大阪王将に「ナメクジがいる」などとSNSに投稿した元店員が威力業務妨害罪で逮捕。公益通報者保護法・内部通報・内部告発に対する誤解と裁判例

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2022年7月24日に「ナメクジがいる」などと店内が不衛生である内容をSNSに投稿した大阪王将仙台中田店(同年8月閉店)の従業員(当時)が、2024年2月13日に威力業務妨害罪で逮捕されました。

SNSへの投稿を受けて2022年7月25日には保健所による立入検査が行われていましたが、大阪王将によると「調査では、ナメクジ、そ族昆虫などは見受けられませんでした」とのことです。

※2024/03/08追記

2024年3月5日、元従業員は偽計業務妨害罪によって起訴されました。

逮捕は威力業務妨害罪でしたが、起訴は偽計業務妨害罪です。

威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪の違いについては、以前に記事で取り上げています。

公益通報者保護法に対する誤解

このニュースに関して「なぜ逮捕されたのか」などの声がSNSでは散見され、また公益通報者保護法の要件を充たしていないからではないかなどの解説もされていました。

しかし、ネットでのまとめを見ると、公益通報者保護法に対する誤解が散見されました。

そもそも公益通報者保護法は、法定の要件を充たしている公益通報者について

  • 事業者がした解雇・労働者派遣契約の解除は無効
  • 事業者は降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱いをすることができない(不利益取扱いの禁止)
  • 事業者は損害賠償請求できない

を定めている法律です。

共通する主語は「事業者」です。あくまでも「事業者」による不利益取扱い全般を禁止しているだけです。

不利益取扱いとして事業者による刑事告訴は明示されていませんが、法律の趣旨としては「その他不利益な取扱い」の中に刑事告訴も含まれていると考えてもいいかもしれません。

また、公益通報者が刑事責任を追及されないとはどこにも書いていません

刑事責任は刑事告訴がなくても問えます。このケースのように威力業務妨害罪として構成要件・違法性・有責性の要件を充たすと判断されれば刑事責任が問われます。

公益通報者として保護されるための法定要件について、詳しくは、消費者庁の公益通報ハンドブックで確認してください。

法定要件を充たさない内部通報者・内部告発者の法的責任

公益通報者保護法の法定要件を充たさないとしても内部通報に正当性がある場合は懲戒処分が無効になる

公益通報者保護法によって事業者による不利益取扱いを禁止されるためには、法定の要件を充たす必要があります。

しかし、内部通報者・内部告発者が公益通報者保護法の法定の要件を充たさないとしても、事業者が通報者・告発者を懲戒処分など不利益取扱いできるとは限りません。

公益通報者保護法の要件を充たしていない場合でも、懲戒処分が有効であるかどうは労働契約法の懲戒処分濫用法理に照らして判断されます。

公益通報者保護法が施行された2004年以降の裁判例で確認しましょう。

いずれも懲戒処分に関する事例です。刑事責任を追及された裁判例は見当たりませんでした。

学校法人田中千代学園事件(東京地判2011年1月28日)

学校法人田中千代学園事務局総務部総務課長が週刊誌に内部告発したことを理由にした懲戒解雇が有効とされたケースです。

裁判所は、総務課長が内部告発した事実について、「週刊誌を通じて外部に公表された場合、被告(※学校法人田中千代学園)の学校法人としての名誉、信用等を害し、ひいては学校法人としての職場秩序に悪しき影響を与え、その業務の正常な運営を妨げるような行為に当たることは明らかである上、これらの事項(役員報酬規定の制定経緯内容、顧問契約の締結経緯・内容、服飾文化センター設立構想の有無・内容、一専任職員に対する退職勧奨)は、被告の機密ないし公表していない事項に該当する」として、就業規則所定の懲戒事由に該当することを認めました。

他方で、

本件のような内部告発事案においては、

  • 〔1〕内部告発事実(根幹的部分)が真実ないしは原告が真実と信ずるにつき相当の理由があるか否か(以下「真実ないし真実相当性」という。)、
  • 〔2〕その目的が公益性を有している否か(以下「目的の公益性」という。)、
  • そして〔3〕労働者が企業内で不正行為の是正に努力したものの改善されないなど手段・態様が目的達成のために必要かつ相当なものであるか否か(以下「手段・態様の相当性」という。)

