「同じ理由もあろう」と社長が語った、ニデック品質不正。会計不正とは別に二段階で発覚した原因と構造。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

ニデックは2026年5月13日、一部製品について顧客の確認を得ずに部材・工程・設計の変更や検査データの改ざんを行っていた疑いを認め、外部弁護士による調査委員会の設置を発表しました。

不正の疑いは家電向けや車載用モーターを含む複数事業で確認されており、件数は1000件を超える見通しだそうです。

同社は同日、3名の弁護士による調査委員会を立ち上げ、8月末までに全容解明を図る方針を明らかにしました。ちなみに、調査委員会の河合弁護士は、私の司法研修所時代の刑裁教官です。

岸田光哉社長は会見で、品質不正の背景について「同じ理由もあろうかと思う」と述べ、会計不正と同じ業績プレッシャーが背景にある可能性があることを示しました。

なぜ会計不正と品質不正が一度に発覚しなかったのか。そもそも根本原因は本当に同じなのか。現場で起きていたことを想像しながら考えてみます。

会計不正から品質不正までの経過

会計不正の調査と最終報告書

ニデックの会計不正をめぐっては、2025年9月に第三者委員会が設置され、2026年3月3日に調査報告書が公表されました。

調査報告書には、グループの多岐にわたる拠点で多数の会計不正が発見されたと記載されており、「最も責めを負うべきなのは永守氏であると言わざるを得ない」と結論づけられています。

4月17日の最終報告書では、純利益への累積影響額が1607億円に上ると認定されました。

品質総点検は別のプロジェクトとして走っていた

会計不正への対応の一環として、2026年1月から再生委員会による「品質総点検」が開始され、その過程で家電向けモーターを中心とした品質不正の疑いが浮上したというのが、今回の経緯です。

