日本航空による「株式併合による非公開化」の株主提案を受けて、エージーピーがガバナンス検証委員会を設置。その意味と、日本航空の対応。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

エージーピー(AGP)は、株主である日本航空から2025年4月25日に「株式併合による非公開化」などの株主提案があったことを受けて、4月28日に「株主提案に関する当社の認識と対応方針のお知らせ」を開示し、5月2日に「非公開化提案に向き合う当社の意思決定プロセス・ガバナンス体制の透明性・独立性・妥当性の検証」などを目的とするガバナンス検証委員会を設置することを明らかにしました。

AGPがガバナンス検証委員会を設置する目的

株主提案に対してAGPがガバナンス検証委員会を設置する目的は、何なのでしょうか。珍しいケースなので、分析してみます。

AGPの5月2日付け開示によると、ガバナンス検証委員会を設置する目的は、

当社は、中期経営計画(2022~2025年度)において掲げてきたESG経営の実践およびコーポレート・ガバナンスの実質的強化の取り組みの一環として、今回の株主提案に対し、外部の中立的専門家による客観的・専門的視点からの検証を行うため、ガバナンス検証委員会を設置いたしました。

とのことです。

正直なところ、この部分だけを読んでも、何が言いたいのかよくわかりません。

そこで、5月2日付け開示資料の前段を読むと、

本株主提案と当社の認識との間には、複数の事実認識や経緯において齟齬が見受けられ、当社の企業価値および少数株主を含む株主共同の利益に重大な影響を及ぼすおそれがあると判断しております。

(中略)

独立した上場会社として、当社はこれまで利益相反の排除を含むコーポレート・ガバナンスの強化に継続的に取り組んでまいりましたが、本株主提案によって当社の経営姿勢や体制に対する誤解が生じるおそれがあることから、4月28日付で前記対応方針を開示するとともに、同日開催の第705回臨時取締役会において、第三者による客観的検証の実施方針を決議いたしました。

とあります。

また、4月28日付け「株主提案に関する当社の認識と対応方針のお知らせ」には、

  • 2021年11月25日付けでAGPと日本航空とは上場維持に向けた相互協力をする覚書を締結した後、日本空港ビルディング、ANAホールディングスとも同様の覚書を締結し、それ以降、上場維持に向けた取組をしていたこと
  • 2025年1月17日、日本航空から非公開化の意向が表明されたこと
  • 日本航空が3月24日に開示したコーポレート・ガバナンス報告書にはAGPの上場維持を含む方針が記載されていて、株主提案の内容と矛盾していること(なお、報告書は、AGPに関する記述部分を含め、4月25日に更新されました)
  • AGPが4月9日に日本航空にその矛盾を問う質問を書面でしたものの回答はなく、今回の株主提案に至ったこと

などの経緯が時系列に即して説明されています。

AGPの取締役・取締役会からすれば、2021年以降、主要株主である日本航空、日本空港ビルデング、ANAホールディングスと覚書を締結し、意向を汲んで上場維持に努めていたのに、急転直下、非公開化の株主提案をされるのは梯子を外された感があるのかもしれません。

そのため、検証委員会によって、「自分たちの対応が間違っていたのか」という検証をしたいのでしょうか。

検証の対象とされている以下の論点を見ても、おそらくそうなのでしょう。

  • 2025年1月以降、大株主より非公開化に関する書面を当社が受領するに至るまでの事実関係の整理
  • 非公開化提案に至るまでに、主要株主と当社との間でどのような対話があったかを確認し、それが主要株主側の意思決定や公表方針と整合しているかの検証
  • 株主提案に示された非公開化理由と、当社の上場維持方針・コーポレートガバナンス報告書との整合性
  • 非公開化提案に向き合う当社の意思決定プロセス・ガバナンス体制の透明性・独立性・妥当性の検証

とはいえ、一体、検証することにどんな効果があるのかがよくわかりません。

今後、非公開化の株主提案を受け入れたときに取締役・取締役会の経営判断の合理性を欠くとして株主から代表訴訟で責任追及されることを避けるためなのか、それとも、非公開化の株主提案を受け入れないとしても、それまでの株主との対話の状況が不十分であったとして、株主から代表訴訟で責任追及されることを避けるためなのか・・・。

日本航空のコーポレート・ガバナンス報告書が更新されたことの意味

株主提案をした日本航空は3月24日にコーポレートガバナンス報告書を一度開示した後、4月25日にエージーピーに関する記述部分を含め更新したものを開示し直しました。

AGPから、日本航空が3月24日に開示したコーポレート・ガバナンス報告書にはAGPの上場維持を含む方針が記載されていて、株主提案の内容と矛盾していることを指摘されたからかもしれません(あくまで推測)。

AGPに関する部分を抽出すると、3月24日付け報告書では、以下の内容になっていました。

〔株式会社エージーピー〕外販比率を高め、市場価格競争力の強化を推進し、各事業分野で自立しうる企業を育成し、当社にとって将来、キャピタルゲイン等を通じて財務面で貢献しうるグループ会社を形成することを目的に、2001年に東京証券取引所JASDAQに上場し、現在は東京証券取引所スタンダード市場に上場しています。同社の主要事業の航空機用地上動力設備や空港施設整備等の主要ユーザーである当社との対話を促進することでより効率的・効果的な設備投資や運営を実現するとともに、上場により、資金需要に対応した経営資金の自己調達能力の強化を実現することで、企業価値を高めることを目指しています。以上のことから、株式会社エージーピーが当社の関連会社であることは、同社の健全な発展につながるものであるとともに、当社グループ全体の企業価値の最大化に資するものと考えております。

