国内の3大メガバンクが、2029年3月末までに計1兆円以上の政策保有株を削減する方針を打ち出すなど政策保有株解消が加速。企業に求められる「真の安定」への転換。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2026年3月31日の日経電子版(会員限定記事)にて、国内の3大メガバンクが、2029年3月末までに計1兆円以上の政策保有株を削減する方針を打ち出したことが報じられていました。

記事にもあるとおり、国際的な銀行資本規制である「バーゼル3」への対応や、資本効率を重視するコーポレートガバナンス・コードの浸透が主な要因であると考えられます。

銀行側にとって、株式を保有し続けることは、万が一の株価下落時に自らの自己資本を傷つけるリスクを抱えることを意味します。

そのため、これまでの持ち合いという慣習を維持するよりも、株式を売却して得た資金を成長分野へ投資する方が、銀行自身の経営健全性を高めることにつながると判断したと推察できます。

株式売却が企業にもたらす心理的・実務的リスク

長年、メインバンクに自社株を持ってもらっていた企業経営者にとっては、その株式が手放されると、心理的な不安を招くはずです。

特に上場会社の場合には、いわゆる安定株主がいなくなることで、敵対的買収を仕掛けられたり、アクティビスト(物言う株主)から厳しい要求を突きつけられたりするのではないかという懸念が生じるためです。

しかし、近年の議決権行使助言会社の動向を見ると、政策保有株を多く持つ企業の経営トップ選任に反対を推奨する基準が厳格化しています。

例えば、米議決権行使助言大手のISSは、政策保有株の純資産比率が一定基準(20%など)を超える場合、経営トップの選任案に反対を推奨する方針を打ち出しています。

実際に、2024年の株主総会では、この基準に抵触した企業の代表取締役に対する賛成率が大きく低下する事案が発生しています。

銀行に株を持ち続けてもらうこと自体が、かえって経営陣の地位を不安定にするという逆転現象が起きていると考えるのが自然です。

実例に見る「保有ゼロ」への流れ

実際に、2024年度には三菱UFJフィナンシャル・グループがホンダやアシックスの株式を、三井住友フィナンシャル・グループがサンリオやブリヂストンの株式を売却し、保有額がゼロになったと報じられています。

これほどの大手企業であっても、銀行との資本関係を解消し、銀行に依存しない自立したガバナンス体制へと舵を切っています。

これらの企業が売却を受け入れたのは、銀行との関係を、株式の保有という形式的なものから、純粋なビジネスパートナーとしての実利的な関係へと進化させる必要があると判断したからだと推察されます。

これまでは、銀行が企業の株を持っていること自体が長年の付き合いの証やいざという時の後ろ盾として機能してきました。

しかし、企業にとっては「銀行が大株主だから」「メインバンクだから」などと、必要以上に銀行に気を遣い、自主的な経営判断を妨げる一因にもなりかねませんでした。

これからは、株式の保有ではなく、融資や海外進出の支援、M&Aのアドバイスといった金融サービスを通じて企業を支えてもらう方が、銀行だけではなく、企業にとっても健全な利益につながると考えたのではないでしょうか。

「岩盤先」と呼ばれるオーナー企業の課題

一方で、日経の記事では、創業者一族が経営に深く関わるオーナー企業などでは、依然として売却交渉が難航する「岩盤先」が存在することも指摘されています。

経営者が「安定株主を失いたくない」「メインバンクとの絆を維持したい」と考えるのは、組織を守る責任感ゆえのことだと思います。

しかし、世代交代を待って交渉を進めるという銀行側の姿勢を見てもわかる通り、売却の流れを止めることは現実的に困難であると考えられます。

従来の関係維持に固執しすぎるあまり、市場から「変化を拒む企業」と見なされてしまうことは、中長期的な企業価値を損なうリスクがある、と認識を改める必要があります。

今後の対策としての「対話」と株主構成の再構築

銀行が株を手放す局面において、企業が取るべき対策は、単に売却を拒むことではなく、代わりとなる新たな株主をどのように迎えるかを主体的に考えることだと思います。

メガバンクの中には、企業の意向を汲み取り、特定の投資家に株を振り向ける支援を行っている例も見られます。

このように、自社の経営戦略を理解し、長期的に応援してくれる投資家を探すことに注力することが、結果として「真の安定株主」をつくることにつながります。

資本政策を経営の柱に据える必要性

これからの時代、銀行との関係は「株を持ってくれているから安心」という情緒的なものから、明確な資本政策や取引関係に基づいた合理的なものへと変わっていくことは避けられません。

アクティビストや買収のリスクを恐れるあまりに現状維持を選択するのではなく、自社の資本効率を向上させ、誰が株主であっても文句の言われない透明性の高い経営を目指すことが、最も有効な防衛策になるはずです。

銀行との交渉を、自社の資本構成を最適化する絶好の機会と捉え直すことが、これからの経営陣に求められる姿勢であるように思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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