Appleが公開したiPad Pro(M4チップ搭載モデル)の広告動画が「炎上」し、副社長が謝罪。マーケティング広告動画の炎上はなぜ繰り返されるのか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

Appleは、2024年5月7日にiPad Pro(M4チップ搭載モデル)の発売を公表し、同時に、マーケティングの広告動画「Crush!」を公開しました。

世界中で動画を批判する声が起きた理由と、副社長の謝罪声明

この動画には世界中で批判の声が巻き起こりました。

ティム・クック社長のXのアカウントには、多くの批判の声が投稿されています。

Appleが公開した動画が伝えたかったメッセージは、おそらく、iPad ProがApple史上「最薄」の5.1mmであることと、楽器などの多機能のアプリをiPad Pro一つに「凝縮」したことだったと思われます。

しかし、動画のタイトルが「打ち砕く」を意味する「Crush!」で、かつ、動画の内容も楽器などをプレスでゆっくりジワジワと「破壊」していく様子を撮ったものであったことから、動画を見た人たちには「最薄」「凝縮」よりも「破壊」のメッセージが主として伝わってしまったのでしょう。

果たして、Appleのマーケティングコミュニケーション担当のトール・ミューレン副社長は、5月9日に、以下のように謝罪しました。

Creativity is in our DNA at Apple, and it’s incredibly important to us to design products that empower creatives all over the world. Our goal is to always celebrate the myriad of ways users express themselves and bring their ideas to life through iPad. We missed the mark with this video, and we’re sorry.

(以下、Google翻訳)
創造性はアップルのDNAの中にあり、世界中のクリエイターに力を与える製品を設計することは私たちにとって非常に重要です。私たちの目標は、ユーザーが自分自身を表現し、iPad を通じてアイデアを実現する無数の方法を常に称賛することです。このビデオでは的を外しており、申し訳ありません。

https://adage.com/article/digital-marketing-ad-tech-news/apple-apologizes-ipad-pro-crushed-ad-it-missed-mark/2559321

炎上はなぜ繰り返されるのか?どうすれば回避できたのか?

伝えたいメッセージと表現方法の乖離

iPad Proの広告が炎上してしまった理由は、動画のタイトルが「打ち砕く」を意味する「Crush!」で、かつ、動画の内容も楽器などをプレスでゆっくりジワジワと「破壊」していく様子を撮ったものであったことから、動画を見た人たちにはAppleが伝えたかったであろう「最薄」「凝縮」よりも「破壊」のメッセージが主として伝わってしまったからです。

メッセージを表現する方法として適切ではなく、ズレている(乖離している)と、理解することもできます。

トール・ミューレン副社長が「的を外して」と謝罪したのも、表現の仕方を間違えてしまったというニュアンスを出したかったのではないでしょうか。

企業が伝えたいメッセージを表現する方法が適切でなく、その結果、メッセージが伝わらずに炎上したケースは、最近では、ZARAの広告があります。

国内では、ちょうど1年前に女性誌LARMEの動画が炎上したケースがあります。

公開する前の事前チェック

これらのケースのように、表現方法が適切ではなく、企業が伝えたいメッセージが伝わずに炎上する事態を回避するためには、広告の制作会社に丸投げするのではなく、広告・動画を公開する前の事前チェックが不可避です。

AppleやZARAの広告のような芸術的な表現をする場合には、企業は、広告を見た人にメッセージや広告の制作意図が伝わらないリスクがあること、それが故に炎上するリスクがあることを認識して、意図を持ってチェックしなければなりません。

少なくとも「この動画を見た人に、私たちが伝えたいメッセージはただしく伝わるか?」という観点から意図的にチェックすることは不可避です。

その観点からチェックしていれば、動画のタイトルは打ち砕くを意味する「Crush!」ではなく、凝縮を意味する「condense」や、圧縮ファイルの拡張子である「zip」などにしたほうがいいのでは?そもそもタイトルを付けない方がいいのでは?なんて議論も社内で起きたかもしれません。

また、動画もジワジワと破壊する様子にフォーカスするよりも、凝縮は一瞬で済ませるなど、別の表現方法もあったかもしれません。こちらの表現方法はよく見かける印象があります。

こうしたチェック以外にも、今の時代は、人権侵害、ジェンダー、不適切という観点からもチェックが必要です。この点は以前に詳しく説明したので、そちらを見てください。

周囲に配慮しすぎるとつまらない広告になるかもしれません。

しかし、周囲への配慮や表現方法の制限がある中でつまらない広告にならないように、あれこれと企画することが、マーケティング広告を制作する人の腕の見せ所ではないでしょうか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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