豊田自動織機が株式非公開化を検討。アクティビストによる提案・要請が活発になることで、上場廃止による株式を非公開化する会社はより一層増加するのではないか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

GWを前にして原稿・書籍の執筆や研修・講演の仕事が立て続けていたので、ブログの更新が滞ってしまいました。GWに入ったので、久しぶりに更新します。

日経が2025年4月25日、豊田自動織機が株式非公開化を検討していると報じていました。

その背景には、2024年にイギリスの投資ファンド アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)から子会社であるアイチコーポレーションとの親子上場の解消を要請されたことに加え、フランスのファンド ロンシャン・SICAVが2024年には自社株買いを要請し、2025年には、①資本コストや株価を意識した経営の実現、②取締役会の過半数を社外取締役とすること、③取締役の報酬を譲渡制限付き株式などにより増額することの3点を株主提案していることがあるようです。

アクティビストの傾向

アクティビストは、長期的な目線で企業価値を継続的に向上していくことよりも、短期的な目線で投資対効果という意味での株価を向上させることや配当を増やすことを目的として、ESGへの積極的な取組み、自社株買いや制作保有株式の解消などを求めてくる傾向にあります。

投資して株価を上げてEXITとして売り抜ける、EXITしない間はできる限り配当を得るようとする、ある意味、アクティビストの使命に忠実な行動と言えるかもしれません。

会社の将来のことを考えて本気でガバナンスの提案をしたり、事業内容(事業ポートフォリオ)の見直しを本気で提案・要請しているアクティビストはどれだけいるのでしょう。

アクティビストからすれば、投資した時点よりもEXIT時点で株価が上がっていれればよく、配当原資となる利益が増えればよいので、そのためだけに様々な要求をしているだけです。

自分たちが売り抜けてしまえば、その後、投資していた会社がどうなろうが知ったこっちゃないのかもしれません。

非上場化という選択の妥当性

従来は、こうしたアクティビストへの対抗策は、敵対的買収防衛策でした。

しかし、近時のアクティビストは買収するほどは出資せず、他の機関投資家や個人株主に影響力を持つ程度しか出資しません

その結果、敵対的買収防衛策は有名無実化し、上場会社の中には、一度定めた敵対的買収防衛策を廃止するところもあるようです。

そうなると、上場会社の取締役・取締役会が講じるべきアクティビストへの対抗策は、

  1. いざ取締役・取締役会がアクティビストと対峙したときに主要株主や個人株主がアクティビスト側になびかないように(取締役・取締役会の味方になってもらえるように)、日頃から、短期目線の株主よりも長期目線の株主を増やす
  2. アクティビストに株式を保有されることを許容したまま、他の主要株主や個人株主に対して事業計画を積極的に開示・説明し、株主総会のときに自分たちを支持してくれるようにする
  3. 上場を止めてしまい、アクティビストと縁を切る

の3つくらいに絞られます。

政策保有株式の削減・解消という選択肢

1の典型は、従来の政策保有株式(持ち合い株式)でした。

しかし、政策保有株式はグループ会社、取引先など長期目線の株主に自社の株式を保有してもらえる反面、馴れ合い故に取締役・取締役会に対する株主としてのガバナンスがおざなりな対応になり、経営陣が好き勝手に経営できてしまいがちなデメリットや、株式の流動性が低くなり株価が上がりにくいデメリットがありました。

それ故に、ここ数年、政策保有株式を削減・解消するように要請されてきました。

株主・投資家に対する積極的な情報開示・発信

2の典型は、積極的な情報開示・情報発信です。

最近はアクティビストが株主提案・要請を積極的に行うことになったため、上場会社も株主・投資家向けに情報を発信するようになってきました。

従来は開示する義務があるかどうかで情報を発信するか否かを判断していたのが、急に、開示する義務がなかったとしても情報を発信する動きが目立ってきました。

以前にもとりあげたオアシス・マネジメントに対して、花王が積極的に情報を発信した例はその一例です。

なお、花王は2025年2月14日には、定時株主総会に先立ちオアシス・マネジメントから株主提案を受けたことに対し、「株主提案に対する当社取締役会意見と企業価値向上に向けた取り組み」という、全58ページにも及ぶパワーポイントの資料を公表しました。

こうした資料を作成して公表することは、株主・投資家からの支持を取りつけるために、わかりやすく、株主・投資家に伝わるように情報を発信したと理解できます。

東証が上場会社にIR体制の整備を義務づけようとする動きも、ここに関わります。

上場廃止による株式の非公開化

最後の3は、今回豊田自動織機が検討している非上場化です。

上場していなければアクティビストは株式を取得できなくなるので、長期目線で事業計画を考えている取締役・取締役会からすれば、短期目線での要請を排除することができ、経営に集中することができるようになります。

以前にも紹介した大正製薬HDの上場廃止や、2024年には上場廃止する企業が増加していることは、こうした背景もあるようにも思います。

また、東証からもアクティビストの側に立ったような企業価値を向上させるための施策の要請が増え、会社の管理部門の負担は増えています。

名の知れた会社であればあるほど、上場していることがステータスというフェーズでもない気がします。

そうだとすると、アクティビストが株主提案や要請をより積極的になればなるほど、また、東証からの要請が増えれば増えるほど、「経営に集中できないから上場廃止しよう」と株式の非公開化を選択する会社は増えるような気がします。

現に、世界的にアクティビストによる株主提案や要請が増えていることが報じられています。

ますます上場企業にとっての負担が増えることが見込まれます。

上場会社の取締役・取締役会は、一度立ち止まって、上場していることのメリットと経営への負担によるデメリットを比較検討して、上場していることのメリットがないなら前向きに上場廃止することこそが合理的な経営判断であるように思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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