太陽ホールディングス(HD)の定時株主総会にて社長の取締役選任議案が否決。連結純利益は過去最高なのに、筆頭株主、創業家、機関投資家が「実効性のあるガバナンス」などを理由に反対。「実効性のあるガバナンス」のために必要なこと。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

太陽ホールディングス(HD)が2025年6月21日に開催した定時株主総会にて、代表取締役社長の取締役選任議案が否決されました。賛成比率は約46%に留まったようです。

上場会社の株主総会で現任の社長の取締役選任(再任)議案が否決されたのは、

くらいなので、非常に珍しい結果と言えます。

なぜ、株主は社長の取締役再任に反対したのか

業績不振や不正が原因ではない

一般的に、取締役に再任しない理由としては、売上の低迷や損失の発生などの業績不振や、取締役自身が不正に関与したなど解任相当の理由の存在などが挙げられます。

しかし、太陽HDの連結業績を見ると、2025年3月期の純利益は前期比25%増の107億円、2026年3月期も純利益は160億円で過去最高を更新する見込みなど、業績は好調でした。

なお、代表取締役社長についてはタイ現地法人の不祥事への不適切な対応などを理由に解任する旨の株主提案もありましたが、これは否決されました。ただし、賛成比率は49.9%まで達しました。

「業績を出す」だけではなく、中長期的な「企業価値向上」への姿勢

業績がこれだけ好調なのに社長の取締役選任議案が否決されたことは、注目すべきポイントです。

きっかけは、投資ファンドなどからの非公開化を目的とした買収提案でした。

太陽HDに対してはアメリカの投資ファンドKKRや日本産業推進機構(NSSK)が非公開化を目的とした買収等を提案をしていること、太陽HDは独立社外取締役及び社外有識者から構成される特別委員会を設置して検討していることが2025年5月28日に明らかになりました。

また、太陽HDは同日、中長期的な企業価値向上及び株主共同の利益の確保の実現に向けた、客観性及び透明性を担保した会議体として「2030 Committee」の設置を決議したことも明らかにしていました。

これだけを見れば、各種提案を受けて、太陽HDが中長期的な企業価値向上・株主共同利益のための議論を行っている姿勢が伺えます。

しかし、筆頭株主のDICが2025年6月3日に発表した「太陽ホールディングス株式会社の第 79 回定時株主総会における取締役選任議案(第 2 号議案)に対する当社の議決権行使予定に関するお知らせ」と題するリリースには、以下のように記載されていました。

非公開化などの各種提案(買収対価や取引の主要条件が具体的に明示されている提案を含む)に対する太陽ホールディングス取締役会における提案の検討姿勢を鑑みると、佐藤社長を筆頭とする太陽ホールディングスの取締役会は、中長期的な企業価値向上及び株主共同の利益最大化に向けて、必ずしも適切に機能しているとは言えません。そして、その一因は、佐藤社長の強い影響力にあると考えるに至りました。

非公開化の提案に対する取締役会の「検討姿勢」を見ると2011年から代表取締役社長を続けている佐藤「社長の影響力」が強くて、中長期的な企業価値向上・株主共同利益の最大化に向けて取締役会が機能していない、ということです。

「特別委員会を設けたとしても、佐藤社長の意向によって取締役会の意見が左右されている。取締役らが株主の利益のための議論をしていない(取締役らが佐藤社長の意向を尊重している)。だから影響力がありすぎる佐藤社長を取締役から外す。」ということでしょう。

また、「特別委員会を設けて第三者の意向に任せるのではなく、そもそも意思決定の役割を担っている取締役が自主的に議論すべき。そのためにも影響力のある社長は取締役から外れるべき。」ということでもあるかもしれません。

株主・投資家は、目の前の売上・利益をあげたり、特別委員会や会議体を設け体裁を整えるだけではなく、中長期的な企業価値向上と株主の利益を考えた侃々諤々の議論・検討がなされるように取締役会を健全化することを求めているのだと理解できます。

役員間での「実効性のあるガバナンス体制」のために必要なこと

「形ばかりのガバナンス体制」と「実効性のあるガバナンス体制」の違い

現在、株主・投資家は上場会社に「ガバナンス体制」の充実を求めています。

上場会社の多くは、その要請に応えるために社外取締役を選任するなどしています。

しかし、太陽HDの取締役選任議案が否決されるまでの経緯を見るとわかるように、株主・投資家は「形ばかりのガバナンス体制」の整備ではなく、役員間での「実効性のあるガバナンス体制」を整備し、かつ機能させることを求めています。

ここの認識を誤って対応している会社が少なくありません。

「形ばかりのガバナンス体制」の例

  • 「取締役の多様性を確保するために、女性の社外取締役を入れておけば良いだろう」
  • 「業界やビジネスの世界に詳しくないかもしれないけれど、元アナウンサーやスポーツ選手などの有名人やインフルエンサーなど話題性がある人を社外役員に選んでおけばよいだろう」
  • 「何か問題があったら、弁護士を入れた第三者委員会を設置してお任せしておけば済む」

などが典型な誤りです。

いずれも「形ばかりのガバナンス体制」です。

役員間での「実効性のあるガバナンス体制」の要素

役員間での「実効性のあるガバナンス体制」と言うためには、

  • 特定の役員の意向に偏らず、役員間では侃々諤々な議論ができること
  • 第三者任せにせず、役員間が自分たちの役割として議論すること
  • 会社の売上・利益だけではなく中長期的な企業価値向上・株主共同利益を意識した議論(経営判断・意思決定)をすること
  • そうした素養のある人を役員に選ぶこと

が最低でも必要です。

また、

  • 役員相互の牽制も機能させられること
  • 第三者委員会任せにするのではなく、自浄作用を機能させられること

も不可欠です。

今後も、株主・投資家からのガバナンス体制充実の要請や、会社の経営について株主・投資家との対話の必要性。中長期的な企業価値向上・株主共同利益最大化の要請は高まることはあっても下がることはないでしょう。

そうした要請に応えるためには、「実効性のあるガバナンス体制」を整備し、かつ、機能させなければならない、との認識を持って欲しいです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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