三井石油開発が北海道ニセコで行う地熱発電の資源量調査の現場からヒ素、硫化水素を含む蒸気が噴出。環境を汚染する事故が発生した後の危機管理対応はどうすべきか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

三井石油開発は、2023年6月29日に、ニセコ地域地熱発電の資源量調査事業における蒸気が噴出する事故が発生したことを明らかにしました。

7月15日までに、弁当配達で現場敷地内に入り硫化水素中毒を発症した女性を含め、これまでに累計15人の体調不良が公表されています(2023年7月15日、北海道新聞)。

このような大気汚染のケース以外にも、工場敷地内で有機化合物が漏えいして土壌や水質を汚染するなど環境汚染に関する問題は時々発生します。そうした環境問題に関する危機管理対応はどうすべきか、を説明します。

大気汚染・土壌汚染・水質汚染など環境問題への危機管理はESGに関わる問題

大気汚染・土壌汚染・水質汚染などの環境問題が発生した際、危機管理の対応が必要との認識はどこの会社も持っていました。

汚染した地域の住民に向けた説明会などの開催、官庁や地域の行政・地方公共団体などへの報告、メディアに向けた記者会見などの危機管理広報の実施などです。

こうした危機管理は、地域からの信頼を回復する、被害を最小限に留めるために行われてきました。

この目的は、これまでも、これからも変わりません。

ただ、現在はプラスアルファとして、企業の社会的責任(CSR)の視点、上場会社はその中でも特にESGをより一層意識して環境問題への危機管理に取り組んで欲しいと思います。

ESGのEは環境(environment)のEであり、ESGのEは事業での環境負荷をどう考えるかという問題です。

その内容には、日常の環境への負荷を抑えるという課題に加えて、環境に関わる事故を起こしてしまった後の対応、危機管理によって環境への負荷をどれくらい小さく留めることができるかという意味も含まれます。

となると、上場会社は、環境に関する事故が発生した後の危機管理対応が適切に行うのはもちろんのこと、その危機管理の内容を、株主・投資家にもわかりやすく見せていく必要があります。

大気汚染・土壌汚染・水質汚染など環境問題への危機管理の見せ方

大気汚染・土壌汚染・水質汚染など環境問題への危機管理が適切であることは、地域の住民、監督官庁・地方公共団体、メディア、株主・投資家にわかりやすく見せていくとして、どのような方法によればいいでしょうか?

危機管理広報の問題として本を1冊書けるくらいのポイントがありますが、今回は、事実・原因の公表に関するポイントと、公表方法に関するポイントについて説明します。

事実・原因に関する公表のポイント

ミスリードと不安の回避

大気汚染・土壌汚染・水質汚染など環境問題での事故が発生したとき、事故の第1報を発信する際だけでなく、その後も当分の間は全容が解明できないことが多いです。

その場合に注意すべきは、ミスリードにならないようにすること、住民や投資家ら公表された内容を見た人が不安にならないようにすることです。

現時点ではという留保付きの説明

ミスリードにならず、不安にさせないためには、会社が確認できていない事実については「確認できていない」「現在調査中」などと正直に説明する。また、被害の状況についても「最大でこういう可能性がある」「現時点では・・・と確認できている/確認できてない」と答えることです。

三井石油開発のケースでは、6月29日のリリースでは、噴出の原因、影響等については「現在、調査中」と回答できていました。

しかし、人的被害については「この噴出による、人的被害はございません」と言い切った後に、7月15日までに15人の体調不良者が出てしまいました。

人的被害の発生が予測される場合には、「現時点では、この噴出による人的被害は・・」などと現時点という留保を付けておいた方がよいです。

最大・最悪の発表をしてから小さくしていく方がよいケースがほとんど

被害の内容についても、危機発生当初は最悪のケースを示し、事案が進捗して全容がわかるにつれて危機の内容を小さくしていく方が、徒に不安にさせないケースがほとんどです。

被害の内容を小さく発表してから、時間の経過とともに大きくしていくことは、どこまで際限なく広がるか不安にさせてしまうからです

公表方法のポイント

公表する場合、現在では、多くの会社が公式サイトにリリースを掲載しています。それはそれでよいのですが、「発表した」という形だけになっていて、見た人・読んだ人が「意味をわかる」という質が伴っていないことも目立ちます。

質を伴うためには、誤解を招かないために内容に具体性を持たせることと、わかりやすいレベルに噛み砕くなど表現を工夫することが必要です。

情報掲載の仕方

三井石油開発の場合には、連日、リリースが公式サイトに掲載されています。

しかし、現状のままでは、公式サイトを訪れた人に片っ端から一つずつpdfファイルを開いて見ることを強いることにもなってしまいます。

そのため、ある程度情報がまとまった段階で専用ページなどを作り、情報が一覧で見られたり、折れ線グラフや棒グラフを用いて毎日の数値の推移表を掲載するなど、見る人・読む人に親切な工夫をすべきでしょう。

専用ページでの情報の一覧性は以前にも紹介した神戸製鋼のケースが、数値の推移表は新型コロナに関する各種データをまとめた政府や東洋経済のサイトが参考になると思います。

具体性をもち、わかりやすくする工夫

三井石油開発の場合、ヒ素や硫化水素の濃度について観測点ごとの数値は掲載されています。

しかし、その数値が何を意味するのかなどは記載されていません。

「農業用水の●●倍の濃度のヒ素が検出された」ことがどういう意味を持つのか、例えば、その農業用水で育成された農作物をどれくらい食べると発がん可能性が元々の農作物を食べるときよりもどれくらい上昇するのかを書き起こすなどの工夫が必要です。

私が相談を受けたケースでは、「トリクロロエチレンが地下水から基準の●●倍検出されたということは、当該濃度の地下水を毎日2リットルずつ70年間飲み続けたときに、発がん可能性が●●倍上昇するということです」などと、WHOの言葉を借りながら説明したこともあります。

このような工夫をすると、危険性(安全性)について地域住民の人たちが理解してくれやすく、不安を解消されやすくなります。

特に、ヒ素については和歌山カレー事件の影響から危険性について不安を抱いている人が多いと思いますので、こうした工夫をすることは有効ではないでしょうか。

まとめ

大気汚染・土壌汚染・水質汚染など環境問題への危機管理は、地域の住民から会社の信用を回復する、地域の住民の被害の拡大を防止するだけではなく、企業の社会的責任(CSR)やESGとして株主・投資家をも意識する必要があります。

その際には、公式サイトにただ情報を垂れ流すのではなく、専用ページを設置し、折れ線グラフや棒グラフなどを駆使して見せ方を工夫する、わかりやすくレベルの言葉に置き換える工夫なども必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。