東洋機械金属の中国子会社で従業員が5億円を業務上横領した疑い。海外子会社・グループ会社へのグローバルなグループ・ガバナンスのあり方について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年5月25日、東洋機械金属の中国子会社で従業員が銀行預金5億円を着服した疑いがあることが明らかになりました。

海外で従業員が業務上横領をしたケースというと、1995年の大和銀行事件を思い出します。

大和銀行のNY支店の行員が、12年間にわたって銀行に見つかることなく不正に証券取引を行い、11億ドル(当時の日本円で1100億円)相当の損失を出したことをきっかけに、取締役の内部統制の責任が代表訴訟で問われた事件です。

今の内部統制、コーポレートガバナンスの整備のきっかけになった事件と言っても良いでしょう。

ということで、今日は、東洋機械金属のように海外子会社・グループ会社での不正に対する親会社のグローバルなコーポレートガバナンスのあり方について考えようと思います。

結論から言えば、

  • 平時のガバナンスとしては、親会社に子会社・グループ会社を管理監督する組織を備え、グループ全体のコンプライアンスに関する方針を定め、海外子会社・グループ会社から親会社への定期報告・随時報告を義務づけること
  • 危機時のクライシスマネジメントとしては、親会社が子会社・グループ会社に調査や危機管理に関するメニューを示し、または親会社が積極的に調査や危機管理に関与すること

が求められます。

グループガバナンスに関する経産省のガイドライン

グループガバナンスについて、経産省は、2019年6月28日に「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」を出しています。

  1. 子会社・グループ会社での不正を防ぐための親会社の内部統制のあり方
  2. 子会社・グループ会社で不祥事が発生した場合の対応

について、「まあ、そりゃそうでしょう」という一般的な内容を多角的に記したものです。

子会社の危機管理に関する判例;福岡魚市場事件最高裁判決

親会社の取締役が子会社・グループ会社を管理する責任ついて裁判所の考え方を示した事件として、福岡魚市場事件判決があります(最高裁2014年1月30日)。

福岡魚市場事件の最高裁判例は、調査に関わる義務の内容を示したので、平時のグループガバナンスではなく、不正発覚後の危機管理(クライシスマネジメント)の場面における取締役の責任に関する判例と理解することができます。

事案の概要は以下のとおりです。

  1. 完全子会社フナショクは、親会社である福岡魚市場と「グルグル回し取引」を行った結果、不良在庫を抱えた。
  2. 親会社の代表取締役らは2022年11月に公認会計士からの指摘を受けるなどしたため、専務取締役を代表とする調査委員会を立ち上げ、ヒアリング調査を行い、子会社から報告書を提出させた。
  3. 子会社の経営状態を回復するために親会社の取締役らは融資したが、子会社は経営破綻し、親会社には18億8000万円の損失が発生した。
  4. 親会社の株主は、取締役らに責任を求める代表訴訟を提起した。
  5. 親会社の代表取締役、専務取締役、常務取締役は、子会社の非常勤取締役、監査役を兼任していた。

裁判所は、3の子会社への融資が経営判断原則に違反していることを認めて親会社の取締役らの責任を認めました。

子会社・グループ会社へのガバナンスが問題になったのは、2の部分です。

この部分に関して、判例は、

遅くとも公認会計士からの指摘を受けた平成14年11月18日の時点で、親会社の取締役として、親会社及び子会社の在庫の増加の原因を解明すべく、従前のような一般的な指示をするだけでなく、自ら、あるいは、親会社の取締役会を通じ、さらには、子会社の取締役等に働きかけるなどして、個別の契約書面等の確認、在庫の検品や担当者からの聴取り等のより具体的かつ詳細な調査をし、又はこれを命ずべき義務があった。

との調査義務があったことを認めました。

「一般的な指示」というのは、親会社の取締役が「なにがあったか調べて報告しろ」というレベルのことです。一般的な事業会社では、よくある指示だと思います。

しかし、福岡魚市場事件の判例は、そういう「一般的な指示」では足らず

  • 自ら、あるいは、親会社の取締役会を通じ、さらには、子会社の取締役等に働きかけるなどして、
  • 個別の契約書面等の確認、在庫の検品や担当者からの聴取り等のより具体的かつ詳細な調査をし、又はこれを命ずべき義務

と言っています。

親会社の取締役・取締役会が自分たちで子会社を調査するか、子会社の取締役に対して、「最低でもこの調査とこの調査を行うように」と具体的な調査メニューを示して命令すべきだったと言っているのです。

この判示に関しては、親会社と子会社・グループ会社の役員が兼任していた特殊事情があるなどの指摘もあります。

とはいえ、最高裁の判例がここまで言及している以上、親会社の取締役は、グループガバナンスのためには、この判例を意識して子会社・グループ会社に具体的な指示をしておいた方がベターでしょう。

実際に、こうしたメニューや指示書を出している会社も出てきています。

平時のグループガバナンスについて親会社の取締役の責任を問うた裁判例

これに対して、平時のグループガバナンスについて親会社の取締役の責任を問うた裁判例として、ベネッセHD事件判決とみずほFG事件判決の2つがあります。

どちらもグループガバナンスに関する取締役の責任は否定されました。

ベネッセHD事件判決

2013〜2014年に完全子会社ベネッセコーポレーションのデータベースから個人情報約約2,895万件が持ち出されていた事件について、持株会社であるベネッセHDの取締役に対して、グループガバナンスの責任が問われました。