たしかに、この記載からは、日本航空がAGPが上場した関連会社であることが、日本航空の企業価値の最大化に資すると考えていたように読めます。

しかし、日本航空は、4月25日付け報告書では、以下のように大幅に内容を変更しました。

株式会社エージーピー(「AGP」)は、1965年12月に、日本空港動力株式会社として設立され、現在、国内主要空港において駐機中の航空機へ動力(電力・空調)を供給する事業に従事し、24時間体制で空港施設の維持管理を行うエンジニアリング事業、商品販売事業などをグループとして営んでおります。AGPの航空機への動力供給は、航空機そのものの運航のみならず、航空機整備、グランドハンドリング、貨物の搭・降載といった空港におけるほぼ全ての業務を実施するために必要不可欠な基本機能であるとともに、仮に航空機への動力供給に不具合が発生した場合には航空機システムへ甚大な損害を及ぼす可能性(その程度によっては航空機の火災などにつながる可能性もあります)があるなど、航空・空港事業において安全上極めて重要な技術的要素となっております。このように航空・空港における安全で安定的な動力供給や空港施設の維持管理の事業を行うAGPは、当社のみならず、全ての航空・空港関係事業者にとっても極めて関心の高い重要インフラです。そのため、AGPが、自ら掲げる「技術力を極め、環境社会に貢献します」という企業理念に基づき、その企業価値を向上させ、社会的使命を果たしていくためには、全ての航空・空港関係事業者と密な情報交換を行いながら、強い連携や協業を図りつつ、安定した経営を維持することが必要であると考えております。もっとも、近時、AGPにおいては、独立した上場企業として、当社をはじめとする大株主を含む全ての株主に対する情報提供の平等性を厳格に徹底するという立場から、当社を含む大株主との個別の対話を控える立場をとっておられると理解しておりますが、AGPとの間で建設的な対話を行うことが困難な状況においては、航空・空港関連事業者が適切に連携しつつ、業界一丸となってAGPの経営を取り巻く様々な課題に対応するための取組みを進めていくことはできないものと思われ、したがいまして、今般、当社は、AGPの企業価値を向上させるとともに、空港領域・航空業界が直面する社会課題の解決に取り組むことを目的として、AGP株式を非公開化することが最善であると判断し、2025年4月25日、AGPに対し、2025年6月開催予定の同社の第60期定時株主総会において、AGP株式の併合、単元株式数の定めの廃止その他の定款の一部変更及び取締役選任に関する株主提案を行う旨の書面を提出しました。なお、日本空港ビルディング株式会社、ANAホールディングス株式会社は、本株主提案の内容に賛同し、本定時株主総会において、本株主提案に基づき付議される本議案に対し賛成の議決権行使を行うことに同意しております(注)。その詳細については、2025年4月25日付「株式会社エージーピーに対する株式併合、単元株式数の定めの廃止その他の定款の一部変更及び取締役選任に関する株主提案に関するお知らせ」と題する当社の公表文(「2025年4月25日付公表文」)をご参照ください。

(注)AGPに関する当社提出済み大量保有報告書につき、当社は、2025年4月25日付けにてを議決権の共同行使に関する変更報告書を提出致しました。

その内容の正誤や妥当性については部外者の私にはわかりませんが、しかし、記載内容を見ると、AGPを取り巻く環境・課題が変化しているのに、AGPがすべての株主を平等に扱うことを厳守し、大株主との対話を控えていることから主張株主の意向が経営に反映せず、課題の変化に対応するのが難しいと日本航空が判断したのであり、日本航空がAGPの非公開化を提案する内容のもっともらしさは感じます。

しかも、日本航空、日本空港ビルデング、ANAホールディングスの主要株主3社(3社合計で株式保有割合は63%超)とAGPとが上場維持に向けた相互協力をするとの覚書を締結したのは2021年であり、現在とは企業を取り巻く環境が異なります。

実際、日本航空の「2021-2025年度 JALグループ中期経営計画ローリングプラン2024」がちょうど終期を迎えるタイミングであり、これを機に、日本航空がAGPの位置づけについて臨機応変な判断をすることも合理的な意思決定と言えましょう。

だとすれば、日本航空が社会情勢・経営環境の変化を根拠に非上場化を主張するのも納得できます(とはいえ、株主として非公開化を提案するなら、そもそも上場維持を前提とした覚書を締結しているのだから、覚書を破棄する手順が必要だと思います)。

覚書や株主平等という原理原則を重視したAGPの取締役・取締役会の経営判断と、企業を取り巻く環境の変化に臨機応変に対応することを前提に主張株主との対話を重視した日本航空の経営判断のどちらも間違っているようには思えませんが、「企業価値の向上」という至上命題を前提にすれば日本航空側にやや部があるように思えます。

部があるというのは、定時株主総会にて、他の株主・投資家からの支持を得やすいという意味です。

今後の行方に注目していきたいと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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