「オンライン家庭教師で利用者満足度No.1」「第1位オンライン家庭教師」とウエブサイトに表示したバンザンに優良誤認表示等を理由とした6346万円の課徴金納付命令。No.1表示の限界を抑える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年8月1日、消費者庁は、自社サイト「オンラインプロ教師のメガスタ」に「オンライン家庭教師で利用者満足度No.1に選ばれました!」「第1位 オンライン家庭教師 利用者満足度」等と表示した株式会社バンザンに、優良誤認表示等を理由として6346万円の課徴金納付を命じました。

自社の商品やサービスの良さをアピールするために、いわゆるNo.1表示をすることはよくあります。

公正取引委員会のNo.1表示に関する実態調査報告書によると、No.1表示は、

  1. 売上実績(金額、数量、契約件数、シェア等)
  2. 顧客満足度
  3. 販売価格(「安さNo.1」など)
  4. サービスの内容(「リフォーム技術力No.1」)

の順で使用されることが多いようです。

今回は、「許されるNo.1表示」バンザンのように優良誤認表示として「許されないNo.1表示」との分水嶺、「許されるNo.1表示」になるための工夫について解説します。

なお、バンザンが「特定の期限までに申し込んだ場合に限り返金や成績を保証する」などとした表示については、有利誤認表示と判断されています。

今回はNo.1表示だけに的を絞って解説します。

バンザンのNo.1表示が優良誤認表示と判断された理由

以下は、消費者庁の公表資料に掲載されている、バンザンの実際の広告例の一部です。

消費者庁は、

  • 「第1位 オンライン家庭教師 利用者満足度」の表示は、オンライン家庭教師のサービスを利用したことがあるかを確認しないで調査を実施したもので、「利用者満足度」を客観的な調査方法で調査していない。
  • 「第1位 オンライン家庭教師 口コミ人気度」と「第1位 AO・推薦入試にお勧め出来るオンライン家庭教師」の表示は、回答者の条件をつけずに調査会社に登録している会員全員を対象に、設定した回答者数に到達するまで実施したもので、「口コミ人気度」と「第1位 AO・推薦入試にお勧め出来るオンライン家庭教師」を客観的な調査方法で調査していない。

と、いずれもNo.1表示の根拠とした客観的な調査方法に問題があったことを理由に、バンザンのNo.1表示を優良誤認表示と判断しました。

※2023/08/07追記(2024/03/02リンク先変更)

バンザンがNo.1表示の根拠とした調査結果を提供したNEXER(日本トレンドリサーチ)は、株式会社バウムクーヘンが供給するペット用サプリメントのNo.1表示にも関与していたと報じられています。

No.1表示が優良誤認表示とならないための要件と工夫

No.1表示が優良誤認表示とならないためには2つの要件をみたす必要があります。

要件1)客観的な調査方法

バンザンのケースからもわかるように、No.1表示が優良誤認表示とならないためには、No.1表示の内容が客観的な調査に基づいていることが必要です。

客観的な調査というのは、調査方法の客観性を意味します。

具体的には、

  1. 調査方法が学術界・産業界において一般的に認められた方法または関連分野の専門家多数が認める方法であること
  2. 調査方法が社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されている

のいずれかを充たしていることが必要です。

要件2)調査結果の正確かつ適正な引用

客観的な調査をしていても、表示されている内容とズレている場合には、調査をした意味がありません。

そのため、調査結果が正確かつ適正に引用されていることが必要です。

調査結果が正確かつ適正に引用されているかは、

  1. 何がNo.1なのか、対象となる商品やサービスの範囲が不明確である場合(商品等の範囲
  2. どこでNo.1なのか、地理的範囲が不明確である場合(商品等の地理的範囲
  3. いつNo.1だったのか、調査期間や時点が不明確である場合(調査期間・時点
  4. No.1の表示の根拠が記されていない場合(根拠となる調査の出典

の各表示で問題になります。

商品等の範囲

何がNo.1であるのか、対象となる商品やサービスの範囲を明確にするとは、例えば、「美容液売上実績No.1」と表示した場合、実際には、世の中にあるすべての美容液でのNo.1ではなく「中高年向け美容液」に限定してのNo.1であるときには、「中高年向け美容液」とまで表示してジャンル・分野を特定するということです。

だからといって、No.1表示を見た消費者が理解できないほどジャンル・分野を細分化しすぎても適正な表示とはなりません。

例えば、「××という成分を利用した美容液売上実績No.1」と表示しても、「××という成分を利用した美容液」がどれなのかを消費者が理解できないなら適正な表示ではありません。

商品等の地理的範囲

どこでNo.1なのか地理的範囲を明確にするとは、例えば、「地域No.1」「エリアNo.1」などと表示したとしても、商品やサービスによって、商品を購入する消費者、サービスを利用する消費者の地域は変わってきます。

半径何キロ以内なのか、特定の市区町村なのか、都道府県単位なのかなど、どのエリアでNo.1なのかを消費者が理解できるように適正に表示することが必要です。

調査期間・時点

調査期間・時点を明確にするとは、例えば、「売上日本一」「●年連続売上実績No.1」などと表示したとしても、それがいつの時点でのことなのかを明確にするということです。

実際には10年前に瞬間風速的に売上日本一になっただけなのに(現在はそれほどでもない)、それを10年経過した現在も表示し続けていれば、適正に表示したとは言えません。

可能な限り表示の直近の実績を表示することが求められています。

また、売上日本一や●年連続売上実績No.1の根拠として、「雑誌××年●月号」などの記事や、ウエブサイトでの調査結果を引用しても、それでは不十分です。

雑誌やウエブサイトが行った調査期間まで明示することが必要です。

根拠となる調査の出典

No.1表示の根拠となる調査の出典を表示するとは、例えば、

  • 調査会社の調査結果を表示するなら、調査会社名、調査の内容・名目
  • 雑誌の調査結果を表示するなら、雑誌名、発行年月日、調査の内容・名目、雑誌が調査会社に委託したのであれば調査会社や調査の内容・名目

まで表示するということです。

  • URLやQRコードを掲載して、No.1表示の根拠となる調査の出典を見ることができるようにする

のも出典を表示したと言えるひとつの工夫です。

詳しくは、公正取引委員会のNo.1表示に関する実態調査報告書を参考にしてください。

業界別の公正競争規約による自主規制にも要注意

以上は、景品表示法が禁止する優良誤認表示の観点から解説しました。

No.1表示には、もう1つ忘れてはいけない規制があります。

業界別の公正競争規約に基づく自主規制ルールです。

大きく分けると

の2種類があります。

以上の2種類は、客観的な事実に基づく根拠がある場合にのみNo.1表示ができるというルールです。

これに対して

もあります。

自社の業界での公正競争規約の有無、公正競争規約の内容については、公正取引協議会のウエブサイトで確認することができます。

まとめ

以上のように、No.1表示は、優良誤認表示にならないように気をつけるべき点がたくさんあります。また、優良誤認表示は、不実証広告規制も関わってきます。

No.1表示は安易に使用せず、慎重にしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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