第三者委員会の調査とは別に、再生委員会による品質総点検が行われた、ということです。

なぜ会計不正と品質不正が一度に発覚しなかったのか

第三者委員会のスコープが会計に絞られていた

なぜ会計不正と品質不正が一度に発覚しなかったのでしょうか。

その最大の理由は、第三者委員会の調査対象が「会計不正」に絞られていたことだと考えます。

249ページに及ぶ調査報告書は、棚卸資産の評価損回避、引当金の不正な戻入れ、固定資産の減損回避など、財務諸表に現れる不正をくまなく掘り起こしました。

東洋経済の報道によると、2022年6月に空調機器用モーター部品の巻線素材を顧客仕様と異なる安価な銅クラッドアルミ線に無断変更していた事例があったとされています。

こうした現場判断による不正は、損益計算書のどの数字にも直接は表れません。財務だけでは、現場のモノの動きまでは捉えられない、ということです。

会計のヒアリング調査で品質の話は出てこない

関与する人の階層が違うことも見逃せません。

会計不正の主戦場はCFO、本社経理、子会社の経営層でした。これに対して、品質不正の主戦場は設計、製造、品質管理という現場です。

会計に関するヒアリング調査の場で、自部門のさらに下流で起きている品質の話まで自発的に語る、という行動は、組織人としてもっとも避けたい選択肢だと考えます。

所管外の問題をわざわざ口に出すことが、自分の評価に跳ね返らない保証はないからです。

現場には「セーフ」と言い聞かせる余地が残されていた

加えて、現場には「機能や安全性には影響しないから、これはコストダウンの工夫であって不正ではない」という言い訳の余地が残されていました。

数字の黒白がはっきりする会計不正と違って、品質不正は「セーフだ」と自分に言い聞かせやすい。その分、わざわざ自己申告する動機は、構造的に弱いと考えています。

過去にも繰り返されてきた発覚パターン

似たパターンは他社事例でも繰り返されてきました。

三菱電機の鉄道車両用空調装置の検査不正は、2021年の発覚後に調査委員会の調査が進むほど、別事業所・別製品で新たな不正が次々と確認されています。

ダイハツの認証不正も、当初は一部車種の話だったものが、結果として全車種規模に広がりました。

委員会調査というのは、最初に設定した調査範囲の中でしか機能しません。

ニデックの場合、第三者委員会は会計を見た、だから品質は見えなかった。委員会の手抜かりというよりも、設置目的が定める設計上の限界だったと考えられます。

プレッシャーが向かう先の違い

プレッシャーの起点は永守氏

根本原因について考えると、会計不正と品質不正は「入口は同じで、出口が違うだけ」だと思います。

第三者委員会の調査報告書は、会計不正の原因を「営業利益目標の達成に向けた強すぎるプレッシャー」と認定し、その起点を永守氏に求めました。

報告書には、永守氏が経営幹部に対して「恥を知るべきだ」「君は日本電産をつぶすために来たのか」などとメールで叱責していた事実も記載されています。

経理と現場、出口は違っても入口は同じ

このプレッシャーが経理部門に向かえば、棚卸資産の評価損を計上しない、引当金を不正に戻し入れる、という形で「数字を作る」という出口になります。

同じプレッシャーが製造現場に向かえば、まったく違う形に化けます。コストを下げ、納期を守るために、顧客に黙って巻線素材を安価な代替品に差し替える、検査データを改ざんする、という出口です。

外形は別物に見えますが、降ってくる重圧の質と、それを受け止める中間管理職の心理は、ほぼ同じだと言っていいでしょう。

目標未達は許されない、しかし上に正直に「達成できません」とは言えない、自分の持ち場で何とか帳尻を合わせるしかない。

会計不正の調査で「セルフファンディング」と呼ばれていた発想は、製造現場でも形を変えて同じように機能していた、と推察することができます。

中間管理職を「不正の主犯」と捉えると再発防止が的外れになる

中間管理職を「不正の主犯」として捉えてしまうと、話が単純になりすぎます。

不正に手を染めた現場のリーダーの多くは、自分の判断を「会社を回すための工夫」「上司も結果を求めているのだから、過程は問わないはずだ」と自己正当化していった人たちのはずです。

悪意ある計画というよりも、追い詰められた末の生存戦略としての不正、という視点を持たないと、再発防止策は的を外す気がします

8月末の調査委員会報告に向けて

残された期限と8月末の調査報告

ニデック株は、2025年10月に東京証券取引所から「特別注意銘柄」に指定されています。2026年10月までに内部管理体制の改善結果を示せなければ、上場廃止の可能性が残るという厳しい状況です。

その期限の直前に、品質不正の調査報告がまとまる予定です。8月末の調査委員会報告で問われるのは、調査の精度や個別の責任の所在だけではないと考えます。

価値観の置き換えという地味な作業

会計不正の調査報告書では、社外取締役や監査等委員に対して、不正事案の概要は伝わっていたものの、強い業績プレッシャーが根本原因であるという認識までは届いていなかったと指摘されています。

同じ構造は、品質管理にも当てはまっていたはずです。

中間管理職が「無断で素材を変えました」と上に正直に挙げた瞬間、コスト目標も納期も達成不可能になり、強い叱責が降ってくる。そうなれば、上には挙げない。上に挙がらない以上、社外取締役や監査等委員の目にも触れない。

会計と品質に共通して働いていたのは、こうした連鎖ではないでしょうか。

不正を防ぐガバナンスとは、立派なマニュアルを揃えることでも、監視を強めることでもありません。

「数字を達成しないことが恥」という価値観を、「まずい話を早く持ってきた中間管理職が評価される」という価値観に置き換える、地味で泥臭い作業のことだと考えます。

経営陣に必要なのは、悪い情報を持ってきた現場のリーダーに対して「よく言ってきてくれた」と最初に労う姿勢を、繰り返し具体的な場面で示し続けることだと思います。

報告書を1冊作っただけでは、現場の感情は変わりません。

自社のガバナンスを点検する視点として

他社の経営陣にとっても、ニデックの二段階発覚は他人事ではないと考えています。

自社の業績目標が、現場の沈黙とどこかで結びついていないか。目標に届きそうもない時に、部下が何を「自分で帳尻を合わせる」道具にしているか。

8月末に公表予定の調査委員会による報告は、自社のガバナンスを点検するためのもうひとつの教材になる気がします。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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