国交省航空局長が会食費を負担してもらったことを理由に懲戒処分された後、辞職。会社は公務員にどこまで営業活動できるのか?国家公務員倫理法・倫理規程の基本を抑える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

国交省元事務次官らが空港施設の役員人事に介入していた問題に関連して、国交省航空局長が国交省元事務次官らと会食した際に、同席した建設資材販売業者に会食費約1万円を負担してもらい、かつお土産を受け取ったことなどを理由に、2023年6月26日に、国家公務員倫理法・倫理規程違反により戒告の懲戒処分を受けました。航空局長は7月4日付で辞職します。

民間企業が許認可などの利害関係がある公務員に会食・接待や記念品贈与などの営業活動をすること、地方視察の際にタクシーに同乗することなどはあり得えます。

他方で、国家公務員は会食・接待を受けること、記念品贈与を受けることなどについて、国家公務員倫理法・倫理規程による規制があります。地方公務員も条例によって同様の規制があります。

国家公務員倫理法・倫理規程その他の規制に違反したときに処分されるのは公務員側です。しかし、公務員側は「あの会社と食事に行くと国家公務員倫理法・倫理規程違反で処分されるかもしれない」と警戒するようになってしまいます。そのため、営業活動をする民間企業側も国家公務員倫理法・倫理規程が何を規制しているのかを理解しておく必要があります。

そこで、今日は、国家公務員倫理法・倫理規程のポイントを解説します。

公務員との付き合いが多い会社での社内研修・集合研修として、10年以上前から話している内容のダイジェストです(私の社内研修ではこんなことを話しているのかという参考にしていただければと思います。実際の研修ではもっと噛み砕き、情報もプラスしています)。

人事院、事業者向け啓発ポスター

公務員への接待、贈与などには、どんな法規制があるか

公務員への接待、贈与などを規制する法規制は、国家公務員倫理法・倫理規程以外にも刑法の贈収賄、不正競争防止法の外国公務員贈収賄があります。

国家公務員倫理法・倫理規程

公務員への接待、贈与などを規制する法規制の第1は、国家公務員倫理法・倫理規程です。

国家公務員倫理法・倫理規程は、国家公務員の禁止行為を定めたルールです。倫理法が抽象的な内容を定め、倫理規程が具体的な内容を定めています。

地方公務員や国立大学法人、NHKなど独立行政法人の職員は、国家公務員倫理法・倫理規程では規制されません。その代わり、各地方公共団体、各法人が国家公務員倫理法・倫理規程を参考にした条例、法人内規を定めています。

例えば、ゴルフ接待は、国家公務員倫理法・倫理規程では禁止されていますが、地方公共団体によっては禁止されていないなどの差異があります。

また、日本銀行、日本郵便の職員など「みなし公務員」も同様の規制に服します。

刑法(贈収賄)

公務員への接待、贈与などを規制する法規制の第2は、刑法の贈収賄です。

国家公務員倫理法・倫理規程は接待、贈与を受ける国家公務員側だけを規制しているのに対して、刑法の贈収賄では、賄賂を収受等する公務員だけでなく贈与等する側も刑事罰の対象です。

実際に収受していなくても、要求、約束しただけで、贈収賄は成立します。

刑法の「賄賂」と判断されるのは、人の需要や欲望を満たす一切の利益です。金品、物品の贈与はもちろんのこと、金銭の貸付け、供応接待、男女の情交なども「賄賂」に含まれます。

茶菓子の提供を「賄賂」と判断した裁判例もあります。

JAXA接待贈賄事件

国家公務員倫理法・倫理規程と刑法の贈収賄罪は同時に成立することもあります。

2015年から2017年にかけて、医療コンサルタントが、文科省から国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)に出向していた理事に、20回合計150万円相当の接待交際、タクシーチケット1冊(65250円相当)の贈与、観劇のチケットの贈与などをしたケースでは、JAXA理事は、2019年12月に収賄罪で懲役1年6か月、執行猶予3年に処せられ、また、2020年にはJAXAが設置した検証チームによって国家公務員倫理規程違反と評価されています。

外国公務員贈収賄

公務員への接待、贈与などを規制する法規制の第3は、不正競争防止法の外国公務員贈収賄です。

日本国民が、外国公務員に不正の利益の供与、申込みをすれば、たとえそれが海外であったとしても、日本の不正競争防止法違反として刑事罰に処せられます。

従業員などがした場合、当事者が5年以下の懲役、500万円以下の罰金になるだけでなく、会社(法人)も3億円以下の罰金に処せられます(両罰規定)。

詳細は、経産省が出している「外国公務員贈賄防止指針」に解説されています。

MHPSタイ火力発電所事件

外国公務員への贈賄で刑事罰を受けた事例としては、MHPS(現在の三菱重工)がタイに火力発電所を建設しようとしたところ、タイの港湾支局長(公務員)に資材の陸揚げを妨害され2000万バーツを要求されたため、MHPSの取締役常務執行役員(当時)、執行役員(当時)らが建設工事の遅延を回避するために1100万バーツを支払ったケースがあります。取締役常務執行役員、執行役委員ともに懲役1年6か月、執行猶予3年に処せられました(取締役常務執行役員について最高裁2022年5月20日、執行役員については東京地裁2019年3月1日)。なお、MHPSは司法取引により不起訴になりました。

