プルデンシャル生命の金銭不祥事、再発防止策は子会社止まり。報酬制度の改革を止めてきた親会社(持株会社PHJや米国親会社PFI)を変えなければ再発は防げないのではないか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

プルデンシャル生命保険は2026年10月8日、営業社員や元営業社員による金銭不祥事について、社外特別調査委員会の調査報告書を公表しました。

顧客が申告した金額の合計は61億円を超え、行為者は159名、顧客は794名にのぼります。事案は1992年から2025年まで続いていました。

同社は同じ日に、最低保証給の導入や支社体制の刷新などの再発防止策も公表しています。

金融庁は翌9日、プルデンシャル生命とグループのジブラルタ生命に業務停止命令と業務改善命令を出しました。両社の持株会社であるプルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン(以下「PHJ」)にも業務改善命令を出しています。PHJの上には、完全親会社である米国のPrudential Financial, Inc.(以下「PFI」)がいます。

報告書は、ライフプランナー(以下「LP」)と呼ばれる営業社員を「独立自営家」として扱い、報酬を新契約に強く連動させ、会社や管理職による管理を控えてきたビジネスモデルに、不正のリスクがもともとあったと認定しています。

営業成績を過度に重視する企業風土、支社長や営業所長による管理の弱さ、本社とPHJによる統制の不全、グループの意思決定におけるプルデンシャル生命の主体性の薄さも、報告書が挙げた原因です。

公表された再発防止策をこれらの原因と1つずつ突き合わせると、効果が期待できる対策と、原因の解消につながらない対策がはっきり分かれます。

管理職の基本給引き上げで守れるのは報酬の下限まで

報告書によると、支社長と営業所長の報酬は、その大部分が配下のLPの新契約実績や採用人数で決まっていました。

支社長がLPに厳しく注意すれば、LPの成績が落ち、自分の報酬も減ります。報告書には、元管理職の「売れているLPには注意しづらい雰囲気はあった」という声も記録されています。管理する側と管理される側が、同じ数字から報酬を受け取る関係にありました。

これに対して再発防止策は、営業管理職の報酬に占める基本給の比率を30%程度に引き上げ、採用人数が報酬に直接連動する仕組みを廃止するとしています。手当にはコンプライアンスやガバナンスの実績を反映させ、管理職自身が保険を販売することも原則として認めません。

LPの成績が落ちても管理職の生活が揺らがない状態を作る点では、報告書の指摘に応えています。コンプライアンスの実績が手当に反映されれば、LPを注意することが管理職自身の評価にもつながります。

しかし、基本給の引き上げで保証されるのは報酬の下限です。

報告書には、プルデンシャル生命が配下のLPの業績に連動する報酬そのものの廃止を検討していたと記載されています。公表された再発防止策で廃止が明記されたのは、採用人数との連動だけです。残りの7割程度が配下のLPの成績とどう結び付くのかは書かれていません。

支社長や営業所長は、ほぼ全員がLP出身で、LPとしての業績基準を満たして登用された人たちです。もっと稼ぎたいと考える管理職にとって、報酬を増やす手段が配下のLPの成績である限り、成績を上げるLPに強く出る理由や動機は生じません。

LPの側も同じです。

最低保証給の導入で報酬の下限はできますが、上限を設けるとの記載はなく、新契約が報酬に反映される仕組みは続きます。上を目指す管理職と上を目指すLPの利害は一致したままで、LPが数字を上げるために何をしているのかを管理職が問いただす動機は弱いままです。

管理職の報酬の見直しは、報酬の下限を支える対策としては意味があります。しかし、上を目指す人の行動を統制する対策としては、まだ足りない気がします。

成績上位のLPには会社の目がまだ届かない

成績上位のLPには、管理職の動機とは別に、支社長の指示そのものが届きにくい事情もあります。

報告書には、LPの最上位の資格であるエグゼクティブ・ライフプランナーの一部に、営業成績さえ上げていればよいとの考えから支社長の指示に従わない者がいるという証言があります。成績の高いLPほど支社長の報酬への影響も大きく、管理する側とされる側の関係が実際には逆転していた、というのが報告書の指摘です。

行為者には高収入のLPも含まれています。重点的に調査された行為者27名のうち22%は、行為を始めた当時の年収が1,500万円以上でした。

会社も、顧客との接点を増やす手を打っています。

本社スタッフが顧客に定期的に連絡するカスタマーサポートパートナー制度を4月に始め、顧客の同意を得て面談を録音し、AIで要約する仕組みの運用も10月7日から始めました。

