大手損保4社が独禁法が禁止する「価格カルテル」の疑い。東急向け火災保険料のほか、仙台空港向けの保険料で事前に価格調整か?取引先からの違法・不正・不適切な行為の指摘や通報があった際に講じるべき社内危機管理と調査。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

東京海上日動火災保険損害保険ジャパン三井住友海上火災保険あいおいニッセイ同和損害保険の4社が東急向けの火災保険料を調整していた疑いに関し、2023年6月19日に金融庁が報告徴求命令を発していたことが報じられると(2023年6月19日日経新聞)、4社のいずれも関与を認めるリリースを公表しました。

東急が損保4社から提示された保険料の額を見て疑念を抱き、2022年12月20日に、東京海上日動火災保険の担当営業部門に不適切な行為の有無を確認したことがきっかけで判明しました。

7月14日には、各社が調査した結果、仙台空港向けの保険料でも事前に価格を協議していた疑いが明らかになったとも報じられています(2023年7月14日日経新聞)。

このケースのように取引先から違法・不正・不適切な行為の存在を指摘や通報された場合、指摘を受けた会社は、どのように危機管理し、どこまで調査すべきでしょうか

取引先からの通報に対するあるべき姿勢

内部通報の場合

違法・不正・不適切な行為が発生した場合に、従業員らから内部通報があった場合には、ただちに事実を調査、原因を究明して適切な危機管理を行うことは、取締役の内部統制を整備・機能させる義務として当然です。

内部通報をもとに違法などの事実の有無・内容・原因を調査し、適切な危機管理を行い、かつ、再発防止策を講じることは、売上・利益への影響だけではなく、ブランド価値や信用などを含めた企業価値へのダメージを最小限に留めることにつながるからです。

その意味では、内部通報に対して然るべき危機管理を行うことは善管注意義務そのものです。

公益通報者保護法に基づく公益通報対応業務の定めがなかったとしても行うべき義務です。

これに対して、内部通報があっても真摯に対応しない場合には、取締役としての善管注意義務、内部統制を整備する義務を果たしていないことになります。

それどころか内部通報者を守秘義務違反などを理由にして懲戒処分したとき紛争に発展することは不可避です。

過去にも投稿したように実際に何件も訴訟に発展しています。

取引先からの通報・指摘

では、取引先からの通報・指摘に対してはどのように対応すべきでしょうか?

取締役は善管注意義務に基づいて、企業価値の最大化を図る役割を担っています。

そのため、取引先からの通報や指摘によって企業価値を低下させる情報を知ったときには、企業価値へのダメージを最小限に留めるべく、ただちに事実を調査し、原因究明し、適切な危機管理を行い、かつ再発を防止すべきなのは、内部通報の場合と同じです。

違法や不正を指摘した者が従業員であろうと社外の取引先であろうと、企業価値への影響は同じです。むしろ、取引先から通報されたのに、それでも動かず、適切な危機管理を行わない方が、企業価値をより一層低下させることになるでしょう。

ダスキン事件(大阪高裁2006年6月9日)

取引先から通報されたのに、その後の対応が不適切だったとして取締役の責任を認めたのは、ダスキン事件判決です。

  1. ダスキンの一事業部門であるミスタードーナツが製造・販売している大肉まんについて、製造委託先の会社が日本では未認可の添加物が使用されていることをFC本部長に指摘し、FC本部長はFC担当取締役に報告。
  2. FC担当取締役は販売の継続を決定し、かつ、製造委託先の会社に口止め料を3回(合計6300万円)も支払いました。
  3. FC担当取締役は、その後、生産担当取締役、代表取締役社長に報告し、調査委員会まで設置して事実を確認したにもかかわらず、自ら積極的には公表しない方針をしました。
  4. その後、匿名の通報により保健所の立入検査が行われて、ミスタードーナツは営業停止。
  5. ダスキンはFC各店舗からの回収、廃棄、営業補償料などで約105億円の損失が発生したため、株主がダスキンの代表取締役社長以下を代表訴訟で訴えた

というケースです。

このケースでは、「自ら積極的には公表しないとい、あいまいで、成り行き任せの方針が経営判断というに値しない」との部分が、経営判断の観点から注目されています。

しかし、ダスキン事件判決では「消費者やマスコミの反応をも視野に入れた上での積極的な損害回避の方策の検討を怠った点において、善管注意義務違反のあることは明らか」とした点も注目に値します。

1つには危機管理広報の必要性に触れていること。

もう1つは「積極的な損害回避の方策の検討」と判示し、企業価値の最大化を損ねる違法や不正な事象を認識したときには、取締役は善管注意義務に基づいて積極的に危機管理をすべき義務があると指摘したことです。

