ビッグモーターが保険金不正請求に関する調査報告書の概要だけを公表。被害者である保険会社が講じるべき対応・措置は?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年7月5日、中古車売買のビッグモーターが、事故車修理の際に損傷していない部位についても板金塗装するなどして保険金を過剰に請求していた件に関する特別調査委員会の調査報告書の概要だけを公式サイトに掲載しました(スクショのとおり)。

今日はこの件に関し、調査委員会(第三者委員会)による不正の調査報告書は公表する必要があるのか? と、保険金を不正に請求される被害を受けた保険会社のあるべき対応・措置について、です。

※2023/07/19追記・・ビッグモーターが調査報告書全文を公表した後に以下の記事を追加しました

ビッグモーターは調査報告書の全文/要約版を公表すべき

ビッグモーターは調査報告書の要約版すら公表していない

ビッグモーターは調査報告書全文や要約版ではなく、「保険金請求において不適切な行為があった」と認定した特別調査委員会の結果と、特別調査委員会から提言された再発防止策のポイントだけを公式サイトに掲載しました。

ビッグモーターによる保険金不正請求の件を追っている東洋経済の一連の連載のほうが詳細がわかるくらい、ビッグモーターは保険金不正請求の実態を公表していません。

東洋経済は、特別調査委員会の結果について、

  • 全国に33あった整備工場のうち、すべての工場において事故車修理費用の水増し請求の疑義があった
  • 主な手口は、工場長などの指示に基づいて損傷のない車両のパネル部分に板金塗装を施し、修理費用を水増し請求するといったもの

などと報じています。

7月7日付け日経新聞電子版では

  • 全国の整備工場から無作為に抽出した約3000件の修理案件を調べたところ4割超にあたる1000件以上で不適切な行為の疑いがあった

とも報じています。

この記事を読む限り、組織的に保険金の不正請求をしていたことが伺えます。

なお、ここまで至った経緯さえもビッグモーターは公表していません。

経緯は、日刊自動車新聞の記事のギャラリーに掲載されている時系列表に詳しく書かれています。

※2023/07/15追記

東洋経済や日刊自動車新聞はビッグモーターの調査報告書を入手したようです。ビッグモーターの現場で行われている不正・不適切な行為が組織的に行われていることや保険金不正請求の手口の詳細が記事になっています。

報告書の原本には、ゴルフボールを靴下に入れて振り回し車体をたたいてへこませたり、バンパーを力づくで押し込むなどしてフェンダーを傷つけたり、ヘッドライトカバーをわざと壊したりしていた調査内容が盛り込まれていた。同社では顧客の車を故意に壊し、修理費が余計にかかったことにする手口で、保険金を損保各社に水増し請求していた。

また、悪質な行為に至った背景については、板金塗装(BP)部門の経験者が、工場長など幹部の指示があったと、特別調査委の弁護士に証言しているケースも多いという。

2023年7月14日付 日刊自動車新聞電子版

また、朝日新聞の報道によると、2022年に従業員が現場での不適切な行為を内部告発したことをビッグモーターの社長らが無視していたとも報じられています。

調査報告書の公表には危機管理広報の視点とコーポレートガバナンスの視点が必要

ビッグモーターに限らず特別調査委員会など第三者委員会を設置した場合、その調査報告書を公表するか否かについては、会社としての信頼の回復・維持を目的とする危機管理広報の観点と、会社で発生した不正に対する事後対応というコーポレートガバナンスの観点の両方から考える必要があります。

ビッグモーターは上場していないとはいえ、企業規模の大きさ、消費者に対する知名度、保険金不正請求が組織的に行われていたこと、不正請求の額などを考慮すれば、危機管理広報の観点からもコーポレートガバナンスの観点からも、少なくとも調査報告書の要約版は公表すべきだと思います。

それにもかかわらず、ビッグモーターは調査報告書の概要(概要というよりも自社に都合の良い部分だけの抜粋)を掲載しただけです。危機管理広報も、コーポレートガバナンスもできていないと言ってよいでしょう。

潜在顧客である世の中の人たちからの信頼を失い、最終的・将来的に経営への影響は避けられないと思います。現に、SNSでは、ビッグモーターの報道が認知されるに従って批判の声が増えています。

これに対して、企業規模が大きくても不正が組織的なものではない場合、不正によって生じる損害額や影響度が小さいときには、危機管理広報の観点からもコーポレートガバナンスの観点からも調査報告書は必要ありません。

