東証が、投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例を公表。機関投資家寄りの経営改革のポイントであることに要注意。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年2月1日に、東証が、投資家の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例を公表しました。

東証がポイントと事例を公表した経緯

公表は、2023年3月31日に東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等」に関する要請をしたことに対して、上場会社各社が対応のポイントや事例の公表を求める声を多く寄せたことによるものです。

要請では、「現状分析」→「計画策定・開示」→「取組の実行」「アップデート」の3つのステップについて、それぞれポイントと留意事項が記載されているだけです。

上場会社の立場からしたら、「日頃から経営分析や財務分析は行っている。それとは別に、東証の要請に応じて、何をしたら良いのかわからない」というのが正直なところではないでしょうか。

それ故に、上場会社から東証に「具体的に何をしたら良いのか例を示してほしい」との声が届いたのだと思います。

こうした声に応えたのが今回のポイントや事例の公表です。

なお、要請の中で東証がPBR1倍割れの改善を求めていることなどについては、先日記事にしました。

東証が公表した「資本コストや株価を意識した経営」の留意点

投資家の視点でまとめられている

東証が公表した「資本コストや株価を意識した経営」のポイントや事例を、上場会社がそのまま受け入れることには注意が必要です。

公表されたポイントや事例は、タイトルにもあるとおり「投資家の視点を踏まえた」ものです。

資料の「はじめに」にも

投資者が企業に期待している取組みのポイントや、それらのポイントが押さえられていると投資者が⼀定の評価をしている取組みの事例、反対に、投資者目線とのギャップのある事例等を取りまとめた

と明記されています。

公表されたポイントと事例を参考にする際の注意点

上場会社なので市場で評価されなければ株価が向上しないから「資本コストや株価を意識した経営」をするというのは一理あります。

とはいえ、投資家の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントを鵜呑みにしてそのまま採り入れるとなると、極端な話し、投資家による「剰余金は株主への配当に回せ」などの要求に屈することになります。

敵対的買収防衛策を導入するなどして短期的視点で物事を見る投資家の要請をはね除けて、中長期的視点で会社の経営をしようとこれまで散々頑張ってきたことが無に帰することにもなりかねません。

もっと大げさに言うと、東証が公表した「投資家の視点を踏まえた資本コストや株価を意識した経営のポイントと事例」をそのまま採用することは、機関投資家によって敵対的な買収をされていない会社でも、機関投資家によって買収されているのと同じ結果になってしまうのではないか、ということです。

京成電鉄のケースで考えてみる

例えば、「資本コストや株価を意識した経営」のポイントには、

  • 現状評価・分析のポイント③に「バランスシートが効率的になっているか点検する」
  • 取組の検討・開示のポイント①に「経営資源の適切な配分を意識した抜本的な取組を行う」

とあります。

これを京成電鉄のケースにあてはめてみましょう。

2023年10月に、イギリスの投資ファンドであるパリサーキャピタルが京成電鉄に「オリエンタルランドの株式を一部売却して保有割合を低下させれば、京成電鉄の企業価値が高まる。PBRが改善される。」などと要請したケースがありました。

「資本コストや株価を意識した経営」が示した上記ポイントに照らせば、ファンドが京成電鉄に要請した内容はごもっともな内容であり京成電鉄は要請に応じるべき、という結論になってしまいかねません。

しかし、現実には、京成電鉄には京成電鉄なりの事情、ファンドにはファンドなりの事情があるでしょう。外部の人間には、どちらが正しいのかはわかりません(そもそも経営判断なので、正しい/正しくないの二元論では結論は出せません)。

投資家目線の「資本コストや株価を意識した経営」が必ずしも正しいとは限らないのです。

そこで、資料の「はじめに」にも

  • なお、中⻑期的な企業価値向上の実現に向けて必要となる取組みは、当然ながら、各社の状況によって異なるものです。本資料で取り上げている対応のポイントや取組みの事例を参考にしつつ、経営陣・取締役会が主体となり、自社の現状を十分に分析・評価したうえで、取組みを推進していただくことが期待されています。
  • 上場会社の皆様におかれましては、単に要請に応じるために対応するということではなく、国内外の株主・投資者からの期待が⾼まっている現状を、ぜひ企業の変⾰を進めるための良い契機として捉え、積極的な対応をお願い申し上げます。

と注書きがされています。

「資本コストや株価を意識した経営」の事例でわかりやすかったもの

事例集を見ていると、各社の個性が見てとれます。

パッとみる限りでは、

  • 東亜建設工業のIR年間カレンダーの見直し
  • 住友林業の役員報酬制度の図
  • 神戸製鋼の資本市場との対話の図
  • 四国化成ホールディングスがバランスシートを利用した分析と取組の説明図
  • 東洋製罐グループホールディングスのキャッシュアロケーションの図
  • 日本瓦斯の資本政策の図

が、どの項目をどう変化させていくのか、どう取り組んでいくのかがわかりやすく伝わる印象を受けました(他がダメとは言ってません。あくまでも、ぱっと見てわかりやすかったのが上記各社というだけです)。

参考になるのではないでしょうか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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