ガス・電気の訪問販売に業務停止命令。6月1日から施行される消費者庁の新しいガイドラインでは、こんな勧誘方法はダメだ!

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年5月24日、消費者庁は、日本瓦斯に対し、ガス・電気を訪問販売する際に勧誘目的の不明示、再勧誘、及び不実の告知の特定商取引法違反があったとして、3か月間の業務停止命令を発しました。

5月10日にもCDエナジーダイレクト、3Backs及びライフデザインの3社に対し、電力・ガスを訪問販売する際に勧誘目的の不明示、再勧誘、不利益事実の不告知、及び消費者の判断能力不足に乗じた契約締結をしたとして、3か月間の業務停止命令と3Backsの代表者への業務禁止命令を出したばかりです。

消費者庁は、訪問販売に対する取締りを明らかに強化しています。6月1日からは、勧誘のルールに関して新しいガイドラインで取り締まることも明らかにしています。

先日も書きましたが、6月1日に向けて、新しいガイドラインの内容を今一度確認したいと思います。

消費者庁が消費者に向けて注意喚起するチラシを公表

電気、ガスのライフラインに関わる訪問販売で特定商取引法違反が相次いでいることもあり、消費者庁は、5月25日、消費者に向けて、電気・ガスの訪問販売について注意喚起するチラシを公表しました。

消費者庁が電気、ガスの訪問販売業者を集中的に取り締まる姿勢が明らかです。

新しいガイドラインが適用される6月1日以降、電気、ガスの訪問販売業者は、なお一層慎重に勧誘することが必要です。

2023年6月1日以降の新しいガイドラインのポイント

ガイドラインの存在

今回の業務停止命令の根拠となった勧誘目的の不明示、再勧誘、及び不実の告知については、それぞれガイドラインが存在します。

これ以外にもガイドラインは存在します。

前回の投稿で詳細を書きましたが、その中でも特に重要な部分を再度説明します。

勧誘目的の明示

住居で行う訪問販売の場合には、基本的に、インターホンで開口一番に社名や勧誘目的を明示しなければいけません。

開口一番で勧誘目的を明示したら断られる確率が高くなるので、訪問販売業者としては営業はやりにくくなるでしょう。どのようにアプローチすればよいか、トークスクリプトを考えるのも、営業の腕の見せ所です。

今回の行政処分では、以下の内容を告げただけでは、ガス会社を切り替える契約の締結を目的としていることを告げていない(勧誘目的の不明示)、と例示しています。

「今回ニチガスから、お客様にお知らせありまして、お伺いしました」「ご自宅の方にお伝えがありまして」「ちょっと、お知らせが遅れてしまって申し訳ないんですけども、一応最短で来月からガス料金の方、料金下げて使うことができますんで、よろしくお願いいたします」

訪問販売業者【日本瓦斯株式会社】に対する行政処分について

再勧誘・不招請勧誘

訪問販売なら、商品の説明を始める前に、相手方に勧誘を受ける意思があることを確認する義務があります。相手が契約を締結しない意思を明示したときには勧誘することはできません(再勧誘・不招請勧誘の禁止)。

一度断られたくらいで諦めたら、訪問営業が成功する確率は下がるかもしれません。しかし、しつこく食い下がれば特商法違反です。断られたら食い下がるのではなく、その分、次の訪問先を見つけて絨毯爆撃するようにしてください。

今回の行政処分では、断られたのに食い下がった以下の2パターンを、相手が契約を締結しない意思を明示したのに勧誘した(再勧誘)と例示しています。

「あー、いい。そんなのいいよ」「えっ、いいよ、じゃ、いや、いいよ。下げなくたってこのくらいの値段だから。」「だって、なんだかややこしいからいいや。いい、いい。いい、いい。」などと本件役務提供契約を締結しない意思を表示した者に対し、「簡単に済みます」「特にややこしくはないです」「で、まあ同じ電気とかガス使う方なら、安い方がやっぱいいじゃないですか。」などと告げ、

(中略)

「我が家はずっと●●だから、ガス会社を替えることは考えていないです」「うちは光熱費を全部●●でまとめているから」「光熱費をまとめることで割引されているので、替える気はないですよ」「話を聞いても仕方ないから。」などと本件役務提供契約を締結しない意思を表示した者に対し、「ニチガスに切り替えた方が安くなるかもしれませんので、ガス料金を調べさせてください」「検針票を見せてください」などと告げ、

訪問販売業者【日本瓦斯株式会社】に対する行政処分について

不実の告知

不実の告知とは、虚偽の説明を行うこと、事実と異なることを告げることです。

事実と異なることを告げている(虚偽の説明をしている)との認識(自覚)は必要なく、消費者が騙されることも必要もありません。事実と異なることを告げただけで不実の告知に該当します。

「防虫できます」や「痩せる」などの商品の性能、役務の効果や、「契約をすれば安くなる」など取引により得られる利益等を勧誘・広告する場合には、消費者庁から求められたときには、勧誘・広告を客観的に証明でき、勧誘・広告の内容と対応している合理的な根拠資料を提出する必要があります。

そのため、証明できないことや根拠のないことを告げれば事実と異なることを告げたことになり、不実の告知になると理解することができます。

今回の行政処分では、必ずしも安くなるわけではないのに「安くなります」などと勧誘したことが不実の告知であると例示されています。

勧誘当時に勧誘の相手方である当該消費者が契約を締結していた特定の事業者との契約と比較すると、年間を通して安くなる事実はないにもかかわらず、「大丈夫です。これだけ使っているなら、安くなりますよ」「一年を平均すると、ニチガスに切り替えた方がメリットがありますよ」などと、本件役務提供契約に係る役務の対価について、あたかも、本件役
務提供契約を締結することにより、現状の電気使用量を前提として、年間を通した電気の料金が既存の電気の料金よりも安くなるかのように不実のことを告げた

訪問販売業者【日本瓦斯株式会社】に対する行政処分について

まとめ

特定商取引法と新しいガイドラインが規制している勧誘方法は、訪問販売業者にとっては厳しいものが多いです。だからといって、消費者を騙すような勧誘やしつこい勧誘が許されるわけではありません。

また、訪問営業以外に、電話での勧誘や通信販売も同じです。

特定商取引法に違反しない訪問や電話での勧誘のトークスクリプトを準備するように工夫して下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。