2025年6月の株主総会に向けて、海外アクティビストによる株主提案が増加傾向。「短期」視点の提案と「長期」視点の提案に分けた対応力。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2025年6月の株主総会シーズンが本格化する中で、アクティビスト(いわゆる「物言う株主」)による株主提案が例年以上に注目を集めています。

株主提案の傾向と、企業のあるべき対応

東京証券取引所が資本効率の改善を呼びかけて以降、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業を中心に、ガバナンスや資本政策に対する株主の要求が強まっています。

提案を受けた企業のあるべき姿は、アクティビストからの提案であるからとして受け入れる/拒絶すると硬直的な判断をするのではなく、提案の「視点」を見極めた上で、傾聴に値するかを判断して柔軟な対応を取ることです。

提案内容が「長期的視点」か「短期的視点」か

「視点」とは、「短期的視点」と「長期的視点」の意味です。

たとえば、外資系ファンドが求める「自社株買い」や「資産売却」などは、即効的な株価上昇を意図した短期的視点の提案です。

会社の将来には関心がなく、ファンドが投機対象として「今すぐ株価を上げること」「今年の配当を増やすこと」というハゲタカ視点で提案しているものです。

一方で、取締役会の構成見直しやESG情報の開示強化など、企業の体質改善を通じた持続的成長を求めるものは長期的視点の提案といえます。

ファンドがある程度、会社の将来を見越して提案しているもので、ハゲタカ要素は薄めです。

江崎グリコへの株主提案と会社の対応

こうした対比が明確に現れた事例のひとつが、2025年3月に行われた江崎グリコ株式会社の株主総会です。

ダルトン・インベストメンツが、江崎グリコに対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応に関する定款変更」などを求める株主提案を行いました。

これは、企業統治の構造そのものに踏み込む長期的視点に立った提案で、同社のガバナンス体制をより透明で説明責任のあるものにすることを目的としています。

江崎グリコは、これらの提案に対して、取締役会として反対の意見を表明しました。

具体的には、定款に定める事項として適切ではないことや、既に資本コストや株価を意識した経営を推進していることを理由としています。

果たして株主総会では、ダルトンの提案への賛成比率は18.1%に留まり、株主提案は否決されました。

また、ダルトンは自社株取得といった短期的視点に立った提案も行いましたが、これも賛成比率は21.6%で否決されました。

「企業価値の向上」というマジックワード

短期的視点の株主提案と長期的視点の株主提案のいずれも、同じ「企業価値の向上」という言葉が使われやすいです。

しかし、同じ言葉で語られていても、その時間軸や意図する効果は大きく異なります。

企業が注意すべきなのは、提案の背景を冷静に分析し、短期視点の提案には定量的なリスク評価を、長期視点の提案には建設的な対話と実行可能性の検討を行うことです。

アクティビストの視点を取り入れる

アクティビストによる株主提案が企業経営にとってマイナスなのかといえば、必ずしもそうではありません。

近年では、アクティビスト提案を拒否する一方で、その要素を中長期戦略に取り込む企業も見られるようになってきました。

企業側が防衛的姿勢を取るのではなく、提案を契機に自社の経営を見直したり、提案がなくてもアクティビストの視点を経営に採り入れる動きが広がっています。

成功例とも言えるのが、日立製作所です。

日立製作所は、2009年3月期に7873億円という、当時の製造業としては過去最大の巨額最終赤字を計上して以降、親子上場の解消や非中核事業の売却を通じて、事業構造改革を進めました。

2022年度には上場子会社がゼロとなり、コア事業に集中する体制を確立しています。

これにより、日立の株価はその後3倍以上に上昇し、投資家からは模範的な企業再編の事例として評価されています。

また、海外投資ファンドも、かつての「敵対的買収」的なイメージから脱するために、制度的なガバナンス改革の推進者という側面を強めている印象を受けます。

2025年の株主総会のあり方

2025年の株主総会は、「株主提案を一律に拒む」という時代の終わりを迎えた年かもしれません。

企業が問われているのは、「提案を受け入れるかどうか」ではなく、「どのように経営に生かしていくか」です。

その対応は、提案の背景にある思惑や、短期的・長期的という視点に応じて、柔軟かつ戦略的に分けて行うべきでしょう。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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