日常業務で発生した不正を社内調査・弁護士を入れて調査としても、それ自体で会社の信頼を左右するものでもなく、取締役のガバナンスの責任が問われるわけでもないからです。

公式サイトへの掲載の方法

また、ビッグモーターの公式サイトでは「ホームページ掲載チラシを更新しました」や「●●店●月●日オープン オープンチラシ公開中」となどのニュースと並べ、「お知らせ」のタグを付けています。

この事実からは、ビッグモーターは、保険金の不正請求問題はチラシと同程度の扱いとして受け止めていることが伺えます。

ビッグモーターが危機管理案件として真摯に受け止めているなら、チラシのお知らせなどとは、せめてタグを分けて然るべきだと思います。

保険会社のあるべき対応・措置

ビッグモーターが保険金を不正請求していた疑惑を認める調査結果が判明した現時点において、不正請求される被害を受けた保険会社各社(東洋経済の記事では損保ジャパン、東京海上日動、三井住友海上の3社)は、どのような対応・措置を講じるべきでしょうか。

現時点での対応・措置

日刊自動車新聞や東洋経済の記事によると、ここまでの3社による対応は以下のとおりです。

  • 2022年4月 3社がサンプリング調査を実施
  • 2022年6月 疑義が確認されたため入庫紹介を停止し、自主調査をビッグモーターに申し入れ
  • 2022年7月 損保ジャパンだけが入庫紹介を再開
  • 2022年9月 工場長の指示など組織的関与が明らかになり損保ジャパンは再び入庫紹介停止

しかし、これは単に新規の取引を停止しただけでは、不正請求に対する対応としては不十分です。

損害賠償請求、返金請求

保険会社3社の取締役は、ビッグモーターから相当な保険料収入の実績があるとはいえ、不正請求に応じたことで相当額を支払っています。これは保険会社にとって損害です。

そうであれば、今後は、損害回復としての損害賠償、返金などを請求していくことは不可避です。

そうでなければ、保険会社の損害を放置したことになり、経営判断の原則違反による善管注意義務違反となるおそれがあるからです。

損害を放置すれば、株主からの責任追及のほか、監督官庁である金融庁検査にも耐えられないのではないでしょうか。

また、不正請求の対象になった契約加入者は、保険金が支払われたことで保険料もアップしているはずです。

この保険料を返済する原資を作るためにも、ビッグモーターに損害賠償や返金を請求していくことは不可避だと思います。

※2023/07/11追記、7/25追記

共同通信によると、保険会社各社は不正請求に応じて支払った保険金の返還を請求しているそうです。

損保ジャパンは、7月25日、今後の対応方針を公表しました。この程度の内容なら、もっと早くに公表すべきだと思います。

コーポレートガバナンスの視点での対応

さらに、取引先による不正への然るべき対応・措置は、コーポレートガバナンスの観点からも必要です。

3社は、これまでにサンプリング調査を実施する、入庫紹介を停止するなどしていますが、不正の実態が解明されないまま、少なくとも保険会社が納得する説明をビッグモーターから受けないままに入庫紹介など取引を再開することは、保険会社がビッグモーターの不正請求を許容するのと変わりません。

これを許容することは、第2、第3の不正請求を生じさせる可能性さえあります。

自社の不正ではない部分にも、不正の発生・再発を予防する/不正が発生した後に対応するコーポレートガバナンスの視点が必要です。

そのため、少なくとも保険会社が納得するまで説明するようにビッグモーターに求めることは必須だと思います。

詐欺での刑事告発

さらには、朝日新聞が報じたとおりに、現場での不正・不適切な行為を従業員が内部告発したのに社長らが無視していた事実があるならば、組織的に保険金の不正請求をしていたということでビッグモーターという法人と社長ら役員の両方を詐欺で刑事告発することも考えるべきでしょう。

刑事告発までして最終的には刑事罰を負わせることが、第2、第3の不正請求を防ぐことにも繋がります。

まとめ

特別委員会・第三者委員会による調査報告書の公表の要否は、危機管理広報の観点とコーポレートガバナンスの観点から判断する必要があります。これは、ビッグモーターのケースに限りません。

また、保険金の不正請求の被害を受けた保険会社は、納得するまで説明することを求め、かつ、不正請求に応じて支払った保険金を損害賠償・返金するように請求し、保険会社の損害を充填することが必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。