相次ぐ親子上場の解消と政策保有株式の解消の動きによるガバナンスの強化について。豊田自動織機を非上場化する一方で、KDDI株式を売却するトヨタ自動車の動きを例に考える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

親子上場を解消する動きと、政策保有株式を手放す動きが、加速している印象を受けます。

親子上場の解消の動き

親子上場を解消する動きとしては、NTTは2025年5月8日にTOBによりNTTデータグループを完全子会社化することとを発表し、三菱商事も同日、TOBにより三菱食品を完全子会社化することを発表しました。

先日ブログでも取り上げた、トヨタ自動車による豊田自動織機の非上場化の検討も同じです。

政策保有株式を手放す動き

他方で、政策保有株式を手放す企業も増えています。

トヨタ自動車は、上場する政策保有株式を40銘柄から34銘柄と前年比で6銘柄減らし、保有残高は3兆5087億円から2兆9513億円と前年比で約5500億円減少しました(定時株主総会招集通知38ページ、ご参照)。

2023年以降は、KDDIの株式を段階的に手放している動きも報じられています。

親子上場の解消と政策保有株式を手放す動きに共通するガバナンス強化の狙い

ここから先はトヨタ自動車の動きを例に、この2つの動きの狙い・目的を考えてみます。

トヨタ自動車が豊田自動織機を非上場化する狙いと、KDDIの株式を手放すことの狙いの共通点は、より戦略的な資本活用と事業ポートフォリオの最適化にあり、その根底にはガバナンスの強化という側面も共通して存在すると考えられます。

戦略的な資本活用と事業ポートフォリオの最適化

戦略的な資本活用は、資本効率の改善と言った方がわかりやすいかもしれません。

豊田自動織機を非上場化することによって、株主からの短期的な利益を求める動きから解放され、長期的な視点で自動車産業の変革期に対応した経営判断や投資を迅速に行うことを可能にします。

その結果、豊田自動織機とトヨタグループの中核である自動車事業との連携を強化することができ、長期的な目線で、新たな領域に経営資源を集中させることができるようになります。

例えば、重複する管理部門を統合したり、情報共有を円滑化し、グループ全体の事業効率の向上や資本効率の改善を図ることができるかもしれません。

他方、KDDI株式の一部売却は、売却によって得られた資金を成長が見込めるコア事業への再投資に振り向け、保有資産の効率化を図る意図があると考えられます。

これは豊田自動織機の非上場化と同じです。

しかし、KDDI株式を売却することによって、トヨタ自動車のKDDIに対する影響力は下がるので、KDDIの経営の独立性が高まります。

そのため、グループとの連携を強化する豊田自動織機とは反対に、KDDIとは対等な事業パートナーとしての色合いが強くなりそうです。

ガバナンスの強化とガバナンスの内容の変容

親子上場の解消(非上場化)と政策保有株式の解消の両方に共通するのは、ガバナンスの強化です。

豊田自動織機の非上場化は、グループ内連携の強化を通じて、より効率的で一体的なガバナンス体制を構築することができます。

また、親会社によるグループガバナンスがより求められるようになります。

他方、KDDI株式の一部売却による政策保有株式の削減により、KDDI経営陣はトヨタ自動車の意向だけを意識するのではなく数多の株主の意向を尊重しなければならなくなり、「株主との対話」が求められている昨今の傾向に適うものです。

また、トヨタ自動車とKDDIとが両社の経営の独立性を尊重した対等な事業パートナー関係を構築することで、KDDIは自律的なガバナンスを強化しなければならなくなります。

さらに、KDDIにとっては、トヨタ自動車による「株主によるガバナンス」から「取引先によるガバナンス」の面が強くなります

「株主によるガバナンス」は株主の立場から株主提案・経営への要請をすることが主たる内容でしたが、「取引先によるガバナンス」になることで、取引の見直しなど売上に直結するガバナンスが効くようになります。

これは、ジャニーズ事務所での性加害問題が明らかになった後、所属タレントを広告に起用していた取引先各社が契約を見直そうとした動きや、フジテレビでの性加害問題への社長の不十分な対応が明らかになった後、取引先各社がフジテレビへのCM出稿を見直した動きを思い浮かべると想像しやすいと思います。

以上のように、親子上場の解消(非上場化)と政策保有株式の解消とはガバナンスの強化という意味では共通するものの、親子上場の解消(非上場化)はグループ企業としての側面が強くなるためグループガバナンスがより求められるのに対し、政策保有株式の解消ではお互いの独立性が高まるため、自律的なガバナンスと「取引先によるガバナンス」が強化されることが、両者の違いと言えます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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