証券会社の名前を騙るFB広告、SMS、電話が相次いで発生。自社の社名を騙られたときの危機管理広報と、不正競争防止法に基づく法的措置について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

Facebookなどで「みずほ証券」のロゴマークを使用し同社になりすます広告が掲載されTwitterで批判されていたことを受け、みずほ証券が2023年7月5日から公式サイトで注意喚起していることが報じられています(2023/7/5スポニチなど)。

今日は、自社の名前を勝手に騙られる行為に対する危機管理広報と、不正競争防止法に基づく法的措置について整理します。

自社の社名を騙る広告に対する危機管理広報

証券会社が自社の社名を騙られたとき、迷惑・被害を受けるのは騙された顧客です。

勝手に社名を騙られた証券会社は被害者です。だからといって、証券会社が自社の社名を騙った広告やSNS、メッセージが存在していることを認識しているのにその状態を放置していれば、被害に遭った顧客から「なぜ注意喚起してくれなかったんだ」などの非難・批判を招くことは必至でしょう。

また、性的な表現をするなど不適切な広告であるときには、証券会社が不適切な広告をしていると信じて、「このご時世にハラスメントか」などと要らぬ批判を招くこともあります。

みずほ証券を騙ったFB広告には女性2人の写真が使用されていたこともあり、ツイッター上で「みずほ証券…けしからん」などと話題となっていたと報じられています(2023/7/5スポニチ)。

みずほ証券にしたらとばっちりの被害ですが、SNS上に批判が生じたまま放置していれば、証券会社としての信用の低下を招きます。

そのため、社名を騙られた証券会社は、被害の拡大防止と自社の信用低下・信頼維持という観点からの危機管理広報が必須です。

みずほ証券は、2023年7月5日には公式サイトには注意喚起のメッセージを表示し、以下の注意喚起の専用ページも設けています。

なお、大和証券野村證券も同様の事態が生じているため、公式サイトのトップページに注意喚起のメッセージを載せ、かつ以下の注意喚起の専用ページを設けています。

こうした危機管理広報をするときに、やってしまいがちな失敗は「自社とは無関係です」であることを強調しすぎるケースです。これでは自社の正当性だけをアピールしただけで顧客を保護するという要素が欠けてしまいます。

被害の拡大防止、信頼の回復という危機管理広報の目的に照らしたときには、顧客を保護するという観点からの広報をするようにしてください。

3社とも、証券会社の名前を騙ったFB広告以外に電話やSMS、SNSでの勧誘等すべてを注意する内容なので、顧客を保護するという目的に適った広報になっています。

自社の社名を騙る広告に対する不正競争防止法に基づく法的措置

社名を騙られた会社は、自社の信頼の回復・維持をするだけでなく、社名を騙られる行為を止めることも必要です。

今回のみずほ証券、大和証券、野村證券のようにFB広告、SMS、電話などで社名を騙られているほか、最近目立つのは、無関係な会社がGoogle広告(旧Googleアドワーズ)に出稿するときに自社名をキーワードに設定するケースです。私も、先日相談を受けた案件がありました。

また、最近では、ChatGPTでGoogle検索したときに、ChatGPTを提供しているOpenAIではなくChatGPT日本サイトを騙る存在が確認できない他社のサイトが検索結果のトップに表示されることが報じられました(なお、2023年7月6日現在ではOpenAIのChatGPTがトップに表示されます)。

こうした場合、社名を騙られた会社は、不正競争防止法に基づいて法的措置を講じることが考えられます。

不正競争防止法は、周知されている商号(社名)などの表示と同一・類似の表示を使用して、その会社の商品・営業と混同を生じさせる行為(混同惹起行為)を不正競争行為として禁じています。

社名を騙られた会社は、不正競争行為であることを理由に、社名を騙った会社に対し損害賠償請求、差止請求をすることができます。

広告主・投稿者を特定する手順

損害賠償請求、差止請求をするためには、自社名を騙っている相手を特定することが必要です。

広告の内容などから相手が特定することができるならそれでいいですが、そうでなければ、発信者情報開示を順次行う必要があります。

Facebookへの広告や投稿で社名を騙られた場合なら、

  1. Meta社(Meta Platforms, Inc.)を相手に、広告主・投稿主の発信者情報開示の仮処分申請(管轄は東京地裁です)
  2. 仮処分で開示される内容により投稿時のログインIPアドレスとタイムスタンプがわかるので、IPアドレスと紐付いているプロバイダに発信者情報開示請求
  3. 2の結果、格安SIMなどMVNOを使用しているときには、MVNOにも発信者情報開示請求
  4. 1〜3によって開示された内容で広告主・投稿主の氏名・住所が特定できたら、相手に警告/訴訟を提起

という手順を踏むことになります。広告の場合には1だけで契約者が判明するはずです。

海外の悪意ある者が広告主のときには、ここから先はどうしようもないのが現実です。

発信者情報開示については以下の書籍が参考になります。

まとめ

社名を騙られたときには、被害発生の防止と自社の信頼の確保・維持の観点から、危機管理広報と不正競争防止法に基づく法的措置を講じることを考えましょう。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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