控訴審の広島高裁2019年10月18日は、以下のように判示して、ベネッセHDの取締役の責任を否定しました。

ベネッセHD 及びその子会社からなるベネッセグループにおいては、事業会社経営管理規程等の各種規定が整備され、それらに基づき、人事や事業計画への関与、グループ全体のリスク評価と検討、各種報告の聴取等を通じた一定の経営管理をし、法令遵守を期していたものであるから、企業集団としての内部統制システムがひととおり構築され、その運用がされていた。

(中略)

個人情報の漏えいリスクがベネッセグループにおける主要なリスクの一つとして認識されており、内部統制システムとしては、リスク・コンプライアンス委員会がグループ全体のリスク評価と対応策の検討を行い、子会社各社はそれぞれの業態等に応じた具体的な内容の規定
を定めるなどしてコンプライアンスの徹底を行うものとされていた
ところ、当時のそのような体制が企業集団における内部統制の在り方として特に問題があるとはいえない。

控訴審判決は、

  • 親会社(ベネッセHD)は各種規定を整備し、リスク・コンプライアンス委員会がグループ全体のリスク評価と対応策の検討を行っていた。
  • 子会社(ベネッセコーポレーションほか)は業態に応じた具体的な内容の規定を定めるなどコンプライアンスの徹底を行うことになっていた。

と、親会社と子会社で役割が分担されることを前提に、親会社は役割を果たしていたのでグループガバナンスの責任はない、と判断したのです。

純粋持株会社は事業を行っているわけではなく、マンパワーも足りないので、この程度の役割で十分ではないかと思います。

みずほFG株主代表訴訟(第一審)

2013年に、完全子会社であるみずほ銀行がオリエントコーポレーションとの提携ローンで反社会的勢力に融資している案件が228件あることを理由に、金融庁からみずほ銀行が一部業務停止命令と業務改善命令、純粋持株会社であるみずほFGが業務改善命令を受けた件について、みずほFGの取締役のグループガバナンスに関する責任が問われました。

東京地裁2020年2月27日は、「反社会的勢力防止のための内部統制システムの構築は相当なものであり、被告らが同構築義務に違反するところはない」と判断して、みずほFGの取締役の責任を否定しました。

ポイントは以下のとおりです。

  1. みずほ FG は、コンプライアンス統括部やコンプライアンス委員会といった組織を整備し、グループ管理規程を設けてみずほグループに属する各社について管理区分に応じた経営管理を行い、コンプライアンスに関する基本方針を策定していた。
  2. みずほ FG は、みずほ銀行とグループ経営管理契約を締結し、みずほ銀行からコンプライアンス管理上必要な事項について定期的又は随時報告を受け、必要に応じて事前に承認を得ることとしており、こうしたグループ管理体制は当時の他のメガバンクにおけるものと概ね同様であった。
  3. みずほ FG は、企業行動規範を策定し、コンプライアンス遵守を図るための基本的な事項を定めた基本方針やマニュアル等を策定した。
  4. その後、みずほ FG は、基本方針細則等を改定し、みずほ銀行を重点管理会社に分類し、みずほ FG やその子会社が定める反社会的勢力との取引排除推進体制を整備することとし、みずほ FG が求めた場合又は定期的に、同社に対し、傘下の会社を含めた反社会的勢力との取引にかかる報告を行うこととしていた

特徴的なのは、親会社(みずほFG)がコンプライアンスに関する組織を整備し、グループ管理規定、コンプライアンスの基本方針やマニュアルを定め、さらに、経営管理契約を結んで子会社(みずほ銀行ほか)からの報告まで義務づけていたことです。

ベネッセHDよりも一歩進んだグループガバナンス体制を構築し、機能させていました。

親会社と子会社とは別法人なので、親会社の平時のグループガバナンスにこれ以上を求めるのは厳しいと思います。納得感のある裁判例です。

海外グループ会社へのグローバルなグループ・ガバナンスのあり方

求められるガバナンスの水準

海外グループ会社に対するグループガバナンスは、海外に所在するとはいえグループ会社である以上は、国内に存在する子会社・グループ会社と同等水準の内容と質が求められます。

  1. 平時のグループガバナンス
    みずほFGのケースを参考にすれば、親会社がコンプライアンスに関する組織を整備し、グループ管理規定、コンプライアンスの基本方針、マニュアルなどを定め、さらに、経営管理契約などを結んで子会社・グループ会社からの定期報告・随時報告を義務づけることは必要だと思います。
  2. 危機時のクライシスマネジメント
    福岡魚市場事件のように、海外子会社・グループ会社に対して、親会社が自ら調査・危機管理するか、子会社・グループ会社に対して具体的な調査・危機管理のメニューを示して指示することが必要だと思います。

東洋機械金属の場合

東洋機械金属の開示によると、「5月中旬ごろ、同子会社の預金と帳簿の残高に差異が発覚。その後の調査で、流用の疑いがあると判明した」とのことですから、平時のガバナンスが効いていたからこそ発覚したと考えてもいいかもしれません。

しかし、5億円の着服が相当長期間にわたっていたのだとしたら、長期間気がつけなかった、防げなかったということで、大和銀行事件のように内部統制が整備、機能していなかったと判断される可能性がないわけではありません。

今後、調査委員会を立ち上げて調査するとのことですから、調査報告書で平時のグループガバナンスの体制が整備、機能していたのかは、明らかになると思います。

※2023/07/25追記

2023年7月25日、東洋機械金属は、特別調査委員会による調査報告書を開示しました。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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