KDDIの不正会計事案から学ぶ、ガバナンスの本質。数字の裏に潜むリスクを見抜く力の重要性。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

KDDIは2026年3月31日、連結子会社における不正会計に関して、特別調査委員会の調査報告書を公表しました。

報告書によると、今回のケースが発覚したのは、当時社長であった会長が、子会社の広告代理事業が急激に伸びていることに対し、「コンプライアンス的に問題ないか」と経営戦略会議で懸念を示したことが発端とのことです。

このケースを題材に、ガバナンスの本質は、数字の裏に潜むリスクを見抜く力にあることを解説していきます。

経営トップが抱いた「違和感」の価値

ガバナンスにおいて実は最も強力なのは、システムの構築ではなく、経営陣が現場の報告に対して抱く「何かおかしい」という直感です。

KDDIの事案において、当時社長(現会長)が、子会社の広告代理事業が急激に伸びていることに対し、「コンプライアンス的に問題ないか」と経営戦略会議で懸念を示したことがきっかけになって本件が発覚しました。

多くの不祥事において、経営陣は好調な数字を前にすると、その背景にあるリスクへの想像力を働かせることが難しくなる傾向になりがちです。

そういう傾向にありつつも、経営陣(今回であれば当時の社長)が数字から抱いた違和感を単なる思い込みで終わらせず、その後の監査役調査や内部監査の強化につなげたことが、最終的に不正の発見に至る大きなきっかけとなりました 。

数字と効率を追う影で失われる視点

上場会社の経営陣は、株主からの期待に応えるために、企業価値の向上や資本効率の追求を常に求められます。

しかし、効率性や利益目標を重視しすぎると、現場に過度なプレッシャーを与えたりするだけではなく、異常な成長の背景にある歪みを見落としたりするリスクがあります。

今回のケースは、発端は数十万円の赤字や数千万円単位の売上目標に対する「焦り」であったと認定されています。

数字さえ達成されていれば、その中身がブラックボックス化していても「順調である」と誤認してしまう危うさが上場会社には常に潜んでいます。

今回のケースからも、利益という結果だけを追い、プロセスに対する関心を失ってしまうことが、ガバナンスを形骸化させる最大の要因であるということが学べます。

形式的な「三線ディフェンス」の限界

多くの企業が、いわゆる「三線ディフェンス(現場・管理部門・監査部門による牽制)」を導入していますし、不正が発覚した企業の調査報告書を見ると、「三線デフェンスが機能していなかった」などと結論づけられていることが少なくありません。

しかし、今回のケースからわかるように、三線デフェンスの制度を整えたとしても、それが機能するとは限りません。

今回は、各段階でのチェック機能は存在していましたが、広告業界の特有の商慣習を理由にした巧妙な隠蔽工作により、その網をかいくぐられてしまいました。

管理部門や監査部門が、現場の担当者しか持っていない専門的な知見を鵜呑みにしたり、「業界ルール」「業界の慣行」を突きつけられたときにフリーズしてしまうと、牽制機能は実質的に停止してしまいます。

制度を構築していることに満足し、その運用が形式的な書類確認(今回であれば、事前に定めた極度額を超えていないかなど)に終始しているうちは、本当の意味でのガバナンスは機能しないと言えます。

ネット依存を脱却し、リアルな対話を

調査報告書では言及されていませんが、今回のケースは、ネットが中心という現在のビジネス環境やコミュニケーションの取り方も一因だったように思います。

現代のビジネスは電子メールやチャットツールだけで完結しがちですが、デジタルデータだけに頼るリスク管理には限界があります。

本件の実行者は、チャットツール上で架空のやり取りを捏造し、実体のある取引であるかのように偽装していました。

もし、経営陣や管理部門が主要な取引先と直接顔を合わせ、取引の実態について対話する機会を早期に持っていれば、「何かがおかしい」と感じ、もっと早く不正に気づけたのではないでしょうか。

電子メールやWeb会議は便利なので私も重宝していますが、とはいえ、リスクマネジメントという観点から考えると、相手の目を見て商売の理屈を直接聞き出すという、昔ながらの泥臭いコミュニケーションこそが、ネットに依存したガバナンス体制の隙間を埋める重要な手段になる気がします。

過去の教訓をどう活かすか

こうした架空取引の事案は、決して珍しいものではありません。

例えば、過去にはIT大手のネットワンシステムズにおいても、実態のない取引が発覚し、多額の売上訂正を余儀なくされたケースがありました。

最近でも、オルツが循環取引をきっかけに上場廃止し、その後、民事再生したケースがあります。

この際も、今回と同様に、実体のない商品の右から左への移動が行われ、形式的な書類が整っていたために発見が遅れたことが指摘されています。

これらの事例に共通するのは、組織が好調な業績に浸っている時にこそ、不正の芽が育ちやすいという事実です。

過去の他社事例を自社のこととして捉え、業績が好調なときこそ不正が起きていないか意識するようにして下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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