普天間飛行場を辺野古に移設するための公有水面の埋立ての変更承認に関する訴訟で沖縄県の上告が棄却。裁決の拘束力とは何か?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

普天間飛行場を辺野古に移転するための公有水面の埋立ての変更承認に関し、沖縄県がした変更不承認を国交相が取消す裁決をし、その後変更承認するよう是正指示したことについて、沖縄県が指示の取消しを求めたところ、2023年9月4日、最高裁は沖縄県の上告を棄却しました。

最高裁の判例はこちら↓

判例によれば、最高裁が沖縄県の上告を棄却した理由は、国交相がした裁決の拘束力(行政不服審査法52条1項)は、都道府県知事(沖縄県知事)の処分にも及ぶということです。

裁決の拘束力については馴染みのない方が多いと思います。

行政庁同士の問題で企業法務ではありませんが、ニュースを理解するための教養として知っておいて良いと思いますので、今回はこの点をできる限りわかりやすく解説します。

辺野古の公有水面の埋立てに関する変更承認の経緯

まずは、今回の訴訟の前提となった公有水面の埋立てに関する変更承認の経緯を整理します。

  1. 沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を設置するため、2013年3月2日、沖縄県知事に対し、辺野古水域の公有水面の埋立ての承認を求めたところ、同年12月27日、沖縄県知事は、承認した。
  2. 沖縄防衛局は、承認後に判明した事情を踏まえ、地盤改良工事を追加して行うため、2020年4月21日、沖縄県知事に対し、変更申請をした。しかし、沖縄県知事は、2021年11月25日、公有水面埋立法の要件を充たさないとして変更申請を承認しなかった
  3. 沖縄防衛局は、変更不承認を不服として、2021年12月7日、地方自治法に基づき、公有水面埋立法を所管する国交相に対し、審査請求をした。国交相は、沖縄県の判断は裁量権の逸脱・濫用であり違法として、2022年4月8日、変更不承認を取り消す裁決をした。
  4. 国交相は、裁決後も沖縄県知事が変更申請を承認しなかったため、裁量権の逸脱・濫用であり地方自治法違反に違反するとして、2022年4月28日に、沖縄県に変更承認するよう指示を出した。
  5. 沖縄県知事は、国交相の指示を不服として、2022年5月30日、国地方係争処理委員会に対し、地方自治法に基づく審査の申出をしたが、8月19日、指示は違法でないとの審査の結果の通知を受けた。沖縄県知事は、これを不服として、8月24日、地方自治法に基づき、国の関与(是正の指示)の取消し訴訟を提起した。
  6. 2023年3月16日、福岡高判那覇支部は、沖縄県知事の請求を棄却した。これに対し、沖縄県知事は上告した。

最高裁での争点

最高裁で争点となったのは、行政不服審査法52条1項、2項が定める「裁決の拘束力」が、国交相の裁決と、沖縄県知事による変更承認しない処分との間にも適用されるか、です。

裁決の拘束力(行政不服審査法52条1項、2項)とは

行政不服審査法52条は、

  • 1項にて「審査請求がされた行政庁(審査庁)がした裁決は関係行政庁を拘束する」
  • 2項にて「申請を棄却した処分が裁決で取り消された場合には、処分をした行政庁(処分庁)は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない」

と定めています。

これが裁決の拘束力です。

これは、「処分庁を含む関係行政庁に裁決の趣旨に従った行動を義務付けることにより、速やかに裁決の内容を実現し、もって、審査請求人の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保する」ために定められている規定です。

国交相の裁決は、沖縄県知事の処分を拘束する

今回のケースでは、審査庁は国交相、関係行政庁・処分庁は沖縄県知事です。

沖縄県知事は地方公共団体の首長なので、一見すると、52条1項、2項の「行政庁」に含まれず、52条は適用されないように思えます。

しかし、行政不服審査法1条2項は「法定受託事務に係る都道府県知事の処分についての審査請求に関しては、原則として行政不服審査法の規定が適用される」と定めています。

沖縄防衛局がした変更申請を沖縄県知事が承認することは、地方自治法が定める法定受託事務に係る処分です。

そのため、行政不服審査法1条2項の定めによって、沖縄県知事がした変更申請を承認しない処分の審査請求に関しては、行政不服審査法が適用されます。

そのため、行政不服審査法52条1項、2項が適用され、国交相がした裁決は、沖縄県知事をも拘束します。

すなわち、国交相がした変更不承認を取り消す裁決は、沖縄県知事を拘束し、沖縄県知事は、裁決の趣旨に従って、変更を承認する処分をしなければならない法的義務を負います。

ところが、国交相が2022年4月8日に裁決したにもかかわらず、その後、沖縄県知事は変更申請を承認する処分をしなかった、すなわち行政不服審査法に従わず、地方自治法に違反した状態が続きました。そこで、国交相は違法な状態を是正するために、4月28日、変更承認するよう指示をしたのです。

沖縄県知事が変更申請を承認しない場合には代執行

上告が棄却された後も沖縄県知事が沖縄防衛局による変更申請を承認しない場合には、最終的には、地方自治法245条の8第8項に定める代執行に向けた手続に進みます。

詳細は省きますが、「改善勧告」→「指示」→「高裁への命令請求」→「高裁からの命令裁判」→「代執行」という手続を経て、国交相が沖縄県知事に代わって変更申請を承認する処分をすることができます。

つまり、最終的には、国交相が辺野古の公有水面の埋立てを承認することになります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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