国家公務員倫理法・倫理規程のポイント

ここからは国家公務員倫理法・倫理規程のポイントを解説します。

より詳しく学びたい人は、

を一読することをオススメします。

利害関係の有無で規制される内容が分かれる

国家公務員倫理法・倫理規程が定めているルールは、公務員との「利害関係」の有無で規制の内容を分けています。

「利害関係」とは、許認可、補助金交付、立入検査・監査・監察、不利益処分、行政指導、行政所掌事業の発達・改善・調整事務、契約事務などです(倫理規程2条1項各号)。

会社が国から許認可を得ようと相談を始めたら、許認可の申請をする前の段階でも、公務員との利害関係はあると評価されます(評価・判断するのは人事院です。以下同じです)。

補助金は会社に直接交付される場合だけではなく、会社の取引先に間接的に交付される場合も、利害関係があると評価されます。例えば、WEBサイトの作成をしている会社の取引先が国からIT補助金を得て、その補助金をWEBサイトの作成費用として支払ってもらう場合、IT補助金を交付される取引先は公務員との利害関係があるのはもちろん、WEBサイトの作成をする会社も公務員との利害関係があると評価、判断されます。

契約事務は、国が発注する事業に入札する場合も随意契約する場合のいずれも含みます。入札や随契に申し込みしようとした段階から、支払いが完了するなど債権債務関係が終了するまで公務員と利害関係があると評価されます。また、入札、随契の担当者だけでなく、事務次官など職務権限が上の者すべてと利害関係がある、とされています

また、担当していた公務員が異動しても、異動後3年間は利害関係があります(倫理規程2条2項)。そのため、異動後に「先般はお世話になりました」などと異動祝いすることも、利害関係がある者との規制に照らして許されるかどうかで考えなければなりません。なお、国家公務員倫理法・倫理規程以外にも、事後贈賄罪に該当する可能性にも注意してください。

利害関係がなくても常に禁止されるもの

利害関係がなくても、「社会通念上相当程度」を超える供応接待、財産上の利益供与は、常に禁止されます(倫理規程5条1項)。

社会通念上相当程度かどうかは、利益供与の原因・理由の相当性、利益供与の対象が公務員だけかそれ以外も含まれるか、利益供与の額の多寡、利益供与の回数・頻度、相手との関係性などの要素を考慮して評価されます。

例えば、誰にでも配布しているノベルティは「社会通念上相当程度」の物品の贈与でしょう。

これに対し、倫理規程8条が、利害関係がある者との会食では、利益供与を受けていなくても自己負担額が1万円を超える場合には届出が必要としていることに照らすと、利害関係がない者との会食でも1万円が「社会通念上相当程度」の限界だと思います。

なお、公務員は5000円超の利益供与については四半期に1回報告する必要があり、2万円超の利益供与は公衆閲覧の対象となっています。そのため、会社側が利害関係がないからといって会食費やパーティ費用などの名目で2万超を負担したり、講演料・原稿料などの名目で2万円超を支払うと、会社名が公衆閲覧の対象になり、思わぬバッシングを受ける可能性があるので注意が必要です。

東北新社による幹部ら13人が総務省の公務員を、2016年7月から20年12月にかけてのべ39回にわたって接待したケースでは、総務省の公務員11人が国家公務員倫理法・倫理規程で処分され、2021年2月26日、東北新社の社長が引責辞任するなどしました。なお、刑事告発もされましたが、2022年3月29日、東京地検は不起訴処分にしています。

また、会社が「飲みに行ったら、わが社名義で領収書を切って構いません。あとで精算します」などと公務員に提案するなどして、公務員がつけを回すことも禁止されています(倫理規程5条2項)。

利害関係がある場合に禁止されるもの

金銭・不動産・物品の贈与

利害関係があるときには、金銭、不動産、物品の贈与は禁止されます(規程3条1項1号)。

担当の公務員が亡くなったときに香典や供花することは許されますが、公務員の家族が亡くなったときの香典、供花は公務員が受け取るので禁止されます。その場合でも弔電は許されます。

