景表法違反に対する直罰として優良誤認表示・有利誤認表示への刑事罰を新設。2度目の課徴金納付命令は売上の4.5%へ増額。2023年改正景品表示法。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年5月17日、大木製薬に4655万円の課徴金が命じられました。

商品パッケージに首から商品を下げている人の写真とともに「空間除菌」「二酸化塩素のパワーで ウイルス除去・除菌※1 ウイルオフ ストラップタイプ」等と表示し(下記写真参照)、自社サイト、TVCM、Youtubeで広告していたことが、優良誤認表示と判断されたからです。

消費者庁の公表資料の中では、不実証広告と打ち消し表示についても指摘されています。

引用元:消費者庁公表資料

優良誤認表示・有利誤認表示と課徴金納付命令についての景品表示法改正

さて、この処分の内容である「優良誤認表示」と「課徴金納付命令」に関し、5月17日に、改正景品表示法が交付されました。「有利誤認表示」も一緒に改正されました。1年6か月以内に施行されます。

優良誤認表示と有利誤認表示の改正のポイント

刑事罰(直罰)の新設

今回の景品表示法の改正によって、優良誤認表示と有利誤認表示をした場合には100万円以下の罰金が科せられることになりました。

従来の景品表示法は、優良誤認表示と有利誤認表示については

  • 措置命令
  • 課徴金納付命令

の2つの行政による制裁を原則としていました。

2年以下の懲役または300万円以下の罰金とする刑事罰の定めもありました。しかし、刑事罰が科せられるのは措置命令に違反したときを前提としていました。

これに対して、今回の改正景品表示法は、措置命令に違反することを待つことなく、優良誤認表示と有利誤認表示をしたときには直ちに刑事罰を科すことができるようになりました。そのため「直罰」(じかばつ)と呼ばれています。

刑事罰が新設された経緯

従来、刑事罰が科せられるのは、

  • 景表法の措置命令に違反した場合、虚偽誇大広告により薬機法違反となる場合
  • 優良誤認表示と有利誤認表示により宅建業法違反・特商法違反・旅行業法違反となる場合

だけでした。独禁法の欺瞞的顧客誘引にも刑事罰はありません。

そのため、端から表示の根拠がないことをわかっていながらも商品やサービスが売れればいい(どうせ行政処分を命じられるだけで、いきなり刑事罰が科せられることはないから)と考えて、優良誤認表示と有利誤認表示する悪質な事業者も存在しました。

消費者庁の景品表示法検討会では

<事例1:優良誤認>
当該事業者は、サプリメントを一般消費者に販売するに当たり、SNS内のアカウントの投稿において、あたかも、本件サプリメントを摂取することで、一定の効果が得られるかのように示す表示をしていたが、調査をしたところ、当該事業者は当該表示の裏付けとなる根拠を示す資料を全く有していなかった

消費者庁景品表示法検討会2023年1月13日付報告書

などというケースも報告されています。

そこで、そうした悪質な事業者への対策として、優良誤認表示と有利誤認表示の直罰規定を新設したのです。

なお、直罰規定が新設されたからといって従来からの措置命令と課徴金納付命令が課せられるなくなるわけではありません。刑事罰、措置命令、課徴金納付命令と制裁が3種類に増えたのです。

直罰の処罰対象は故意犯だけ

新設された直罰規定では過失犯は処罰対象ではありません。故意犯だけが処罰の対象です。

そのため、優良誤認表示と有利誤認表示をしてしまったとしても、広告を実証できる根拠が揃えられたと思っていた、打ち消し表示をしたと思っていたような場合には、刑事罰を科されません。

だからといって、いい加減な根拠を揃えただけでは「広告を実証できる根拠が揃えられたと思っていた」との過失の主張は通用しません。

いい加減な注意表示をしていたのでは「打ち消し表示をしたと思っていた」との過失の主張も通用しません。

宣伝・広告の表示をするにあたって、十分な実証実験を行い根拠を揃えること、打ち消し表示が消費者の目を引くようなサイズやフォントで書くことは従来と変わらないポイントです。

課徴金納付命令の改正のポイント

課徴金納付命令の計算根拠となる売上の推定と、2度目の課徴金納付命令の1.5倍化

今回の景品表示法の改正は、課徴金納付命令に関し、以下の2点を追加しました。

  1. 課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握できない期間の売上額を推計できる規定の整備
  2. 違反行為から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に、課徴金の額を1.5倍する規定の新設

売上額の推計とは

景品表示法の課徴金納付命令は、優良誤認表示と有利誤認表示をしていた期間の売上の3パーセントが算定根拠となっています。

しかし、消費者庁によると、課徴金の対象となる商品の品目別に売上額データを整理しておらず、課徴金調査で適切に売上額を報告できないケースがあり、その結果、課徴金を命じるまでに時間を要することもあったようです。

こうした悪質な事業者への対策として、同一の商品やサービスを取り扱う他社から入手した資料をもとに消費者庁が売上額を推計することにしました。

悪質な事業者がいい加減な経理処理によって課徴金納付命令の額を少なくしたり、課徴金納付命令を命じられるまでの時間稼ぎをすることができなくなりました。

2度目の課徴金納付命令は売上の4.5%

課徴金納付命令は、優良誤認表示と有利誤認表示をした事業者による再発を予防するための行政処分です。

しかし、従来は、一度、優良誤認表示と有利誤認表示を理由に措置命令又は課徴金納付命令を受けたのに、その後も繰り返して再度措置命令を受けたケースは、課徴金制度が導入された2016年4月以降2022年11月までに10社存在します。

そこで、優良誤認表示と有利誤認表示を抑えるために、優良誤認表示と有利誤認表示をしていた期間から過去10年以内に課徴金納付命令を命じられたことがある事業者に、課徴金納付命令を再度命じるときには売上の4.5%を命じることができるようにしたのです。

消費者庁景品表示法検討会の報告書では、運用上の工夫として、以下の点も記載されています。

名称を変えて繰り返し景品表示法違反行為を行うような悪質な事業者に対応するため、法人を隠れみのとしながら、自然人が実質的には不当表示を行っている等と認められる場合に、実質的な違反行為者と評価できる当該自然人に供給主体性・表示主体性が認められるときは、当該自然人を「事業者」(景品表示法第 2 条第 1 項)として認定して措置命令・課徴金納付命令の対象とするなど、運用上の工夫をすべきである。

消費者庁景品表示法検討会2023年1月13日付報告書

特定商取引法違反の場合に、違反した法人に業務停止を命令するだけではなく、役員等に業務禁止を命令することと同じ発想だと思います。

2度目の優良誤認表示と有利誤認表示が故意ではなくても適用される

一見すると、悪質な事業者でなければあまり問題にならない改正点だと思います。

しかし、2度目の課徴金納付命令が売上の4.5%となる規定は、悪質な事業者だけに適用される規定ではありません。

現在、優良誤認表示と有利誤認表示は、それなりの表示管理体制が揃っているはずの上場会社でも課徴金納付命令を命じられることが少なくありません。

特に、研究設備を持っているような会社が「実証できる根拠資料が揃っていると思って提出したのに消費者庁に認めてもらえなかった」と、不実証広告であることを理由に優良誤認表示と判断されてしまうことが目立ちます。

10年以内に同じように「実証できる根拠が揃っていると思ったのに・・」と、不実証広告であることを理由に優良誤認表示と判断された場合には、故意ではなくても、2度目となるので、売上の4.5%を課徴金として納付することを命じられます。

一度でも課徴金納付命令を命じられた後は、表示管理体制を従来以上に厳しく運用していくことが必要ですので注意して下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。