いわき信用組合が第三者委員会の調査に対して組織的な妨害行為。前代未聞のコンプライアンス意識の欠如。2004年に発覚したUFJ銀行の検査忌避との対比。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

いわき信用組合は2025年5月30日、長期間組織的に行われていた不正行為に関する第三者委員会の調査報告書を公表しました。

その結果、2004年3月から2024年10月まで20年にわたり、無断借名融資(預金者の名義を無断で使った架空融資)約229億円、迂回融資(実体のない企業を介した大口融資)約18億円の合計247億円、全体で約1,293件にのぼる不正融資が実行されていたことが判明すると同時に、第三者委員会による調査に対し、いわき信用組合が組織的に様々な妨害行為を行っていたことがわかりました。

あまりにも、組織のコンプライアンス意識が欠如しています。

報告書に書かれている妨害行為の内容を見ると、組織として根っこから腐っている印象を否めません。そこで、今回は妨害行為にフォーカスを当てます。

いわき信用組合が行った調査に対する妨害

第三者委員会の調査に対していわき信用組合が組織的・計画的に行った妨害は、次の5パターンに整理できます。

1.証拠資料の廃棄・隠滅行為

  • ノートパソコンの処分
    • 調査の重要な証拠となる歴代理事長(江尻氏)や専務理事(坪井氏)らのパソコンが、調査開始後に廃棄(ハンマーで破壊)または初期化されていました。これらの端末には不正融資に関する記録が含まれていた可能性が高かったため、意図的な証拠隠滅の疑いが指摘されています。
  • 手帳やメモの処分
    • 元幹部である江尻氏や丈夫氏などが、不正融資に関与していた期間の手帳・ノート類を調査前に破棄したため、調査委員会は記録の裏付けが困難となりました。
  • サーバーデータの消去
    • 共有ファイルサーバー内の「X2社」「A社施設」等のフォルダに関して、明らかに意図的に削除された痕跡が確認されました。調査委員会はバックアップデータから一部の情報を復元しましたが、完全に回復することはできませんでした。

2.調査への虚偽説明・偽装報告

  • 「全件調査済み」とする虚偽報告
    • 組合側は、調査委員会からの債権調査に対して、「全営業店の調査は完了している」と報告したものの、実際には未調査の店舗が複数存在していたため、調査委員会は独自に営業店を訪問して再調査を実施することを余儀なくされました。
  • 重要資料の所在不明・説明拒否
    • 委員会が求めた「無断借名融資リスト」や「金銭の流用先一覧」などの資料について、組合側は「現存しない」「所在不明」と繰り返し回答し、明確な理由を示さず提出を拒否しました。

3.ヒアリング妨害・証言圧力

  • 証言者への圧力
    • 一部職員に対しては、調査開始後に「第三者委員会への発言は控えるように」と上司や幹部から直接の働きかけがあったことが複数の証言から明らかになっています。
  • 虚偽証言の指示・口裏合わせ
    • 特に不正融資の中心となった甲事案(2004年3月頃~2011年3月頃に実態のないペーパーカンパニーを介して行われた迂回融資や無断借名融資)に関しては、過去に関与していた職員に対して「知らなかったと言え」「印鑑は勝手に使われたことにしておけ」など、虚偽証言を促すような指示がされていた疑いもあります。

4.調査環境の妨害・混乱

  • 不自然な人事異動
    • 調査対象となる可能性のある職員や、調査委員会が注目していた部署の担当者が、調査期間中に他部署へ異動となり、委員会による接触が困難になる状況が複数発生しました。
  • 委員会への報告書修正要求
    • 第三者委員会が取りまとめた報告書に対し、組合幹部の一部からは「名誉棄損になる」「風評被害が懸念される」として、記述の削除・修正を求める要望が寄せられました。これは調査の独立性に対する重大な干渉であり、委員会は断固として拒否したと記録されています。

5. その他の妨害的対応

  • 調査に対するメール回答や資料提出が著しく遅延し、「確認に時間がかかる」などの口実が多用されました。
  • 委員会が提示した質問票に対して、無記名での不完全回答や無回答が散見され、組織的な協力拒否の姿勢がみられました。

これらの妨害行為について、調査委員会は「不正の全容解明を防ぐことを目的とした計画的な組織的行為」と評価しました。

いわき信用組合が不正行為や妨害行為をした原因の背景

調査報告書には不正行為や妨害行為をした原因が多々挙げられています。

しかし、調査報告書に書かれていないものの、もっとも核心的な原因は、ローカルの金融機関という、その地域では逆らう者がいない組織(仮に融資先が逆らえばその後の融資をしてもらえなり、他に代替金融機関もない。従業員はその後出世の目がなくなり、万が一にもクビになると他に働く場所がない。だから誰も逆らえない)のトップであるが故に、理事長・理事らの経営陣に「我々に逆らうとは何事か」「我々がやっていることに口を出すな」という類の傲慢な意識が蔓延していたことにあるのではないでしょうか

