ポテチの袋2色化を「環境配慮」と書かなかったカルビー——グリーンウォッシュとの誹りを避けた誠実な情報発信の作法

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

カルビーは2026年5月12日、「中東情勢の影響による一部商品仕様見直しのお知らせ」と題するプレスリリースを公表しました。

「ポテトチップス」「かっぱえびせん」「フルグラ」など合計14品について、パッケージに使用する印刷インクの色数を従来仕様から2色に変更し、2026年5月25日週より店頭で順次切り替えて販売すると明らかにしています。

このリリースを読んだとき、書かれていない言葉のほうが印象に残りました。

印刷インクの色数を減らすという施策は、企業の側から見れば、環境配慮の文脈に乗せやすい題材です。インク使用量の削減はそのままCO2削減やVOC(揮発性有機化合物)削減に翻訳できますし、リサイクル適性の向上や脱炭素の取り組みとして語ることもできます。

CSR報告書や、SSBJ基準に基づくサステナビリティ開示の文脈で「サステナビリティ施策の一環」と位置付けてアピールすることも、技術的にはできたはずです。

しかしカルビーは、そのような語り方を一切選びませんでした。

リリースには「中東情勢の緊迫化に伴う一部原材料の調達不安定化を受け、商品の安定供給を最優先とする観点から、当面の対応策として」と書かれており、地政学リスクへの対応であることが明示されています。

CO2削減やVOC削減、サステナビリティ、脱炭素といった環境用語は、本文中に一度も登場しません。

このことを「淡白すぎる」と感じる方もいるかもしれません。

ただ、ここに広報担当者などの細やかな判断が滲んでいると考えます。

「環境のため」と言った瞬間に発生する三つの責任

企業が「環境配慮のため」と公式に書くと、その瞬間に三つの説明責任が生じてしまいます。

第一に、削減効果を定量的に示す責任です。

何色から何色に減らし、インクを何キログラム削減し、CO2換算で何トンを削減したか。SSBJの開示要求や、消費者庁の環境表示ガイドラインを踏まえると、根拠データなしに「環境のため」と語ることは、嘘を言っているの指摘を受けかねないグレーゾーンに入ります。

第二に、戦略との整合性を示す責任です。

サステナビリティ報告書や統合報告書で語っている自社の環境戦略の中に、この施策がどう位置付けられるかを説明できなければなりません。単発の対応策を環境戦略の文脈に押し込むと、「では他の商品はなぜカラー印刷のままなのか」という整合性の問いに答えられなくなります。

第三に、継続する責任です。

一度「環境配慮で2色にした」と表明すると、状況が改善しても元に戻しにくくなります。戻した瞬間に「環境への取り組みを撤回するのか」という批判が来るおそれがあるからです。

カルビーは今回、対象を14品に絞っています。フルカラー印刷のままの商品は他に多数あり、これを「環境配慮の一環」と説明してしまうと、なぜこの14品だけなのかという問いに答えるのが苦しくなります。

地政学リスクという理由なら、整合的に説明できます。当該品目の調達に影響が出ているから、その品目に限定して対応するという因果が、誰にとっても飲み込みやすいからです。

グリーンウォッシュへの警戒が強まっている時代

ここ数年、世界的にグリーンウォッシュへの規制と批判が強まっています。

欧州連合では2023年に「グリーンクレーム指令案」が公表され、根拠のない環境訴求に対する規制強化が進んでいます。日本でも消費者庁が事業者向けの環境表示ガイドラインを示しており、根拠がなければ、景品表示法の優良誤認表示にさえ該当するおそれがあります。

投資家側でも、ESG評価機関やインデックスプロバイダーが、グリーンウォッシュ的な開示への評価を厳格化する動きが続いています。「言っているほど環境配慮していない」と判定された企業は、ESGインデックスから除外されたり、評価を下げられたりするリスクを負うようになりました。

海外では、シェルやBPといった石油メジャーが、再生可能エネルギー投資の比率を実態より大きく見せたとして、消費者団体や規制当局から指摘を受けた事例が知られています。

このような状況下で、本当の理由が「中東情勢による調達不安定化」であるにもかかわらず「環境配慮のため」と書くことは、後日、グリーンウォッシュとして批判される火種を自ら抱え込む行為になります。

メディアやアナリストの取材で「本当の理由は調達難ではないのか」と問われたとき、答えに窮します。社内文書には地政学リスクへの対応として記録が残っているはずなので、内部通報や情報開示請求の場面で齟齬が露呈する可能性もあります。

リスクを恐れて環境配慮を語らなかったというより、後で言行不一致を指摘されるリスクを織り込んだ上で、最初から地政学リスクを正面から書いたと考えるほうが自然で誠実です。

「当面の対応策」と書いた可逆性の確保

カルビーのリリースで、もう一つ注目すべき表現があります。「当面の対応策として」というフレーズです。

「当面の対応策」と書いておけば、状況が改善したときにカラー印刷へ戻す自由度が確保されます。中東情勢が落ち着き、調達が安定すれば、元のデザインに戻すことができます。そのときに「方針転換」と説明する必要はなく、「当面の対応策を解除する」だけで済みます。

もし「環境配慮のため2色にする」と恒久施策のように書いていたら、元に戻すこと自体が困難になります。「カラー印刷に戻す」イコール「環境配慮の取り組みを後退させる」と受け取られ、ブランドへの逆風になるからです。

経営の自由度を残すために、ストーリーを盛らないという判断を、ここから読み取ることができます。

過去に、原材料コストの高騰を理由に内容量を減らした際に、苦肉の策で「使い切りやすさに配慮した」「環境配慮のため包装を見直した」と説明した食品メーカーが、後年にコストが落ち着いた局面で内容量を戻せず、消費者から不信感を持たれたケースが報道されています。

理由として書いた言葉は、後の経営判断を縛ります。書く側は「いま語る理由」が「将来の判断の自由」を奪わないかを慎重に見極める必要があります。

経営陣に申し上げたいこと

過去の他社事例を自社のこととして捉えると、今回のカルビーのケースから引き出せる教訓があります。

開示文書を書く際、社内では必ずと言っていいほど、「もう少し前向きな書き方にできないか」「アピールポイントを盛って」という声が上がります。広報・IR・営業・経営企画、それぞれの立場から見れば、もっともな提案として響く意見ばかりです。

しかし、その声に応える形で本当の理由とは別の物語を被せていくと、短期的には説明が滑らかになる一方で、後の経営判断を縛り、後日の検証で齟齬を生み、グリーンウォッシュとして指摘される火種にもなります。

広報担当者や経営企画担当者が、その誘惑を退けて「困った理由を困った理由のまま書く」判断をしたとき、経営陣はその判断を支持してほしいと考えます。

「もっと前向きに書けなかったのか」と問う代わりに、「率直に書いてくれて助かった」と言葉にする。それだけで、現場の担当者は次も同じように率直な開示を書けます。

CSRやSSBJといった枠組みは、企業が善行を披露するための舞台ではなく、事業の実相を投資家と社会に伝えるための共通言語です。

カルビーの今回の発表は、「言うべきこと」だけでなく「言わないこと」もまた、開示の作法の一部であることを示した事例だと考えます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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