日本通運子会社の元従業員が「内部通報を理由に懲戒解雇された」と主張していた訴訟で和解が成立。言動に問題がある従業員が内部通報・告発したら会社は懲戒処分できなくなってしまうのか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

日本通運の子会社である日通三河運輸の従業員(当時)が、2020年に取引先との不正を内部通報したところ2021年6月に過去の言動を理由に懲戒解雇されたため、懲戒解雇の無効を主張していた訴訟で、2023年6月29日に、懲戒解雇を撤回し会社都合退職とする和解が成立したそうです。

内部通報・告発した者を不利益取扱いすることが禁じられていることは、今さら言うまでもありません。

他方で、今回のケースで日通側が主張したように、従業員の過去の言動に問題があることを理由に内部通報・告発者を処分することはできないのでしょうか。

実際のところ、元々言動に問題がある従業員が内部通報・告発してきたときには、その従業員を懲戒処分できなくなってしまうのか、という相談は少なくありません。

そこで、一般論として、内部通報・告発者に過去の言動を理由とした懲戒処分が許されないのか、懲戒処分する場合には会社はどのような点を気をつけるべきか、を説明します。

内部通報・告発者に対する不利益取扱いとして禁止されるもの

公益通報者保護法が禁じているのは、公益通報をしたことを理由として、公益通報者に対して、降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱いです。

危機管理の観点からは、仮に内部通報・告発が「公益通報」の要件を充たしていない場合でも、公益通報と同じように不利益取扱いは禁止されると考えて対処すべきでしょう。

いずれにしても禁止されるのは、公益通報・内部通報・告発をしたことを理由とする不利益取扱いです。

内部通報・告発したからといって無敵な人になるわけではない

今どき、公益通報・内部通報・告発したことを理由として不利益取扱いするケースは、皆無と言っていいでしょう。

その代わりに目立つには、

  • 内部通報・告発の過程で守秘義務違反など不正行為が介在したことを理由として懲戒処分などをするケース
  • 過去の問題のある言動を理由に懲戒処分にするケース

です。

では、これらの懲戒処分は許されないのでしょうか?

内部通報・告発の過程に不正行為が介在したことを理由にする懲戒処分の是非

過去の投稿でも説明しましたが、内部通報・告発をしたとしても、内部通報・告発の過程に守秘義務違反など不正行為が介在した場合に懲戒処分ができなくなるわけではありません

京都市の児童相談所職員のケースでは、児童の個人情報が記録された資料を持ち出し、職務命令に反して廃棄したことを理由に停職3日の懲戒処分にしました。これに対し、裁判所は、懲戒処分としての相当性を欠く、つまり重すぎると判断しましたが、懲戒処分したこと自体を違法とはしませんでした(第一審;京都地裁2019年8月8日、控訴審;大阪高裁2020年6月19日、最高裁2021年1月28日上告不受理)。

この判決を受けて、京都市は、2021年4月13日に、けん責処分に内容をあらためています。

内部通報・告発という正当な目的があるといって、何をして良いわけではありません。目的達成のための手段は制限されます。手段が違法な場合には、相当性のある懲戒処分をすることはできます。

内部通報・告発者の過去の言動を理由にする懲戒処分の是非

判断が難しいのは、内部通報・告発者の過去の言動を理由にして懲戒処分ができるか、です。

この問題を考えるにあたっては、内部通報・告発のタイミングと懲戒処分に向けた懲戒手続のタイミングの前後関係が鍵となります。

内部通報・告発が先行した場合

まず考えられるのが、従業員が内部通報・告発してきた後に、会社が当該従業員の過去の違法や不正・不適切な言動を理由に懲戒処分にする場合、つまり、内部通報・告発が先行する場合です。

この場合、ぱっと見には、内部通報・告発をきっかけに通報者・告発者の過去の言動をほじくり返して懲戒処分をするように見えます。そのため、内部通報・告発を理由とした懲戒処分という不利益取扱いをしたようにも思えます。

