ニデックが特別注意銘柄に指定されストップ安。内部管理体制等について改善の必要性が高いなど判断された。その原因の一つである「企業風土」の改善のために必要な経営陣の意識改革。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

ニデックが2025年10月27日、特別注意銘柄に指定されました。

日本取引所(東証)は、「上場会社の財務諸表等に添付される監査報告書等において意見不表明等が記載され、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるため(有価証券上場規程第503条第1項第2号b)」を理由としています。

内部管理体制等について改善されれば通常の錠銘柄に戻りますが、改善の見込みがなければ、整理銘柄となり、その後の上場廃止となってしまいます。

ニデックにとっては経営危機的な状況です。

ニデックの株価はストップ安にもなりました(Googleの「ニデック 株価」)。

ニデックが特別注意銘柄になった背景・原因

ニデックの内部管理体制の重要な不備

ニデックは、その内部管理体制に重要な不備が存在していたと判断しています。

  1. 全社的な内部統制(情報と伝達)の不備
    • 法令違反の可能性が疑われる行為に関する情報の共有を受けたニデックの役職員が、その情報について定められたルートに従って経営陣に対する報告を行わず、この結果、重要なリスク情報について社内で必要な協議や検討対応が行われず、早期是正の機会を失った
  2. 経理決算プロセスに係る内部統制の不備
    • ニデックが連結決算に反映させるべき重要なリスク情報を網羅的に収集する内部統制が適切に整備されていなかった

情報と伝達に関する内部統制の不備

特に深刻なのが、情報と伝達に関する全社的な内部統制の不備です。

この問題の根底には、ネガティブな情報を隠蔽したり、経営陣に伝達することを躊躇したりする企業風土の構造的な問題があった可能性が推察されます。

ニデックの社内の実情は存じ上げませんが、世間一般の話しで言えば、ネガディブな情報を報告すると、「なんで、そんな報告を挙げてくるんだ。そんな報告は聞きたくない。」などの感情が先走った反応をする経営者は少なくありません。

これが繰り返されると、役職員はネガディブな情報を掴んだとしても、「どうせ怒鳴られるだけで、解決策は現場に押し付けられる」と考えて、ネガディブな情報を経営陣に報告しなくなる土壌や企業風土が作られるようになってしまいます。

もし仮にニデックでもこのような企業風土があったのだとしたら、内部管理体制の再構築においては、この企業風土そのもの、何よりも経営者の態度を変革することが最優先課題と言って良いでしょう。

無論、経営陣が聞く耳を持っているのに、役職員がネガティブな情報を報告しなかったのだとしたら、報告しなかった側の責任です。

内部管理体制の再構築のために求められる具体的内容(企業風土の改善を中心に)

ニデックが掲げた是正方針の柱の一つにも、「コンプライアンス最優先の意識/企業風土の醸成」が挙げられています。

これが再発防止策の出発点となります。

もし仮に、役職員からの情報の伝達が機能していなかった原因が経営陣側にあるのだとすれば、全社的な企業風土の刷新の前に、まずは経営陣の意識改革が必要です。

コンプライアンス最優先の企業風土の醸成

これまでの成長至上主義が情報伝達の停滞を招いた可能性がある事態を踏まえると、何よりもまず、コンプライアンス順守を絶対とする意識(ネガティブな情報に向き合う意識)を経営陣に浸透させることが求められます。

その意識が経営陣に浸透すれば、自ずと、経営陣が「ネガティブな情報を積極的に報告してほしい」との姿勢を示すようになるはずです。

リスク情報伝達経路の抜本的改善(「報告しない」文化の払拭)

役職員が「定められたルートに従って報告を行わなかった」という根本的な失敗を解消するには、経営陣が「聞く耳を持つ」ことが何よりも必要です。

どんなに報告するルートを強化したり、報告を義務づけても、経営陣が聞く耳をもたないなら、役職員は「どうせ…」と考えるようになり、報告しなくなることは繰り返されてしまいます

経営陣が「聞く耳は持っている」と思っていたとしても、日頃のコミュニケーションや態度、表情から、部下には「報告されたくないんだろうな」と受け取られている可能性があります。

コミュニケーションや態度、表情にも気を配る必要があります。

危機管理の意識改革

経営陣がリスクや不備を認識した際に「報告を無視することや報告を聞こうとしないことこそがリスクである」との意識を経営陣に持たせることも必要です。

リスクと向き合わないときには役員に責任が生じることを役員研修などを通じて、きちんと理解させることが必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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