内部通報のために個人情報を複写した文書を持ち出した職員を停職3日の懲戒処分にした京都市に損害賠償。停職3日が「重すぎた」ことが理由であって、「懲戒処分したこと」が理由ではない点に要注意。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

4月27日、内部通報(内部告発)のために個人情報を複写した資料を持ち出すなどした児童相談所の職員を京都市が「停職3日の懲戒処分」にしたことについて、約220万円の損害賠償を命じる判決が出ました。

内部通報に関連して抑えておきたい判例であると同時に、メディアの報道の仕方がミスリード気味なので、内容を精査して、整理しようと思います。

ここまでの経緯

京都市に損害賠償を命じた判決は、唐突に出たわけではありません。

今回の判決に先立って、京都市が職員に出した停職3日の懲戒処分を取り消すとの判決が確定しています(最高裁2021年1月28日上告不受理。控訴審;大阪高裁2020年6月19日、第一審;京都地裁2019年8月8日)。

この判決が前提となって、今回の判決に繋がっています。

まずは、事案の概要と前回の判決について確認しましょう。

事案の概要

事案の概要は次のとおりです。

  1. 児童相談所の職員は、2014年10月1日、所長が児童養護施設の施設長から事情聴取している現場を目撃し、当該児童養護施設でまた不祥事が発生したと考えた。

  2. 懲戒処分の対象行為①
    職員は、勤務期間中、児童情報管理システムにより当該施設に入所している児童とその妹の個人情報が記載されたデータを繰り返し閲覧した。当該児童とその妹は、職員の担当ではなかった

  3. 懲戒処分の対象行為②
    職員は、2015年1月頃、児童とその妹のデータを出力・複写した記録のうち1枚を自宅に持ち出した。職員は、11月10日に行われた保健福祉局による事情聴取で、持ち出した複写記録の返却に同意していたのに、同日夜に無断で自宅のシュレッダーで廃棄した。

  4. 懲戒処分の対象行為③
    職員は、2015年1月に行われた新年会で、事情を知らない職員が出席しているのに、飲酒をしながら,児童の個人情報を含んだ内容について発言した。同年3月に行われた組合交渉の場でも、事情を知らない者が参加しているのに、同様の発言をした。

  5. 職員は、京都市児童相談所が相談を放置したと考えて、2015年3月以降、2回に渡り、京都市の公益通報の外部通報相談員の弁護士に通報した

  6. 京都市は、2015年12月4日、対象行為①②③を理由に、職員を停職3日の懲戒処分にした。

懲戒処分を取り消す判決

これを受けて、職員は、停職3日の懲戒処分の取り消しを求める訴訟を提起しました。

大阪高裁は、

  1. 対象行為①は、業務遂行の目的以外の動機・目的よるものではないから懲戒事由に該当しない

  2. 対象行為②は、情報セキュリティポリシー違反(管理基準違反)であり、職務命令違反の非違行為として、懲戒事由に該当する

  3. 対象行為③は、個人情報を含んだ発言ではないから懲戒事由に該当しない

と判断した上で、

  • 停職3日の懲戒処分は重きに失する(懲戒処分の裁量権の逸脱又は濫用)

として、停職3日の懲戒処分の取り消しを認めました。

これが前回の判決です。

最高裁が上告を受理しなかったのを受けて、京都市は、2021年4月13日、職員に「けん責」の懲戒処分を出し直しました。

誤解されがちな部分

前回の判決が出たときの報道と今回の判決が出たときの報道だけを見ると、以下の2点は誤解しがちなので注意が必要です。

懲戒事由に該当することは認めている

懲戒処分の取り消しを認めた前回の判決は、職員の動機や目的の正当性は認めたものの、情報セキュリティポリシー違反(管理基準違反)であり、職務命令違反の非違行為として、懲戒事由に該当することは認めています。

内部通報・内部告発の動機や目的だからといって、個人情報が記録された文書の持ち出しが許されるとは判断していません

停職3日の懲戒処分が「重すぎる」としただけ

しかも、前回の判決は、停職3日の懲戒処分は「重すぎる」ことを理由に「取り消した」だけに過ぎません。

懲戒行為と懲戒処分のバランスが取れていれば、相当な処分として許容される余地は認めています。

判決文中でも、京都市長が対象行為②だけなら減給が相当と発言したことなどを理由に、停職3日の懲戒処分は「重すぎる」と判断しただけです。

懲戒処分したこと自体が違法、と判断したわけではありません。

今回の判決

以上を踏まえた上での、今回の損害賠償を命じる判決が出ました。

職員は、前回の判決に基づいて、停職3日の懲戒処分は不当であることを理由に、京都市に損害賠償を求めました。

あくまでも、停職3日の懲戒処分が「重すぎる」として「取り消された」ことを主張の根拠にしています。

今回の京都地裁の判決も「資料の持ち出しは内部通報に付随するもので、不当な動機や目的があったとは考えがたく、懲戒処分は重きに失していた」「職員は違法な懲戒処分を受けて精神的苦痛を被った」ことを理由に、約220万円の損害賠償を認めました。

あくまでも、懲戒処分が「重すぎた」ことが損害賠償の理由になっています。
懲戒処分をしたことが損害賠償の理由ではありません

まとめ

内部通報・告発が動機や目的であるとしても、社内の文書管理規程など情報セキュリティに関するルールに違反して、内部資料を自由に社外に持ち出すことまで許されるわけではありません。

情報の持ち出しが社内規程違反であるときには相当な懲戒処分ができることは、前回の判決と今回の判決は否定していません。

情報の持ち出しが懲戒処分の理由になる余地を残すことで内部告発・通報や公益通報の目的が達成できるのか、判決の論旨には疑問が残ります
しかし、これが現在の裁判所のスタンスです。現在は、相当な懲戒処分ならできる余地を裁判所は認めています。

情報の取扱いにはくれぐれも注意してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。