しかし、必ずしもそうとは限りません。

中には、内部通報・告発者が自分の違法・不正・不適切な言動を隠すために内部通報・告発をするケースもあります。

実際には、内部通報・告発の調査を始めて見たら、たしかに通報・告発された事実を確認できたけれども、同時に、内部通報・告発者の過去の問題がある言動も発覚してしまった場合が少なくありません。

この場合、会社は、内部通報・告発を理由とした不利益取扱いであると誤解されないように対処することが必要です。

そのためには、通報・告発された事実についても必要十分な調査を行い、適切な処分その他の措置を講じる。その上で、内部通報・告発者の過去の問題がある言動も必要十分な調査を行い、適切な処分その他の措置を講じる。両方を行うことが必要です。

もちろん、中にはでっち上げの通報・告発という場合もなくはないので、その場合には、内部通報・告発者だけを処分することになってしまいます。

いずれの場合であっても、内部通報・告発を理由とした不利益取扱いではないと誤解されないようにするために、内部通報・告発者に処分されるだけの理由があることをキチンと調査し、事実を裏付ける証拠資料を整え、その上で、弁明の機会を与えるなど就業規則・懲戒規程に基づいた適正な手続を経た上で相当の処分をすることが必要です。

この場合には、調査の過程で内部通報・告発者の過去の問題がある言動が判明したという経緯も記録しておいた方がよいでしょう。

他方で、十分な裏付け資料もなく、また弁明の機会がないままに処分したときには、内部通報・告発を理由とした不利益取扱いと裁判所に判断される可能性が高まります。

また、あまりにも過去にまで遡って些細な言動を問題にする場合や、懲戒事由に照らして相当性を欠く重い処分をする場合には、内部通報・告発を理由とした不利益取扱いと裁判所に判断される可能性は高いと思います。

過去に遡りすぎて些細な言動を処分することは、今この誤解されやすいタイミングで懲戒処分にする必然性がないからです。

懲戒手続が先行した場合

内部通報・告発者の過去の問題がある言動を理由に懲戒処分するもう1つのパターンは、会社がある従業員の言動に問題があることと認識し懲戒手続に向けた動きを始めたところ、当該従業員が内部通報・告発をしてきた場合、つまり懲戒手続が先行していた場合、です。

よくあるのが、自分に対する懲戒を目的とした調査が行われていると感づいた従業員が、不利益取扱い禁止のルールを自分の身を守るために悪用し、内部通報・告発をするケースです。

この場合も、内部通報・告発の過去の問題がある言動について必要十分な調査を行い、事実を裏付ける証拠資料を揃え、その上で弁明の機会を与えるなど就業規則・懲戒規程に基づいた適正な手続を経た上で相当の処分をすれば、内部通報・告発を理由とした不利益取扱いにはなりません

ただ、この場合、もう1つポイントになるのが、内部通報・告発の前から懲戒手続のための調査に着手していたという社内記録が存在するかです。

人事・総務・内部監査などの社内部門が調査を行う際には、調査を開始するに至った経緯についての記録を残す、調査・内偵を開始したときにはその開始を判断した部門内や上司の判断に関する記録を残すなどを日頃から意識しておくようにしてください。

私自身も電話しかしていなかったために記録が手元になく苦労したケースがあります。社内会議や電話の後にメールで社内会議や電話の内容の要点を残すなどはしておいた方がよいかもしれません。

まとめ

内部通報・告発者を懲戒処分する際には、内部通報・告発を理由とした不利益取扱いと誤解される可能性がきわめて高いです。

そのような誤解をされないためにも、また懲戒処分が不利益取扱いだと主張され訴訟に発展したときに裁判所で戦えるためにも、内部通報・告発者の過去の問題ある言動を把握した経緯や、懲戒処分に関する社内手続の記録を残し、弁明の機会を与えるなど就業規則・懲戒規程を守った適正な手続を経て、相当な処分をするようにしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。