「人種差別」「ジェンダー」だけではない。こんな演出・内容の広告・宣伝が炎上する。「不適切」と批判されないための事前チェックのポイント。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

キリンビールは、2023年5月9日からテレビやネットで配信したビール「淡麗グリーンラベル」の動画CM(GREEN JUKEBOX 居篇)のテレビCMを中止し、ネット配信動画を18日から修正版に差し替えました。草原に置いた鳥かごから2羽のインコが飛び出すシーンが「不適切」と批判されたことを受けたからです。

GW中にはシルバニアファミリーを燃やす演出をした女性ファッション誌LAMREの動画が「不適切」であることを理由に炎上したばかりです。

そこで今一度、動画CMを作成、配信する際の事前チェックのポイントを確認します。

「不適切」か否かの観点からの事前チェックの有無

景品表示法は、広告・宣伝の内容が優良誤認表示、有利誤認表示、ステルスマーケティングやおとり広告その他不当表示ではないかを事前にチェックする体制を整備するように義務づけています。

法律が要求しているのは、景品表示法に違反する表示になっていないか否かのチェックです。

しかし、せっかく事前チェック体制を整備するのであれば、他の法令に関するチェックはもちろんのこと、「不適切」であるか否かについてもチェックをした方がよいでしょう。危機管理のためです。

法律を守った広告・宣伝をしても、「不適切」であるとの批判が集まれば、キリンやLARMEのケースのように広告・宣伝を中止する、差し替えなければならなくなってしまいます。

広告・宣伝を中止する、差し替えることになれば、せっかく広告・宣伝を作成したコストが無駄になるうえ、「事前に気がつかなかったの?」と信頼を失うことにも繋がりかねません。

無用な支出、信頼の喪失にならないために事前チェックをするのです。

「不適切」との批判に備えた事前チェック体制の機能させるためにチェックすべき項目

では、「不適切」であるか否かは、どの観点からチェックすればよいでしょうか。

これは、以前に「不適切」であることを理由に炎上した事例が参考になります。

過去に「不適切」であると批判されて炎上した主な広告は、

  1. 人種差別を想起させるもの
  2. 危険な演出であるもの
  3. 文化など誰かをバカにしたもの(敬意を表していないもの)
  4. 性的な演出であるもの
  5. ジェンダー平等・LGBTに反するもの(ルッキズム批判も含む)
  6. 古い価値観の押し付けになるもの
  7. タイミングが悪いもの

などがあります。

ひとつひとつ見ていきましょう。

人種差別を想起させるもの

人種差別を想起させるとして炎上した事例は、2019年1月、日清食品ホールディングスのアニメ動画広告の例があります。

カップヌードルのアニメ動画広告で、テニスプレーヤーの大坂なおみ選手の肌の色を白く描いていたことに対し、国内外から「ホワイトウォッシュ(褐色の肌を漂白した、の意味)」ではないかとの批判が集まり、動画広告は配信中止されました。

詳しくは、過去に広報会議に原稿を書いたことがありますので、そちらもご覧頂けると幸いです。

また、広告ではありませんが、2023年5月には、ジャニーズ事務所の芸能人がYouTubeチャンネルに、黒人男性らが出演する「世界からのサプライズ動画」の動画を使用したことに人種差別ではないかなどと批判する声も見られます。

この黒人が出演する動画には賛否両論あり一概に人種差別とは言えませんが、批判されるリスクがあることは広告・宣伝の事前チェックの際には意識しておきたいところです。

人種差別に配慮してあらかじめ動画の配信を止めた例としては、ディズニーがあります。

ディズニーランドのアトラクション「スプラッシュ・マウンテン」の原作映画である「南部の唄」を動画サービス「Disney+(ディズニー・プラス)」では配信しないことを公表しています。

危険な演出であるもの

演出が危険であるとして炎上した事例は、2017年4月のアサヒ飲料の三ツ矢サイダーの広告があります。

トランペットを演奏している最中に後ろから友人がぶつかってくる演出に対して、楽器演奏の経験者たちから「唇が切れる」「歯が折れる」などと批判が集まり、動画は配信中止されました。

広告・宣伝を制作した側はあまり意識していないが、専門家や経験者から見たら不適切という演出です。

今回の「淡麗グリーンラベル」のケースも、ここに当てはまります。

演出の内容次第では、専門家、経験者の目からの事前チェックも必要かもしれません。

文化など誰かをバカにしたもの(敬意を表していない者)

2021年3月にはVALENTINOがモデルに着物の帯に見えるものの上をヒールで歩かせるなどした広告が「日本文化を冒涜している」などと炎上し、謝罪に追い込まれたことがあります。

詳しくは、下記の投稿内で紹介しています。

また、よく炎上するのが、ナチス・ドイツに関わる演出です。

2016年には欅坂46がハロウィーン・コンサートで使用した衣装がナチス・ドイツの制服を想起させるとして国内外で炎上しました。

海外の文化に関わる演出をするときには文化の冒涜なのか、文化を参考にしたのか見極めが難しいケースも多々あります。

海外の目を意識しすぎるのも配慮しすぎではありますが、グローバルに事業を展開している会社の場合には配慮しすぎくらいがちょうどいいかもしれません。

性的な演出であるもの(アニメのイラスト含む)