しかし、報告書が認定した金銭の授受は、ホテルや飲食店での面談、LINEや電話でのやり取りの中で行われていました。録音されるのは、新契約や保全手続などの所定の面談です。

カスタマーサポートパートナーは現在51名で、保有契約は約462万件あります。報告書自身も、高額契約の顧客や見込客の紹介が多い顧客について、定期的な面談を義務付けるよう提言しています。

成績上位のLPほど顧客との関係が深く、会社が直接確かめる手段は少ないままです。上位のLPに向けた対策は、これから詰める必要があります。

自粛期間中に指示を破った支社長の処分が示されていない

管理職を通じてLPを管理するには、本社の指示が、まず管理職自身に守られている必要があります。

プルデンシャル生命は2026年2月9日から新契約の販売を自粛し、一部の例外を除いて新規の保険募集を禁じる指示を出していました。報告書によると、この指示に違反したのは延べ37名で、そのうち延べ33名が支社長でした。新規契約の申込みは64件あり、最後の申込みは4月です。

会社は、指示の周知不足や社員の誤解が原因だと説明しています。金融庁も処分の中で、自粛期間中に経営陣が営業社員を実際には監督していなかったと指摘しました。

それでも、違反した支社長がどう処分されたのかは、再発防止策にも公表資料にも書かれていません。社長ら3名の報酬返納は「自粛期間中に発生した不祥事への責任も含め」たものとされていますが、指示を破った本人たちの扱いは示されていません。

過去の事案でも、管理職の責任は問われにくい状態でした。

報告書によると、行為者を管掌していた営業所長157名と支社長167名のうち、懲戒処分等を受けたのは39名ずつで、降職以上の処分を受けた人はいません。退職やLPへの職種変更、本社への異動を理由に、処分の対象から外れた管理職が多くいます。

販売の自粛は、不祥事の発覚を受けて、会社の存続をかけて出した指示です。この時期に指示を破ったことは、平時の違反よりも重く扱うべきです。発覚直後の指示すら守られないのであれば、平時の社内ルールが守られる見込みはさらに低くなります。

周知不足や誤解という事情があったとしても、支社長は配下のLPに指示を守らせる立場にあります。その支社長自身が指示に違反した以上、通常より重い処分を科すことで、ルールを守らせる会社の姿勢が初めて現場に伝わります。処分を曖昧にすれば、支社長もLPも、本社の指示は守らなくても済むものと受け取ります。

会社として改革に本気で取り組む姿勢は、違反した支社長への処分とその理由を明らかにすることで示す必要があります。金融庁が業務改善命令で求めているのも、管理職を含めた処分です。

親会社は改革を止め、自らの見直しには手を付けていない

報酬制度の見直しを抑えてきたのはPHJだった

本社の指示が現場で軽く扱われてきた背景には、本社自身が改革を進められなかった事情もあります。報告書は、その原因となった親会社の判断を時系列で記録しています。

プルデンシャル生命は2019年、外部の監査法人に委託してビジネスモデルを点検しました。最終報告書は不適切行為の根本原因として「支社・LP独立性偏重の姿勢」「営業偏重の制度やルール」を挙げています。この最終報告書は、同年10月にPHJの取締役会にも提出されました。今回の調査報告書が挙げた原因と、ほとんど同じ内容です。

2024年5月、プルデンシャル生命が全契約者に対する潜在調査を決めた際、PHJの経営層の1人は「ジブラルタと同様の全契約者調査には賛成ではない」と返信しています。

2025年4月、プルデンシャル生命は金融庁から、経営陣がLPモデルそのものを議論して結論を出すよう指摘を受けました。同社は報酬制度の見直しを含めた金融庁向けの報告案を作り、PHJに確認を求めています。

これに対しPHJの経営層は、報酬制度が新契約に過度に重点を置いていることを認識している、といった表現は避けるべきだとし、「現在のLP報酬モデルを守るためにできる限りのことを行うべきだ」とコメントしました。プルデンシャル生命は表現を弱めたうえで、報告を金融庁に提出しています。

同じグループのジブラルタ生命が営業社員の報酬に固定給部分を導入していたことは、2021年頃の社内資料に記載があります。グループとして報酬制度を変える手段はあったのに、プルデンシャル生命では変えずにきたと読めます。

