フリーランス保護法のポイントを解説。フリーランスの「保護」どころか、むしろ、フリーランスへの業務委託が減る可能性あり。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

エンジニアや配達員など組織に属さないまま働く人を保護する特定受託事業者に係る取引適正化等法(通称、フリーランス保護法)が4月28日、成立しました。公布から1年6か月以内に施行されます。

今回は、フリーランス保護法のポイントを、委託する側の目線と、受託するフリーランスの目線の両方からザックリと解説します・・・あくまでもザックリなので、正確性より理解重視で多少言葉を端折ります。

フリーランス保護法のポイント

メディアなどでは「フリーランス保護法」と呼ばれています(なので、このnoteでもその呼び方を使います)。

しかし、フリーランス保護法は「フリーランスの保護」を目的としたものではありません

フリーランスとの取引を適正にするために「委託する事業者に規制を課す」ルールです。法律の正式名称も「取引適正化」という言葉を使っています。

ザックリに言うと、

  1. 委託する側が書面等を交付する義務
  2. 委託する側が禁止される行為
  3. 委託する側がフリーランスの就労環境を整備する義務
  4. 委託する側が違反したときの罰則

を定めています。

フリーランスには、委託する側が違反しているときに、公正取引委員会か中小企業庁に適当な措置をとるように請求できる権利が認められているだけです。

委託する側が規制に従えば、結果的に、フリーランスが保護されるにすぎません。

条文はこちらです。

フリーランスとは誰?どんな業務委託に適用されるか?

フリーランス保護法とは呼ばれていますが、法律には「フリーランス」という言葉はありません。
また、すべての業務委託に適用されるわけではありません。

法が適用される業務委託の種類

フリーランス保護法は、「特定受託事業者」に対して物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務を提供させる業務を委託する場合に限って、「業務委託事業者」に取引の適正化のための規制を課しています。

情報成果物の作成というのは、プログラム、映画・放送番組・影像・音声・音響、デザイン(文字、図形、記号、色彩を結合させたもの)などの作成です。
今なら、YouTubeの動画制作やウェブサイトの制作などが含まれます。

役務というのはサービスです。何らかのサービスを提供させるときが法律の対象です。
note利用者ならwebライターなどがイメージが湧きやすいかもしれません。

特定受託事業者

まず受託する側です。

受託する側のうち、

1.個人であって、従業員を使用しないもの
2.法人であって、代表者以外には役員がいない、かつ、従業員を使用しないもの

のいずれかに該当する者を「特定受託事業者」と言います。

個人と法人の代表者以外には従業員も役員もいないことが前提です。

「特定受託事業者」の個人と法人の代表者のことを「特定受託業務従事者」といいます。
強いて言うなら、これが「フリーランス」のことを意味します。

業務委託事業者・特定業務委託事業者

次に委託する側です。

「特定受託事業者」に業務委託する事業者すべてを「業務委託事業者」といいます。

「業務委託事業者」のうち、

1.個人であって、従業員を使用するもの
2.法人であって、2人以上の役員がいて、従業員を使用するもの

のいずれかに該当する者を「特定業務委託事業者」と言います。

個人事業主でも(事務所を構えて)従業員が1人でもいれば特定業務委託事業者です。

また、株式会社や合同会社などの会社組織にして、代表者の家族や友人を取締役や監査役などの役員にして、実際には家族や友人は名前を貸してるだけでも、従業員が1人でもいれば、特定業務委託事業者です。

共通している要素は、従業員がいるということです。ただし、この従業員には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含みません。

下請法の「親事業者」との違い

下請法の場合には、委託する側を意味する「親事業者」に該当するのは、

  • 親事業者が、業として物品を販売する場合の製造委託
  • 親事業者が、業として物品の製造・修理を請け負っている場合の製造委託
  • 親事業者が、業として物品の修理を請け負っている場合の修理委託
  • 親事業者が、情報成果物を業として提供している場合や作成を業として請け負っている場合の情報成果物の作成委託
  • 親事業者が、役務提供を業として提供している場合の役務提供の委託

というように「業として」の要件を満たした場合に限ります。

親事業者に物品の販売先、修理の注文主、情報成果物や役務の提供先が存在することが前提ですが、それ以外にも、親事業者が自社工場で使用する工具などを内製している場合や自社工場の機械を内部でメンテナンスしている場合も「業として」には含まれます。

これに対して、フリーランス保護法では「業として」の要件は入っていません。「特定業務委託事業者」が自己使用する場合の業務委託にもフリーランス保護法が適用されるということです。

そのため、例えば、自社ウエブサイトの作成を個人事業主に委託するときには下請法が適用される余地はないけれど、フリーランス保護法は適用される、という違いがでてきます。

業務委託事業者・特定業務委託事業者に課せられる義務

「特定受託事業者」に業務を委託した場合は、取引の適正化のために、以下の2種類の義務を負っています。

  1. 取引条件などを明示する義務

    特定受託事業者に業務委託をした場合(業務委託事業者)は、特定受託事業者に給付する内容、報酬の額、支払期日等を書面又は電磁的方法により明示する義務を負います。
    ※詳細なルールは公正取引委員会が規則で定めます。

  2. 報酬支払い遅延防止義務

    特定業務委託事業者」は特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払う義務を負います。再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内です。