ダスキン事件判決は、取締役が不正を認識したきっかけが内部通報であるのか、取引先からの通報であるのかを区別していません。

取引先からの指摘・通報であったとしても、取締役は不正の疑いを知ったからには、企業価値の最大化を損ねるのを最小限に留めるべく適切な危機管理を行う義務があるということです。

危機管理の調査はどこまで行えばよいか

損害保険会社とカルテルの歴史

今回のケースは、損害保険会社4社による価格カルテルが疑われるものです。

損害保険業界では、過去、価格カルテルと疑われる協定に関して

  • 1994年10月に、自動車保険における修理工賃の単価を損害保険協会の会員会社間で協定した疑いで、公正取引委員会が同協会に警告する
  • 1996年12月に、日本機械保険連盟が機械・組立保険の保険料率についてカルテルを行っていたとして公正取引委員会が排除勧告し、かつ、同連盟の加盟会社の多くが損害保険協会の会員でもあったことから公正取引委員会が同協会に会員会社への指導を要請する

といった2つの大きなイベントがあり、それを受けて、業界独自のガイドラインを策定した歴史があります(※詳しくは「損害保険業界におけるコンプライアンスの展開」という論文で説明されています)。

そのため、なおのこと、取引先から不正に関する指摘・通報を受けたときには、適切な危機管理を行う必要があります。

各損害保険会社の対応

今回のケースで、東京海上日動火災保険は、東急からの指摘を受けた後、

  • 複数の社外弁護士を起用した特別調査委員会を設置
  • 外部弁護士を起用して契約担当者および関係者への事実確認
  • 余件調査のため電子メールや携帯電話記録等のデータ解析(フォレンジック調査)

を実施したと説明しています。

また、損保ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損保も同様に、

  • 複数の社外弁護士も含めた調査委員会を設置
  • 当社担当者および関係者への事実確認
  • 電子メールや携帯電話記録等のデータ解析
  • 同種の事案の有無など

を行っていることを明らかにしています。

この3社が公表した文面が似ているのは、1社が先行して出したものを真似たからなのでしょうか? 事前の調整があったのでしょうか? 違和感を覚えます。

調査のポイント

4社とも社外弁護士を起用した委員会を設置し、関係者へのヒアリングなどの事実確認を行い、他社との事前調整に関わるメールや携帯電話の記録などの調査に加えて、余件調査・同種事案の調査も行っています。

関係者へのヒアリング、事前調整に関わるメールや携帯電話の記録の調査は、価格カルテルの成立要件である「意思の連絡」があったかどうかを確認するもので、調査のメインとなる部分です。

「意思の連絡」がどのような場合に認められるかは、以前、電力会社の価格カルテルの投稿で解説しましたので、そちらをご覧下さい。

問題になった「意思の連絡」の有無に関する調査に留まらずに、「余件調査」「同種事案の調査」まで行うのは、再発防止の観点からだけでなく、積もり積もった膿を一気に出すためにも不可欠です。

過去に遡ってすべて調査し、違法・不正・不適切であると指摘されたタイミングで過去から問題がある行為を一掃することが、その後の危機管理、将来の内部統制整備の成否を分けます。

例えば、三菱電機は、2018年には品質に関するガイドラインを作成し、2018年~2019年にかけて、不正・不適切行為を防止するための調査を実施したものの、十分な成果をあげなかった/膿を出し切れなかったことで、2022年の複数箇所での品質不適切事案の発生に繋がってしまいました。

多くの会社が不正や不祥事の調査をするときに目の前に現れた事象だけを調査しがちですが、企業風土の改善まで行うなら、それなりの過去まで遡ることは不可避です。

その場合には調査が長期化することも予想されます。長期化するからといって調査報告書がいつまでも完成しなければ「本当に調査を行っているのか?」という目で見られてしまいます。

そのため、調査が長期化する場合には、調査報告書を、調査のきっかけになった事象に関するものと、過去にまで遡ったものに分けて作成・公表しても良いと思います。

なお、損害保険会社に関しては、現在、ビッグモーターによる保険金不正請求も話題になっています。

ビッグモーターから不正請求された損害保険会社は被害者の立場なので、ビッグモーターに対して調査に基づく事実関係の説明を積極的に要求すべきです。

まとめ

取引先からの違法・不正・不適切な行為の指摘・通報であっても、内部通報と同様に受け止め、適切な危機管理を行うことが取締役の責任であり義務です。

また、その際には、目の前で問題になった事実を調査するだけでなく、過去に遡って事実を調査することが必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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