあげていこうと思います。