性的な演出については「不適切」であると批判されるケースが最近、非常に増えています。

性的な演出であるとして炎上した事例は、2022年11月、フランスのBALENCIAGAのホリデーキャンペーンがあります。

幼い子どもにボンデージ姿のテディベアを持たせる写真を広告に利用したことに対し、「子どもを性の対象にしている」「児童虐待」などの批判が集まったため、広告の配信を中止し、謝罪することになりました。

また、2020年にはNetflixが映画の宣伝に子どもたちを起用したところ、こちらも子どもを性の対象としていると批判されたことがあります。

日本国内では、アニメのイラストを利用した広告が「性的ではないか」などと一部から批判の声が出たケースも相次いでいますが、賛否両論で一概に「不適切」であるとは言い切れません。

ジェンダー平等・LGBTに関わるもの(ルッキズム批判も含む)

ジェンダー平等は、特に女性に対する差別、偏見を理由に炎上する事例が目立ちます。

2022年3月には、小学館がアニメ「名探偵コナン」の劇場版の公開にあわせて、作品に登場する女性キャラクター38人から「理想の花嫁」を選んで投票することを企画したことに対し、ジェンダーの観点からの批判が集まり、「主要女性キャラクター人気投票」に企画が変更されました。

男女の役割をあらかじめ決めつけた典型的なジェンダーに反する広告に該当するかどうかは、イギリスの広告慣行委員会(CAP)がガイドラインを出していますので参考になると思います。

また、ジェンダーに関する広告・宣伝で最近炎上しているのが、トランスジェンダー(LGBT)が関係する広告です。

2023年5月には、adidasが見た目が男性のモデルを女性の水着広告に使用したことが炎上しています。

2023年4月には、トランスジェンダーの元男性を女性用スポーツブラの広告に起用したNIKEや、同じトランスジェンダーの元男性を動画に起用したバドライトの広告・宣伝が相次いで炎上しています。バドライトに関しては不買運動にまで発展しています。

日本ではLGBTを広告・宣伝に起用するケースは、ある程度知名度があり世の中に受けいれられている芸能人が起用されるケースが多いので炎上にまでは至っていません。

しかし、こうした海外の炎上の事例を見ると、多様性の時代とはいえ、安易にLGBTを広告・宣伝に起用することは炎上のリスクがあることは認識しておいた方が良さそうです。

古い価値観の押し付けになるもの

会社がメッセージ性を込めた広告・宣伝が、古い価値観を押し付けていると受け取られて炎上するケースもよくあります。

2019年には、阪急電鉄が企画「ハタコトレイン」を実施し、車内の中吊り広告に「毎月50万円もらって毎日生き甲斐の無い生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか」などのメッセージを載せたところ、不快との声が多く寄せられたため、企画が中止になりました。

2016年10月には、資生堂の化粧品ブランド「インテグレート」の動画CMで、25歳の誕生日を迎えた女性に「今日からあんたは女の子じゃない」「もうチヤホヤされないし、ほめてもくれない」などの言葉を投げかける演出をしたことに、女性差別などの批判が集まり、動画の配信が中止になりました。

会社が広告・宣伝でメッセージを伝えるのは悪くありませんが、誤解されるおそれがある演出は炎上しやすいことをは理解した方がよいです。

タイミングが悪いもの

最後は、タイミングが悪い広告・宣伝です。

2011年3月の東日本大震災直後には普通の広告・宣伝が軒並み自粛したほか、揺れや津波など東日本大震災を想起させる広告・宣伝を各社が一様に自粛しました。

「不謹慎」と批判されることを避けるための危機管理対応で、理解できす。

しかし、その代わり、1か月以上、ACのテレビ広告が流れ続けたために、世の中の人たちからは飽きや不満も出るようになりました。

そのタイミングを見計らって、2011年4月22日からエステー化学が流した「消臭力」のCMは世の中の人たちに受け入れられました。

エステー化学は自社サイトにCMに込めたメッセージが何かを伝えています。メッセージが伝わらないと炎上するおそれがあることを懸念した慎重な対応だと思います。

震災によって私たちは傷つき、どこかで日常の生活に戻りたいと願っています。そんな中、エステーは「お見舞い」の気持ちと「応援の気持ち」をもってCMをつくりました。
日常のCMソングを異国の地から応援するかのように歌うという素朴なCMです。そしてこの背景に見える街並みは1755年の大震災と津波で破壊され6万人以上がなくなったリスボンです。ただし、そのことはCMでは表示しません。見る人に何かを感じてもらえれば良いと思っています。

https://www.st-c.co.jp/news/newsrelease/2011/20110421_000281.html

当時の担当だった鹿毛さん(広報業界ではめちゃ有名)への取材内容がテレ東のサイトで紹介されています。

これは広告・宣伝のタイミングを意識しているからこそできた例だと思います。

まとめ

広告・宣伝するときには法令違反かどうかだけではなく、過去の事例を参考に「不適切」との批判がされないかについても意識して、事前にチェックすることが望ましいです。

社内だけでチェックしていると「不適切」か否かが似たような価値観で判断されることもあるので、必要に応じて、社外の人にチェックしてもらうことも必要です。

私も危機管理の視点から事前チェックをお願いされることもあります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。