ノベルティや記念品など広く一般に贈与するものは、物品の贈与ですが、公務員の職務の中立性や透明性を害するものではないので許されています(規程3条2項1号)。とはいえ、ノベルティがレア物であったり、人気が高い物であるときには、慎重にした方がよいかもしれません。

また、20人以上が出席する立食パーティで、参加者の前で物品や飲食物の提供を受けることも、公務員の職務の中立性や透明性を害するものではないので許されます(規程3条2項2号、6号)。これに対し、着座形式の場合には、50人以上で着座指定がないなど一定の要件を充たした場合に限り許されます。

その他、未公開株式の贈与、金銭の貸付(利子があっても)も禁止されます(倫理規程3条1項5号、2号)。2019年には国交省職員が契約の相手方から11回合計15万2000円を借りて戒告処分になったケースがありました。

供応接待

利害関係があるときには、単なる飲食物の提供、簡素な飲食物の提供、茶菓子の提供を超えて、一席を設けて飲食物を提供することが供応接待として禁止されます(倫理規程3条1項6号、2項5号・7号)。また、公務員をもてなす目的での行為も禁止されます(倫理規程3条1項6号、8項)。

簡素な飲食物は原則3000円までとされ、例外は、外国要人や地方公共団体の首長が出席するなど格式が求められる会議の場合に限られます。

2020年には農水省の職員5人が補助金交付の相手から1~2回合計22,000円~45,000円の接待を受け、3人が1か月分の減給1/10、2人が戒告に処せられました。

2018年には国交省職員が契約の相手と飲食した際に2,667円を負担してもらい、2名と一緒に1回釣りに行ったことで、戒告に処せられました。

無償の物品・不動産の貸付け

利害関係があるときには、無償での物品、不動産の貸付けも禁止されています(倫理規程3条1項3号)。有償でも対価が著しく低い場合には、差額分の金銭の贈与を受けたとみなされます(倫理規程3条3項)。

しかし、公務員が会議や視察などで会社を訪問した際に、文房具、電話、防護服・ヘルメットを貸すことなどは許されています(倫理規程3条2項3号)。公務員の職務の中立性や透明性を害さないからです。

無償の役務提供

利害関係があるときには、無償での役務提供も禁止されています(倫理規程3条1項4号)。

しかし、公務員が会社を視察などで訪問した際に、日常的に利用者を提供することは許されています(倫理規程3条2項4号)。

例えば、地方の工場視察の際に、会社が日常的に利用している従業員送迎用のバスを出すことは許されますが、反対に、わざわざハイヤーを手配することは禁止です。タクシーを手配する場合には、その費用は公務員に負担してもらわなければなりません。

遊技・ゴルフ・旅行

利害関係があるときには、麻雀、ポーカー、パチンコなどの遊技・ゴルフ・旅行も禁止されます(倫理規程3条1項7号、8号)。

これらは、公務員が自己負担したとしても禁止されています。密での会話や金銭授受が成り立ち、公務員の職務の透明性を害しやすいからです。

2017年には財務省の職員が許認可の相手と一緒にゴルフを5回して戒告になったケースもあります。

これに対し、テニスや野球、サッカーは禁止されていません。密での会話や金銭授受が成り立ちにくく、公務員の職務の透明性が確保されているからでしょう。

また、旅行は宿泊を伴わない日帰り旅行も禁止です。公務のための移動としての旅行は許されますが、その場合には、往復の道中を一緒に移動することは禁止されています。

利害関係があっても許されるもの

利害関係があったとしても、「私的な関係」に基づくものは許されます(倫理規程4条1項、2項)。

「私的な関係」かどうかは、利害関係の強弱、私的な関係の強弱、現在の状況、利害関係者と公務員との間での行為の内容などの要素で判断されます。

学生時代からの友人である、ご近所付き合いなどです。

しかし、学生時代には仲が良かったけれど、社会人になってからは縁遠く、仕事の利害関係が生じてから再度仲良くなったなどは、公務員としての身分・立場に関わる付き合いで「私的な関係」によるものではない、と判断されやすいでしょう。

また、ご近所付き合いだったとしても高級メロンの受け渡しなどは、公務員としての身分・立場に期待した行為で、「私的な関係」ではない、と判断されやすいでしょう。

まとめ

国家公務員倫理法・倫理規程は、規程の条文だけを読んでも理解が困難です。冒頭に挙げた人事院が公表している解説や過去の処分事例を分析することが不可避です。

判断が付きにくいときには、世の中の人たちに知られたら、公務員の職務の中立性や透明性、信頼性を害するかどうかを一つの目安にすると良いと思います。

職務の中立性や透明性、信頼性を害する行為は、国家公務員倫理法・倫理規程違反にならなかったとしても、メディアなどからのバッシングが生じ、会社のレピュテーションを下げるので、危機管理として対応しなければならないからです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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