1は、特定受託事業者に業務を委託した事業者すべて(業務委託事業者)に課される義務です。
2は、特定受託事業者に業務を委託した事業者のうち特定業務委託事業者に課される義務です。

特に注意して欲しいのは、報酬支払いの時期です。

60日は「給付を受領した日」から起算して計算します。

業務委託事業者は受入検査や検収が60日以内に終わっていなくても報酬を支払う義務があります。

特定受託事業者から請求書を受け取ったタイミングや、業務委託事業者の社内の経理の締日は関係ありません。


給付を受領してから60日以内に支払わなければ、フリーランス保護法違反です。

業務委託事業者はキャッシュフローが回るように注意してください。

この支払時期が「給付を受領した日から60日以内」というのは、下請法が適用される下請代金の支払時期でも同じです。下請法が適用される取引でも再確認してください。

特定業務委託事業者の7つの禁止行為

「特定受託事業者」との業務委託(政令で定める期間以上のもの)については、「特定業務委託事業者」に、以下の7つの禁止行為が定められています。

  1. 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
  2. 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
  3. 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
  4. 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
  5. 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
  6. 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  7. 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

1〜3は、特定受託事業者の責任に帰属する事由がないときに禁止されています。

例えば、納品された金属加工品が特定受託事業者の管理の落ち度で錆びていたとしましょう。
この場合には、特定受託事業者の責任に帰属する事情があるので、受領の拒否、報酬減額、返品などをすることができます。

5は、正当な理由がないときに禁止されています。

6と7は、特定受託事業者の利益を不当に害することが禁止されています。

これらの行為が禁止されるのは「特定業務委託事業者」です。

その内容は、概ね、下請法で禁止される行為と共通しています。

特定受託業務従事者の就労環境を整備する義務

特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者の就労環境を整備する義務を負います。

具体的には、以下の4つの義務です。

  1. 募集情報の的確な表示

    特定受託事業者を広告等で募集するときは、虚偽の表示等は禁止されます。また、その内容は正確かつ最新のものにする義務を負います。

  2. 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮

    特定受託事業者が妊娠、出産、育児、介護と両立して委託した業務(一定期間以上のものに限定されます)を行えるように、申出に応じて必要な配慮することが義務づけらます。

  3. ハラスメント対策

    特定受託業務従事者に対するセクハラ、マタハラ、パワハラについて相談、対応等必要な体制を整備する等の措置を講じる義務を負います。

  4. 解除等の予告

    特定受託事業者との業務委託(一定期間以上のものに限定されます)を中途解除・更新拒絶する場合には、原則として、中途解除・更新拒絶日の30日前までに特定受託事業者に対し予告する義務を負います。

こうして並べてみると、特定業務委託事業者にとっては結構な負担です。

特定業務委託事業者の中には小規模な会社もあるでしょう。小規模な会社では、1と4はともかく、2と3は無理かもしれません。

この法律ができたによって、かえって、小規模な会社からフリーランスへの業務委託が減る可能性もあるような気がします。

委託する企業が違反した場合

特定受託事業者の権利

特定受託事業者には、特定業務委託事業者が違反しているときに、公正取引委員会か中小企業庁に適当な措置をとるように請求できる権利が認められています。

行政処分

特定業務委託事業者が違反している場合、公正取引委員会などが立ち入り検査や勧告、命令、社名公表などを行います。

刑事罰

特定業務委託事業者が行政からの勧告に従わない場合、報告の求めに応じない場合、虚偽の報告をした場合、検査を拒否した場合には、50万円以下の罰金が科せられます。

刑事罰は特定業務委託事業者の法人、代表者、担当者などに課せられます(両罰規定)。

独占禁止法、下請法、労働法との関係

フリーランスや個人事業主との取引は、独占禁止法、下請法、労働法が適用される場合もあります。

  1. 独占禁止法との関係

    独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されます。そのため、事業者とフリーランスとの取引全般に適用できます。典型的なのは、優越的地位の濫用です。

  2. 下請法との関係

    下請法は、取引の発注者が資本金1000万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されます。そのため、一定の事業者とフリーランス全般との取引に適用できます。

  3. 労働法との関係

    フリーランスが実質的に発注事業者の指揮命令を受けていると判断される場合には、現行法上「雇用」に該当します。この場合は、労働関係法令が適用されます。

詳しくは、2021年3月26日に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が作成した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を確認してください。

まとめ

フリーランス保護法によって規制されるのは、委託する側の企業です。委託する企業は、フリーランスに委託する場合にも取引条件の明示や、就労環境の整備など、具体的にどのような義務を負うことになったのか、キチンと確認して対応することが必要です。

受託するフリーランスは、規制の内容を見て、「自分に委託している企業は守っていない」と思えば、委託する側の企業と取引条件を定める際の交渉材料に使うことができます。

今後は、行政が相談等する窓口を設置することも義務づけられています。窓口が設置された後は、窓口に相談することができるようになります。

今回は、フリーランス保護法のポイントとなる部分だけを抽出してザックリと解説しました。すべてを網羅したわけではないので、もし詳細を知りたい方は、厚労省のサイトに掲載される情報を定期的に確認することをオススメします。

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アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。