PHJの再発防止策は子会社の監視強化にとどまる

10月8日に公表された再発防止策は、プルデンシャル生命の施策です。

PHJが登場するのは「持株会社と連携したガバナンスの強化」という1項目だけで、プルデンシャル生命の改革の進捗をPHJが確認すること、グループの管理・監督のあり方を検証すること、外部専門家による改善諮問委員会を設けることが書かれています。

PHJが自社の施策を公表したのは、金融庁の業務改善命令を受けた9日です。

その内容は、3線管理の役割の明確化、コンプライアンスの専門人材の確保、グループ横断のモニタリング、内部監査の強化です。

いずれも、子会社をより厳しく監視するための施策です。

報酬制度の見直しを抑えてきた自社の判断を検証するとの記載はありません。報酬制度やビジネスモデルについて、PHJ自身がどう考えるのかも書かれていません。経営責任についても、金融庁から求められた事項として紹介しているだけです。

報告書が問題にしたのは、PHJが子会社を監視しきれなかったことに加え、PHJ自身が子会社の改革を止める側に回っていたことです。

監視する体制を厚くしても、監視する側の判断が変わらなければ、プルデンシャル生命の経営陣が報酬制度を見直そうとしたときに、同じことが繰り返されるおそれがあります。

当局に命じられた監視の強化には取り組みながら、自らの過去の判断は見直していないところに、PHJの本気度の問題が残ります。

かんぽ生命の事案との比較で残るPFIの問題

今回の処分と並べて見ておきたいのが、日本郵政グループのかんぽ生命保険による不適切販売の事案です。

金融庁は2019年12月27日、かんぽ生命と日本郵便に業務停止命令と業務改善命令を出し、持株会社の日本郵政にも業務改善命令を出しました。

日本郵政に対しては、グループのコンプライアンス委員会が不適切募集の兆候を把握しながら十分な調査や対応を指示しなかったことなど、グループガバナンスの不全を指摘しています。日本郵政への命令の根拠は保険業法第271条の29第1項で、今回のPHJへの命令と同じ条文です。

日本郵政は同じ日に、長門正貢社長らの退任を公表しました。かんぽ生命の植平光彦社長と日本郵便の横山邦男社長も、日本郵政の取締役を退任しています。グループの頂点にいた持株会社の経営陣が責任をとり、増田寛也氏が新たに日本郵政の社長に就いて改革を進めることになりました。

他方、プルデンシャルの場合、PHJの上にPFIがいます。

報告書には、PFIの経営層が2018年のメールで、変動報酬の考え方は見直されるべきだという金融庁の考えに「全く同意しない」と書いていたことが記録されています。2019年には、ジブラルタの不祥事を受けて起用した外部コンサルタントが、ジブラルタ、PHJ、PFIのガバナンスを「全てが『壊れている』」と評価しました。これに対してPHJの経営層は、販売一辺倒の風土を生み出すような組織的な要因は存在しないとの意見をPFIに伝えています。

委員会はPFIの役員12名のメールの提供を求めましたが、PFIは法務やコンプライアンス上の理由で応じていません。PFIの意思決定の全容は、今回の調査でも明らかになっていません。

PFIは米国の法人で、金融庁の処分の対象ではありません。日本郵政の事案と違い、当局が処分できるのはPHJまでです。PHJが自らの判断を見直さなければ、PFIの方針はPHJを通じてプルデンシャル生命に届き続けます。

報告書は提言の最後で、プルデンシャル生命の経営層に対し、顧客保護が求められる場面では、PFIと方針が違っても単に受け入れず、是々非々で協議するよう求めています。PHJには、保険業法上の経営管理義務を負う持株会社として、グループの不祥事を横断的に分析し、監督する役割を果たすよう求めています。

プルデンシャル生命の再発防止策は、営業の現場に向けた施策が中心です。

しかし、報酬制度の改革を止めてきたのはPHJとPFIでした。プルデンシャル生命だけが改革を進め、親会社の判断が問われないまま終われば、責任をとるのは不正をしたLPと、報酬を返納した現経営陣だけになります。

PHJは11月30日までに、業務改善計画を金融庁に提出します。その計画に、報酬制度の見直しを抑えてきた自らの判断の検証と、当時の経営層の責任が書かれるかどうかで、グループとしての本気度が分かるはずです。

子会社で不祥事が起きると、親会社は子会社に再発防止策を作らせ、その進捗を監視する立場に回りがちです。

しかし、子会社に再発防止策を求める前に、子会社が改革できなかった原因が親会社の方針の中にないかを確かめることが、グループガバナンスの出発点になる気がします。


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アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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