などを総合考慮して、当該内部告発が正当と認められる場合には、仮にその告発事実が誠実義務等を定めた就業規則の規定に違反する場合であっても、その違法性は阻却され、これを理由とする懲戒解雇は「客観的に合理的な理由」を欠くことになるものと解するのが相当である。

との基準を示しました。

内部通報が公益通報者保護法の要件を充たさず、かつ、就業規則所定の懲戒事由に該当するにしても、上記の3つの要素に照らして内部告発が正当性があるなら就業規則違反の違法性を阻却されるので、懲戒処分濫用法理の「客観的に合理的な理由」を欠き懲戒処分は無効になる、という理屈です。

このケースでは、裁判所は、告発した事実のすべてについて真実ないし真実相当性を欠くと判断し、内部告発は正当性がないので違法性は阻却されず、懲戒解雇は有効とされました。

アンダーソンテクノロジー事件(東京地判2006年8月30日)

アンダーソンテクノロジーの営業部長(従業員)兼取締役が、少なくとも2004年12月20日前後ころの週刊文春元記者のフリーのルポライターなどに情報提供したことが守秘義務違反であるなど就業規則所定の懲戒事由に該当するとして、2005年3月25日の株主総会によって取締役から解任された後、2005年6月22日に従業員からも懲戒解雇されたケースです。

裁判所は、以下の理由で懲戒解雇事由があり、懲戒解雇は有効と認めました。

訴外Aは原告の供述によっても週刊文春の元記者でフリーのルポライターをしている者であるから,前記のように原告において被告の内部的な事項についてまで公表すれば会社の信用を損ねることは容易に推測できたはずであり,これを敢えて訴外Aに話したのは原告の取締役あるいは管理職従業員としての職業意識からというよりも不満な人事異動の打診を契機とした会社及び代表者への不満と糾弾のための報復措置と考えられ,加えて公団監察室の調査報告書(平成17年4月12日)では公団の元技術部長は3か月の懲戒処分に留まり刑事事件として立件されてもいないのに,原告が実名のもと平成17年6月2日号の週刊文春に訴外Aへの情報提供を通じて被告の内部告発をするのは不正の是正手段としての相当性を逸脱しているものといえる。これに反する原告の供述は客観的な裏付けのないものであり信用できないし、被告の答弁書による懲戒解雇事由には上記事実関係が含まれていることは明らかである。

アンダーソンテクノロジー事件は田中千代学園事件よりも前に出た裁判例です。

しかし、田中千代学園事件と同様に、目的の公益性がないこと(不満と糾弾のための報復措置)、手段・態様の相当性がないこと(不正の是正手段としての相当性を逸脱している)ことを理由に、内部通報は正当ではなく就業規則違反の違法性が阻却されないので、懲戒解雇は有効と判断した、と理解することができます。

ボッシュ事件(東京地判2013年3月26日)

ボッシュが内部通報に基づき十分な調査と対応をしたにもかかわらず、通報者が内部通報メールを繰り返したため出勤停止5日の懲戒処分をしたものの、通報者が出勤停止処分に従わず出勤し続け、人事部マネージャーを中傷するメールなどを繰り返し送ったため、通報者を普通解雇にしたケースです。

裁判所は、以下のように懲戒事由を認め、出勤停止停止の懲戒処分、普通解雇のいずれも有効と判断し、また、公益通報者保護法の「不正の目的」に該当することも認めました。

原告(※通報者)は,平成23年7月22日に本件警告書により,本件デジタルイラスト問題を蒸し返すことのないよう警告を受けるとともに,職務専念義務に従い就業時間中は業務外の文書,メールの作成等を禁じる旨の業務命令を受けたにもかかわらず,・・・同月25日,P4社長に対し,本件デジタルイラスト問題について告発する内容のメールを送信し,直接の面談を求め,それに同社長が応じないとみるや,同年8月5日には,本件デジタルイラスト問題を放置することは取締役の忠実義務違反に当たり,民事上の損害賠償責任や特別背任罪に該当するなどとの不穏当な言辞を用いたメールを送りつけ,P4社長が本件警告書について承知しており,原告が同警告書に従った行動をとるよう希望する旨の返事をしたにもかかわらず,同月9日には,執拗にも8点もの質問をしたメールを送信しているもので,このような原告の一連の行為については,被告の就業規則79条5号及び80条3号所定の懲戒事由に該当するというべきである。