それ故に、調査委員会に対しても、「俺たちがやってきた過去のことのあら探しをするな」として、調査を妨害したのではないかと推察できます。

また、ローカルな企業であるが故に、周囲の目や意識がそれほど厳しくないこともあり、世の中の上場会社並みのコンプライアンス意識が浸透しておらず、未だに「多少の法令違反くらいいいだろ」と勘違いしていたような気もします。

いわき信用組合に限らず、ローカル企業の場合、上場会社のコンプライアンス意識とはレベル差があることが少なくありません。また、都市部の企業であっても、上場していない場合は同様です。

ローカル企業や非上場企業において、いかにしてコンプライアンス意識のレベルを上げていくかが今後の課題として残ります。

2004年に発覚したUFJ銀行の検査忌避事件との対比

金融機関が調査を妨害した事案としては、2004年に発覚したUFJ銀行による金融庁の検査忌避事件があります。

UFJ銀行検査忌避事件の概要

副頭取ら3人は2005年4月25日、銀行法違反(検査忌避)により懲役10月〜8月、執行猶予3年の有罪判決を受け、UFJ銀行も9,000万円の罰金刑を受けた事件です。

判決文と当時の報道によると、事案の概要は次のとおりです。

  • 副頭取が「ガサ入れに注意しろよ」などと指示し、関係者が大量の資料(110箱の段ボール)を隠し、2003年10月7日に金融庁による実地調査が入り検査官に発覚する恐れが生じると役員専用エレベーターで資料を移動させた。
  • 融資先の評価の基準を変えて「ワースト」「ワース」「ベター」の三段階に分けた資料を作成し、検査官には「ベター」の資料のみを提示し、「これだけです」「融資先に関係する資料は審査五部の執務室以外にはありません」とウソをつき、その後、隠した「ワースト」「ワース」の資料が検査官に見つかった際には、「これはシミュレーションです」などと釈明した。
  • 「朝会」などでは、頻繁に隠ぺい工作が指示され、調査の対象となる部の次長が、書類の廃棄や焼却、倉庫への移動を意味する「CS」という特殊な用語を使い、「CS徹底」などと記載した資料を配布した上で、隠ぺいを指示していた。
  • 大口融資先の財務状況が悪化していることを示す内容が記録されているデータファイルを、行内では「検査で発覚するとやばい」という意味を込め、「ヤバファイル」と呼んでいた。金融庁の特別検査に備え、約35,000件に上るパソコンのデータファイルを、使用しなくなったまま残されていた大阪の「審査5o(オー)」(通称・大阪サーバー)と呼ばれるコンピューター・サーバーに、「疎開」と称して移し替え、さらに、隠したファイルを簡単には開けないよう、古いパスワードを使ってロックもかけていた。
  • 2003年10月9日、「銀行東京本部の三階の会議室に、金融庁に説明したものとは別の資料が隠されています」との匿名電話によって発覚した。

いわき信用組合の妨害行為との比較

いわき信用組合が妨害行為を行ったのは、調査委員会による調査に対して、です。

その意味では、金融庁の検査を妨害したUFJ銀行とは異なります。

しかし、いわき信用組合は、これまでの金融庁検査(東北財務局、福島財事務所らによる調査)に対しても、

  • いわき信用組合では、帳簿上は「正常な融資」として装い、実質的な焦げ付きや不正を見えなくする細工がされていた
  • 会計監査人に提出されていた資料自体が改ざん・操作されており、虚偽の説明が横行していた
  • 不正や横領が内部で発覚した際も、組合は福島財務事務所に対する不祥事件報告義務を履行せず、隠蔽を継続していた

などをしていたことが指摘されています。UFJ銀行の検査忌避とやっていることは変わりません。

そのため、東北財務局は2025年5月29日、いわき信用組合に対して業務改善命令を発しました。

これほどのことを継続していたのに業務停止命令ではなかったので、処分としては甘い印象を受けます。

今後、UFJ銀行の検査忌避事件と同様に、元理事長らの刑事責任が問題になるかもしれません(UFJ銀行は銀行法でしたが、いわき信用組合の場合には信用組合金融事業法)。

また、いわき信用組合の場合は、UFJ銀行の検査忌避と同様に内部告発によって発覚しました。

2024年9月に元職員がSNS「X(旧Twitter)」で内部告発しことで発覚したことは、SNS全盛の時代を象徴するように思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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