上場会社がコーポレートガバナンス基本方針に、社外取締役の在任期間の上限を定める動き。社外取締役の独立性・社外性を確保するために必要なこととは

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

以前に、上場会社の社外取締役の在任期間が長期化していることの現状とその課題を解説しました。

こうした現状を踏まえ、社外取締役の在任期間の上限を自主的に定める動きが見られます。

法律上は上限期間の定めはなく、コーポレートガバナンス・コードにも「原則4−9」で「独立性判断基準を策定・開示すべき」と定めているだけなので、在任期間の上限を自主的に定める企業にはは、コーポレートガバナンスを徹底しようとする企業姿勢を看取できます。

ヨロズが社外取締役の在任期間の上限を取締役会で決定

自動車のサスペンションの製造等を行うヨロズは2025年6月27日、コーポレートガバナンス・ガイドラインを改定し、「社外取締役としての在任期間の上限が 12 年を超えない人物であること」を社外取締役の要件とすることを明らかにしました。

コーポレートガバナンス報告書では、より厳しく、

<原則4-9>
(独立社外取締役の独立性基準)
 会社法で定める「社外取締役」、及び東京証券取引所の定める「独立性基準」の要件を満たしている人物であることとしております。さらに社外取締役としての在任期間は、基本的に10年とし、10年を超える場合はその理由を公表いたします。なお、いかなる場合であっても在任期間の上限は最長12年といたします。

と定めています。

「10年を超える場合には、その理由を公表する」としているのは、珍しいのではないでしょうか。

「株主との対話」が要請されている昨今では、株主・投資家の理解を得るために理由を公表することにしたのだと理解できます。

他の上場会社では社外取締役の在任期間の上限はどうなっているか

こうした社外取締役の在任期間の上限を定める動きは、ヨロズに限ったことではありません。

むしろ、既に社内のコーポレートガバナンス基本方針などに定めている上場会社は少なくありません。

ネット検索でヒットした例を何社か紹介します。

  • ニチレイはコーポレートガバナンス基本方針に「社外取締役は独立性確保の観点から在任期間の上限を6年とする。」と定めています。
  • 東京海上HDはコーポレートガバナンス基本方針に「社外取締役の在任期間は原則として最長10年までとする。」と定めています。
  • みずほフィナンシャルグループはコーポレートガバナンスガイドラインに「全社外取締役の平均通算在任期間は、原則として、 6 年を超えないこととし、定期的かつ継続的に社外取締役の交替を行う。」と定めています。
  • 住友商事はコーポレートガバナンス原則に「取締役会長の在任期間は、原則として6年を超えない。また、社外取締役の在任期間は、原則として6年を超えない。」と定めています。
  • 日立製作所はコーポレートガバナンスガイドラインに「指名委員会は、原則として、通算在任期間が10 年を超える者を社外取締役候補者としない。但し、指名委員会が特別に認めた場合、通算在任期間が10 年を超える者を社外取締役候補者とすることがあるが、この場合であっても、通算在任期間が12 年を超える者を社外取締役候補者としないものとする。」と定めています。

単に在任期間の上限を定めるだけでなく、ニチレイのように「独立性確保の観点から」と強調したり、みずほフィナンシャルグループのように「定期的かつ継続的に社外取締役の交替を行う」と宣言している会社は、独立性・社外性を確保しようとしている姿勢を伺うことができます。

他方で、「原則として」と定めている企業も少なくありません。

原則があれば当然例外もあるので、下手すると「例外」が原則のように運用される懸念もないわけではありません。

日立製作所が例外にも「この場合であっても」と、さらに上限を定めたことは、そうした運用上の懸念に配慮した工夫かもしれません。

社外取締役に必要な要素

社外取締役の独立性・社外性は在任期間だけで形式的に判断されるものではありません。

コーポレートガバナンス・コードは、独立社外取締役の独立性判断基準だけではなく「資質」についても要求しています。また、「実効性確保のための前提条件」なども要求しています。

コーポレートガバナンスの徹底のためには、在任期間の上限を定めることに満足せずに、社外取締役候補者の資質についてもどのような基準で判断するのかを社内方針として定めることも忘れないようにして下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

error: 右クリックは利用できません