(中略)

原告は,平成23年初めころには,本件デジタルイラスト問題に関し,担当者に民事・刑事責任を問うことができないものであるという認識を有していたにもかかわらず,自らの法務室への異動希望を実現させるという個人的な目的のために,これを蒸し返し,同年7月22日には本件警告書による警告を受けたにもかかわらず,これに従うことなく,同月25日に,P4社長に対し再度これを告発したと評価せざるを得ない。このように,原告は,自らの内部通報に理由がないことを知りつつ,かつ個人的目的の実現のために通報を行ったものであって,原告が主張するように,社内のコンプライアンス維持のためにやむを得ない行為であったなどということはできないものであって,実質的に懲戒事由該当性がないということはできないし,かつ,公益通報者保護法2条にいう不正の目的に出た通報行為であると認めざるを得ない。

(中略)

このような公益通報については,たとえ事業者内部における再度の通報であったとしても,多かれ少なかれ,その通報内容を理解,吟味し,ある程度の調査が必要になる場合もあるなど,相応の対応を要求されるものであって,業務の支障となる側面があることは否定できず,時に組織としての明確な意思決定を迫られることもあることからすれば,これが無制限に許されると解するのは相当ではない。したがって,少なくとも,本件のように,いったん是正勧告,関係者らに対する厳重注意という形で決着をみた通報内容について,長期間を経過した後に,専ら他の目的を実現するために再度通報するような場合において,これを「不正の目的」に出たものと認めることには,何ら問題がないというべきである(たとえ,原告の法務室への異動の動機が,自らが法務部門に携わることにより真のコンプライアンスを実現することにあったとしても,この点に変わりはない。)。

内部通報をしたことを理由に懲戒処分、普通解雇されたのではなく、

  • 通報を受け会社が十分な調査、対応をした後に、
  • 通報者が民事・刑事の責任を問えないことを認識しながら、かつ、
  • 専ら他の目的を実現するために再度蒸し返して通報することが、

公益通報者保護法の「不正の目的」に該当するので、懲戒処分、普通解雇も有効と判断したことが、この裁判例の特異な点かと思います。

大阪王将ナメクジのケース

上記3つの裁判例を分析する際にも書いたように、公益通報者保護法の要件を充たしていれば、事業者である会社は、不利益な取扱いが禁止されます。

他方、公益通報者保護法の要件を充たしていなかったとしても、内部通報に正当性がある場合には、就業規則違反の違法性が阻却され、事業者である会社は通報者を懲戒処分することができません。懲戒処分ができないのだから刑事告訴もできないと考えて良いでしょう。

公益通報者保護法の要件を充たさず、かつ、内部通報に正当性がない場合には、就業規則違反の違法性が残り、事業者である会社は通報者を懲戒処分することができます。懲戒処分ができるのだから刑事告訴もできると考えて良いでしょう。

大阪王将ナメクジのSNSの投稿の正当性を、田中千代学園事件が示した3つの要素にあてはめて考えてみましょう。

①真実ないし真実相当性があったかはわかりません。

元従業員が嘘をついているのか、それとも写真を撮影したときには本当にナメクジがいたのか外部の者にはわかりません。そうはいっても、保健所の立入検査の結果ではナメクジがいなかったので、真実性よりも真実相当性が争いになるでしょう。

②目的の公益性については、たしかに、大阪王将という外食店舗が不衛生であることを告発することは目的の公益性はあるように見えます。

しかし、ボッシュ事件のように、SNSへの投稿が他の目的を実現するためであった場合には、公益性は否定される可能性は残ります。

③手段・態様の相当性については、大阪王将本店への通報ではなく、誰もが見られるSNSに写真と文章を添えて投稿した点では、手段・態様の相当性を欠くと判断されてもおかしくありません。

詳細がわからないので断言ではできませんが、元従業員のSNSへの投稿が公益通報者保護法の要件を充たしていないだけでなく、内部通報・内部告発としての正当性を欠き、違法性が阻却されない、と考えることは可能です。

そうだとすれば、SNSへの投稿が威力業務妨害行為の構成要件に該当し、かつ、違法性も阻却されず、刑事責任を問われる、という考えは十分に成り立ちます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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