男性労働者の育休取得率の公表義務。男性の育休取得を認めないとマタニティハラスメント(パタニティハラスメント)になることを知っていますか?

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

今日は5月5日、こどもの日です。
こどもの日といえば育休です(無理矢理)。

4月1日から1000人以上の従業員がいる企業は、男性労働者の育休取得状況を公表することが義務づけられたことをご存知でしょうか?

また、従業員の人数に関係なく、業務上の必要性がないのに男性の育休取得を拒否するとマタニティハラスメント(パタニティハラスメント)になることをご存知でしょうか?

男性労働者の育休取得状況の公表義務

年1回の公表義務

育児・介護休業法が改正されたことで、2023年4月1日から従業員が1000人を超える会社は、 男性従業員の育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務づけられました。

※2023/07/25追記

2023年7月25日には、厚労省は、男性従業員による育児休業の取得状況の公表義務を、従業員が300人を超える会社にまで拡大すべく、2024年に育児・介護休業法をさらに改正しようとしていることが報じられています(2023/07/25付、日本経済新聞)。

各事業年度が終了してから3か月以内が公表期限です。
3月末日が事業年度末(決算期)の会社なら6月末日が公表期限です。

公表する方法

インターネットなど誰もが見られるところで公表しなければいけません。

10万社以上が、厚労省が運営するサイト「両立支援のひろば」で公表しているようです。

転職を考えている方は、転職先の候補にしている会社が育休を取りやすいかどうかを調べやすくなるのではないでしょうか。

男性の育休取得を認めないとマタハラ(パタハラ)になる

男性が育休をとることには、未だ、否定的な経営者や管理職の人たちがいます。

「子育ては奥さんに任せておけば良い。男が育休取るなんてあり得ない」
「うちに小さい子どもがいたときには、俺は育休なんて取らなかった」
「周りに迷惑がかかるから育休を取るな」

などという声は聞いたことがあるのではないでしょうか。

しかし、男性が育休を取ることを希望している状況で、業務上の必要性もなく育休取得を認めないとマタニティハラスメント(マタハラ)になります。

マタハラではなく、パタハラ(パタニティハラスメント)という表現で説明されているものもよく見かけます。英語では”pregnancy discrimination”です。

パタハラは造語なので、正直、マタハラだろうがマタハラだろうが呼び方は正直どっちでもいいと思います。大事なのは、ハラスメントになる要件と効果です。

上に書いた理由で育休取得を拒否すると、どれもマタハラです。

マタニティハラスメントとは

「セクハラ、パワハラは聞いたことがあるけれどマタハラって何?」という方も少なくないのではないでしょうか。

マタハラは男女雇用機会均等法と育児・介護休業法で規制されているハラスメントの一種です。

  1. 女性が妊娠・出産等した「状態に関する言動」で、就労環境を害するもの
  2. 産前産後の休業や育児休業など「制度の利用に関する言動」で、就労環境を害するもの

の2種類があります。

男性労働者の育休取得を認めないとマタハラ

1は、上司や同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返し言って、仕事をさせない状況にすることが典型です。

2は、上司や同僚が「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」と言って、育休取得をあきらめざるを得ない状況にすることが典型です。

つまり、男性に育休取得を諦めさせようとすれば、それだけでマタハラです。

もちろん、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものはマタハラではありません。

上司や同僚が「業務上の必要性があるから育休取得は認めない」と考えていたとしても、それだけでは業務上の必要性があるとは認められません。

業務上の必要性があると認められるためには、「客観的」、要するに、第三者(裁判所)が見ても納得できるだけの具体的な理由が必要です。

男性の育休取得妨害に関するマタハラ(パタハラ)4パターン

男性の育休を取得を妨害することがマタハラ(パタハラ)になるケースとしては、4パターン考えられます。

  1. 上司が育休を請求させないパターン

    育休を上司に相談したら、上司が請求しないように言う

  2. 上司が育休の請求を取り下げさせるパターン

    育休を請求したら、上司が請求を取り下げるよう言う

  3. 同僚が育休の請求を諦めさせるパターン

    育休をとりたいと同僚に伝えたら、同僚が請求しないように何度も言う

  4. 同僚が育休の請求を取り下げさせるパターン

    育休を請求をしたら、同僚が請求を取り下げるよう何度も言う

育休取得に否定的なのが誰か(上司なのか同僚なのか)、育休取得を請求前に諦めさせるか、請求後に取り下げさせるかによって分かれます。

厚労省のガイドラインでは、育休取得に否定的なのが上司である場合には1回でマタハラになるが、同僚なら何度も言ってからマタハラになると考えられています。

男性の育休取得を認めないことで損害賠償

マタハラ(パタハラ)になるということは、ハラスメントをした当事者である上司や同僚は損害賠償を払わなければならない責任を負う、ということです。

過去には、有給休暇の取得を認めなかった上司に60万円の損害賠償を認めた裁判例もあります(日能研関西事件、大阪高裁2012年4月6日)。

この裁判例では、上司の態度に理解を示した人事総務部長、社長にもそれぞれ20万円ずつ、さらには会社にも20万円の損害賠償が認められました。

職場環境整備義務

そうは言っても、「うちの会社は人数が少ないから簡単に休んでもらったら困る」という会社もあるでしょう。

育休を取得しようとした男性の役割や人員配置の観点から業務上の必要性があるときにはマタハラにはなりません

しかし、だからと言って、人が足りないという理由で育休取得を認めないことが常に許されるわけではありません。

日能研関西事件の裁判例では、会社に職場環境整備義務があることを認めています。

これは、育休を取得できるように職場環境を整備することを義務づけたものです。

具体的には、他の従業員に仕事を引き継いで育休を取得できる環境や、人員配置を工夫して育休を取得できる環境を整備することが義務づけられると理解すべきでしょう。

会社がそうした環境づくりへの努力もしないで育休取得を拒否するとマタハラとして損害賠償を支払う義務が生じます。

まとめ

2023年4月1日から施行される改正法で育休取得の公表を義務づけられたのは従業員1000人以上の会社だけです。

しかし、育休取得を妨害したときにマタハラ(パタハラ)となり、損害賠償を義務づけられるのは、会社の規模や従業員の人数は関係ありません。
小さな会社でも育休取得を認めないとマタハラ(パタハラ)となりえます。

男性の育休取得についての感覚をアップデートしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。