中国電力が排除措置命令・課徴金納付命令の取消訴訟を提訴。再発防止策や会長・社長の交代と矛盾しないか、を考える。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

公正取引委員会が3月30日に出した排除措置命令・課徴金納付命令に対し、4月28日、中国電力は取消訴訟を提起することを公表しました。

排除措置命令・課徴金納付命令を受領したときには再発防止策や経営陣の刷新などを公表していただけに、取消訴訟を提起することは、一見すると、企業姿勢としては矛盾するのではないかとも思えます。

そこで、措置命令・課徴金納付命令を受領したときの公表内容をもう一度読み返しながら、この点を考えます。

※2023/08/02追記

なお、取消訴訟の提起の法的位置づけについては別に投稿しました。

公正取引委員会による排除措置命令・課徴金納付命令

公正取引委員会は、3月30日、営業活動の範囲、入札に関する価格カルテルをしていたことを理由に、中国電力ほか電力会社5社に排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。

中国電力の当初の公表内容

「受け止め方」で使った言い回しの妙

この命令を受けて、中国電力は3月30日に今後の対応等を公表しました。

この冒頭で、「本件に対する当社の受け止め」として「疑われてもやむを得ない面があった」と記しています。

今回の各命令の内容および弁護士を含めた社内調査の結果から、本件においては、以下の点で、独占禁止法への抵触を疑われてもやむを得ない面があったと受け止めています。
・ 2017年11月頃、関西電力株式会社(以下「関西電力」)から中国エリアでの営業活動を開始する旨の連絡が当社へ来て以降、関西電力との間で複数回にわたって営業活動に関する意見交換や情報収集活動を行う中で、不適切なものがあったこと
・ それらの情報が関係する経営層や組織に報告・共有化される中で、社内で問題視されることがなく、是正を図る者がいなかったこと
・ また、こうした中で、中国地方の一部の官公庁施設に係る電力入札(計5回)において、関西電力への不適切な依頼行為があったこと

公正取引委員会からの排除措置命令等の受領に伴う今後の対応等について

当初この公表内容を見たときには、再発防止策や経営陣の刷新なども含まれていたので、「中国電力は全面的に非を認めたようだ。でも、その一方で取消訴訟についても言及している。なんだか変な内容だなあ」という印象を受けました。

しかし、取消訴訟を提起したという今の段階で、このリリースをもう一度読み返すと、「疑われてもやむを得ない」との言い回しを使っていたことに気づきます。

この言い回しからは、中国電力は、公正取引委員会に言われるままに独禁法違反を認めた訳ではない、という思いが感じ取れます。

「独占禁止法違反をしたつもりはないけれど、でも、公正取引委員会がそう言うならそういう見方もできなくはない事実があったといえば、あったかもしれない」くらいのややこしいニュアンスだと思います。

再発防止策や経営陣の刷新を公表して殊勝な態度を見せつつ、その一方で不服がある姿勢も匂わせる。
相反することをやっているわけです。

しかも、そのニュアンスが伝わるように言い回しを工夫する。

非常に難しいことをやっているので、このリリースは、非常によく練って作成された文章であるように思えます。

取消訴訟の提起を検討することの説明内容

この姿勢は、取消訴訟の提起を検討することに言及した箇所で、より明確になります。

当社といたしましては、本件への深い反省のもと、全社をあげて再発防止と早期の信頼回復に努めてまいりますが、各命令の内容には、事実認定と法解釈において当社と公正取引委員会との間で一部に見解の相違があることから、今後、各命令の内容を精査・確認のうえ、取消訴訟の提起も視野に入れつつ、慎重に対応を検討してまいります

公正取引委員会からの排除措置命令等の受領に伴う今後の対応等について

こちらは「事実認定と法解釈において当社と公正取引委員会との間で一部に見解の相違がある」と不服がある部分を明確にしています。

単に「取消訴訟の提起を検討する」ではなく、なぜ検討するのかという理由を詳しく説明しています。

今になって読み返すと、不服を前面に押し出したリリースだったのだとわかります。

再発防止策や経営陣の刷新について言及した箇所の位置づけ

不服を前面に押し出したリリースだと理解すると、再発防止策や経営陣の刷新について言及した箇所は、一見すると矛盾するようにも思えます。

しかし、ここは、公正取引委員会から排除措置命令・課徴金納付命令を受けたので、殊勝な態度を示したと理解することができます。

殊勝な態度というのは、言い換えると「李下に冠を正さず」ということです。
要するに、疑われるようなことは止めます、という意味です。

違反したから止めるのではなく、疑われるから止めるくらいの感じです。

こう理解すると、再発防止策や経営陣の刷新と、取消訴訟を提起する(を検討する)態度と、決して矛盾するわけではないことになります。

取消訴訟提起の公表内容

取消訴訟を提起したことを公表したリリースでは、以下のように説明しています。

当社は、各命令の内容を精査・確認のうえ対応を慎重に検討してまいりましたが、各命令の内容には、事実認定と法解釈において当社と公正取引委員会との間で一部に見解の相違があることから、本日開催の取締役会において、各命令に対する取消訴訟を提起することを決定しましたので、お知らせします。
今後、取消訴訟において当社の考え方を説明し、公正な判断を求めてまいります。

公正取引委員会からの排除措置命令・課徴金納付命令に対する取消訴訟の提起について

こちらでも、「事実認定と法解釈において当社と公正取引委員会との間で一部に見解の相違がある」と当初の公表内容と同じ言い回しを使っています。

公正取引委員会の判断には不服がある。

実は、中国電力の態度は一貫しているのです。

まとめ

中国電力は「事実認定と法解釈において当社と公正取引委員会との間で一部に見解の相違がある」という態度を当初から一貫していました。

そのため、公表した内容の言い回しを工夫し、その態度、ニュアンスが伝わるように文章が練られていました。
危機管理広報の担当者のレベルが相当高いことが伺えます。

中国電力が事実認定と法解釈のどこを争うのかはわかりません。
もしかすると、カルテルの成立要件である「意思の連絡」について争うのかもしれません。
引き続き注目していきたいと思います。

価格カルテルがどのような場合に成立するか、競業他社と価格についての情報交換がどこまでできるのかについては、先日、記事を書きました。もしよかったら、そちらも読んでみてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。