アインホールディングスの100%子会社社長らが公契約関係競売等妨害罪で逮捕。公共工事に関する営業活動をする際の公務員らとの付き合い方の注意点は?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

札幌市豊平区の総合病院KKR札幌医療センターが敷地内に薬局を整備する事業に関し、みなし公務員である医療センターの元事務部長と、調剤薬局などを展開するアインホールディングスの100%子会社アインファーマーシーズの代表取締役でもあるアインHDの常務取締役と、アインファーマーシーズの取締役でもあるアインHDの元開発統括本部長の3人が、公契約関係競売等妨害罪(偽計)の疑いで、2023年8月31日に逮捕され、9月1日には送検されました。

事業者からの提案内容を審査する公募型プロポーザルだったにもかかわらず、2020年12月、同医療センターの元事務部長が企画提案書の提出期限後にアイン側に他社の提案内容を漏えい、アイン側が企画提案書を再提出したと報じられています。

公契約関係競売等妨害罪とは?

構成要件

2011年に改正される前までは競売妨害罪で一括りにされていましたが、改正により、公契約関係競売等妨害罪と強制執行関係売却妨害罪(刑法96条の4)とに分けられました。

公契約関係競売等妨害罪(刑法96条の6第1項)の構成要件は、

  1. 偽計(または威力)を用いて
  2. 公の競売または入札で契約を締結するためのものの
  3. 公正を害すべき行為をする

です。

偽計と公正を害すべき行為

偽計とは人を欺きその正当な判断を誤らせる術策のことで、入札予定額の決定に関与した者が入札予定者に内報し、それに基づいて入札させる行為も含まれます。

このうち、入札予定額の決定に関与した者が入札予定者に内報することは、公正を害すべき行為に含まれます。また、内報に応じることも、公正を害すべき行為に含まれると考えることができます。

報道が事実なら、偽計を用いて、入札で契約を締結するためのもの(プロポーザル案件において、契約の相手を選定するための企画提案)の、公正を害すべき行為をしたことになります。

他社事例

公契約関係競売等妨害罪は決して珍しいケースではありません。2023年に入ってからも相次いで報じられています。

  • 2023年3月15日には、2020年6月に行われた配水管工事の入札に関し、元前橋市副市長から予定価格の漏えいを受け、近い価格で落札した市内業者の元社長が、公契約関係競売等妨害罪によって、懲役1年、執行猶予3年を命じられています(2023年3月15日、上毛新聞)。
  • 2023年8月9日には、2020年8月31日ごろ、宇治田原町が発注した中央公園造成工事の一般競争入札で、木津川市の土木工事会社の実質経営者の男性に設計金額を漏らして5704万6千円で落札させ、公正な入札を妨害したとして宇治田原町の元理事が公契約関係競売等妨害罪により逮捕されています(2023年8月9日、京都新聞)。

公共工事に関する営業活動をする際の公務員らとの付き合い方の注意点

会社としてのコーポレートガバナンスの確立

企業が公務員に対して営業活動を行う際の付き合い方の全般的な注意点は、担当者任せにすべきではなく、会社のガバナンス体制としてルールを確立すべき事柄です。

その中でも重要なのが、

  • 国家公務員倫理法・倫理規程による営業活動の限界
  • 接待交際、物品の贈与などにおける贈収賄としてのの限界
  • 談合のリスクのある情報交換の限界

の3点だと思います。

国家公務員倫理法・倫理規程による営業活動の限界

その中で、まずはじめに意識すべきは、国家公務員倫理法・倫理規程に基づく営業活動などの限界です。

ただし、国家公務員倫理法・倫理規程は国家公務員を相手にすることを前提とするものなので、地方公務員やみなし公務員は各公共団体、独立行政法人などの規制、ルールを抑えておくことも不可欠です。

接待交際、物品の贈与などにおける贈収賄としての限界

また、接待交際や物品の贈与、金銭の授受がある場合には、国家公務員倫理法・倫理規程違反だけではなく、贈収賄のリスクも生じます。

特に政治家に対する献金では贈収賄のリスクが高まるので、注意が必要です。

公務員との情報交換の限界

公務員に対する営業活動や接待交際、物品の贈与がない場合でも、公務員との情報交換は談合のリスクがあります。

入札案件、随意契約案件のいずれを問わずとも、公務員を通じて発注者としての意向、他社の入札価格や提案内容、動向を知ることには積極的に取り組みたいでしょう。また、公務員から情報を提供されてしまうこともあるでしょう。いずれも、官製談合防止法違反や、談合による公契約関係競売等妨害罪のリスクが生じます。

とはいえ、営業担当者の立場なら、自社のサービスレベルを知ってもらうために入札時に提出書面以外にも営業活動により情報を提供し、入札時に自社を選定してもらうように種をまいておくことはするでしょう。また、発注者である公務員の意向を探るために、親しい間柄になっておくことも行うでしょう。

今回のKKR札幌医療センターのケースでは、医療センターの元事務部長とアインファーマーシーズの取締役が高校野球部のOB同士であり、甲子園でも一緒に応援する親しい間柄であることが報じられていました(2023年9月1日、北海道新聞)。

そうなると、発注者である公務員と距離を近くしつつも、企業側は一線を画し、自律しておく必要があります。

例えば、今回のケースのようにプロポーザルの企画提案書の提案締切後の他社の情報を公務員から提供されても、その提供された情報を利用したり、企画提案書の再提出の提案には応じない(もちろん、公務員からの情報提供が締切前であっても、その情報を元には企画提案書は作成しない)など、潔い態度が必要です。

再提案しようとしている者がいれば、社長以下役員、管理職は、それを止めなければいけません。

営業と自律

公務員に対する営業活動とそれに伴う公契約関係競売等妨害罪は、営業活動による売上・利益の向上と、コンプライアンスに対する自律とのせめぎ合いが顕著に現れる場面です。

違法なことをしてでも売上・利益を向上させるという意識が勝ってしまうと、今回のような自体に陥ってしまいます。

売上・利益の誘惑に負けそうなときには、会社の経営理念や行動指針などに照らして、思い止まるようにしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。