小学館・光文社に対し公正取引員会がフリーランス法(取引条件明示義務違反、期日における報酬支払義務違反)に基づく日本初の勧告。フリーランス法の報酬支払い義務の期日に関する規制内容はどうなっているか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

公正取引員会は2025年6月17日、小学館と光文社に対して、フリーランス法に基づく日本初の勧告を行いました。

両社とも、取引条件明示義務違反と期日における報酬支払義務違反を理由とするものです。

小学館と光文社のフリーランス法違反の概要

小学館と光文社によるフリーランス法違反(取引条件明示義務違反と期日における報酬支払義務違反)の概要は、次のとおりです。

公正取引員会の図解がわかりやすいので引用します。

小学館のフリーランス法違反

小学館のフリーランス法違反は以下の2点です。

  • 2024年12月1日から31日までの間、フリーランス(特定受託事業者)191名に、小学館が出版する月刊誌及び週刊誌に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施を業務委託をした際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の明示事項を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった
  • 業務委託をした際に、直ちに、報酬の支払期日を当該事業者に明示せず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった

光文社のフリーランス法違反

光文社のフリーランス法違反は以下の2点です。

  • 2024年11月1日から2025年2月27日までの間、フリーランス(特定受託事業者)31名に対し、光文社が出版する月刊誌、週刊誌、文庫本等に関する原稿、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施、撮影道具等の手配等を業務委託した際に、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の明示事項を、書面又は電磁的方法により当該事業者に対し明示しなかった
  • 業務委託をした際に、直ちに、報酬の支払期日を当該事業者に明示しておらず、当該事業者に対し、当該事業者の給付を受領した日又は当該事業者から役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった

両社がしたフリーランス法違反の内容は同じです。

業務委託する際の取引条件の明示義務は、文字通りそのままで、業務委託する際には、直ちに、取引条件を書面かメールなどで明示しなければなりません。

私も出版・執筆を依頼されるケースが多いですが、最近は、どこの新聞社や出版社も取引条件の明示を徹底しています。

小学館・光文社は現場まで規制が徹底されていなかったのでしょう。

もう1つの報酬支払義務は少しややこしいので別項で解説します。

フリーランス法の報酬支払義務の期日に関する規制内容

フリーランス法では、報酬支払い義務の期日に関しては、

  • 給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、その支払期日までに報酬を支払わなければならない。
  • 支払期日が定められなかった場合は、給付を受領した日又は役務の提供を受けた日が支払期日となり、その支払期日までに報酬を支払わなければならない。

と2段構えになっています。

「給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内」が支払期日

原則として、支払期日は、「給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内」です。

ここは中小受託取引適正化法(改正下請法)と共通しています。

原稿執筆の例で説明すると、誤解をしがちですが、「校了から60日以内」ではなく「給付を受領した日から60日以内」ということです。

出版社は執筆原稿を受け取ったら、その後に編集・ゲラ刷り・校正・校了の過程を辿ると思います。

仮に原稿を受け取ってから60日以内に校了を迎えていなくても原稿料などの報酬を支払う必要があります。

支払期日を定めなかった場合は、給付を受領した日又は役務の提供を受けた日が支払期日

業務委託時に支払期日を明示しなかったなど支払期日を定めなかった場合は、支払期日は「給付を受領した日又は役務の提供を受けた日」です。

原稿執筆の例で言うと、原稿を依頼するときに支払期日を定めていない場合には、原稿を受け取ったその日に報酬を支払わなければなりません。

小学館・光文社の場合には、原稿執筆以外に、写真データ、イラスト等の作成、ヘアメイクの実施、撮影道具等の手配等を業務委託しているので、この場合、作成した写真データ、イラスト等のデータを受け取った日、あるいは、ヘアメイクの実施や撮影道具の手配が完了した当日に報酬を支払わなければならなかったのです。

さすがにビジネスの現場で当日その場で支払うことはほとんどないと思います。

後から振り込んで支払うためには、業務委託時に支払期日を明示することが不可欠です。

出版社の法務部門と経理部門と現場編集担当者の認識のズレ

出版社の法務部門はフリーランス法の内容を理解しても、経理部門や現場編集担当者の理解が不十分だと、現場編集担当者から経理部門に支払いの連絡が上がってこなかったり、経理部門に支払いの連絡が上がってきても「社内の経理の締日を過ぎている」などとして支払いのタイミングが給付受領日の60日後よりも遅れる事態を招きます。

これは出版社に限りません。フリーランス法や中小受託取引適正化法(改正下請法)が適用される取引全般に言えることです。

今一度、法務部門から経理部門や現場の担当者宛にフリーランス法、中小受託取引適正化法(改正下請法)の支払期日に関する認識を周知・浸透させるようにしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

error: 右クリックは利用できません