コーポレートガバナンス・コード2026年改訂が確定。株主との対話で問われる、経営資源の配分と企業価値の結び付き。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

金融庁と東京証券取引所は2026年7月21日、コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)を確定し、公表しました。

今回の改訂で経営陣(取締役以外に執行役・執行役員も含む)が意識すべきポイントは二つです。

第一に、取締役会の責務として、成長投資や事業ポートフォリオの見直しについて具体的に何を実行するのかを説明すべきことが明記されました。

第二に、株主以外のステークホルダーとの協働の例として、人的資本への投資と適切な分配、取引先との公正・適正な取引が挙げられました。

改訂版コードに沿ったコーポレートガバナンス報告書の提出期限は2027年7月末です。まだ先の話ですが、書き換える中身を決めるのは今期の取締役会になります。

株主が見ているのは、これまでとこれからのつながり

改訂版コードの序文には、会社が自社の中長期的な成長の道筋を自ら語ることを前提として、株主との対話によって取組みの充実を図る、という趣旨が書かれています。

対話で求められる要素は、大きく三つに分かれます。何を語るか、それを何で裏付けるか、誰が語るか、です。

第一に、何を語るかです。取締役会は、成長投資や事業ポートフォリオの見直しなど、経営資源の配分に関し具体的に何を実行するのかを説明すべきものとされました。将来どこに資源を動かすのかが、対話の中心に置かれています。

第二に、何で裏付けるかです。改訂版コードは、中期経営計画が目標未達に終わった場合の対応も定めています。その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明したうえで、次期以降の計画に反映させるべきである、という内容です。

前の計画で何を約束し、どこまで届いたのか。届かなかった部分を経営陣がどう読んだのか。そこを飛ばして次の計画の数字だけを出すと、株主には根拠のない目標に映ります。

第三に、誰が語るかです。解釈指針には、面談の主な議題によっては社外取締役が対応者となるべき場面がある、と書かれています。そのうえで、対話ごとに適切な対応者を選定すべきだとしています。

IR部門が窓口として受け、社長が年に数回の説明会に出れば足りる、という運用をとってきた会社は多いと思います。改訂版コードに照らすと、それだけでは足りない場面が出てきます。

三つの要素のうち、何を語るかが正面から問われた例が、改訂を待たずに出ています。

エリオット・インベストメント・マネジメントは2026年4月、ダイキン工業に関する見解をまとめた資料を公表しました。過去10年間で2.7倍に増えた自己資本について、株主への還元を通じて削減する余地が1兆円以上ある、という指摘です。

その翌月、ダイキン工業は2026年5月12日、2026年度から2030年度までの戦略経営計画「FUSION30」を公表しました。3,500億円規模の自社株式取得を打ち出し、あわせて社外取締役の増員とCFOの設置も明らかにしています。

株主が資本の使い道を問い、会社が次の5年の計画で答える。同時に、その配分を決める側の規律をどう高めるかも併せて示す。対話の場では、こうしたやり取りが起きています。

人的資本への投資は、次の経営を誰が担うかの話

改訂版コードは、人的資本への投資を経営資源の配分の一項目として位置づけています。

解釈指針は、投資先を検討するにあたって多様な投資機会があることを認識すべきだとしています。一つは、投資先を自社の内部に求めるか、外部に求めるかという分け方です。内部であれば設備、研究開発、人的資本、知的財産などへの投資、外部であればM&Aや業務提携、スタートアップへの出資が挙げられています。

もう一つは時間軸です。短期で成果が出る投資と、中長期で回収する投資とを分けて捉えることが求められています。

さらに、国内に投じるか国外に投じるかという分け方もあります。国内投資の例としては、地方への人的投資や地方拠点の整備が挙げられています。

人的資本は、この配分の選択肢の一つとして並んでいます。中長期の成長を誰が担うのかを決める投資だからです。

金融庁が改訂と同時に公表した事例集には、経営人材の選抜を見直した例が載っています。

その会社では、CEOの選任が実質的に会長と社長の専権事項でした。これを改め、指名委員会が次のCEO候補の議論を主導し、その次の世代の候補の育成にまで関わる形に変えています。指名委員会は、候補者との個別面談も行っています。

育て方も変わりました。従来は各事業領域の経験を順に積み上げさせていましたが、変化の速い経営環境に対応できる人材を育てるため、早い段階で候補者を選び、様々な経験を積ませる方針に切り替えています。

選び方も変えています。同じ組織の中で下位の職位から勝ち上がってきた者を選ぶ形から、CEOと経営リーダーの要件を明確にしたうえで、成果と伸びしろの評価に基づいて社内外から選ぶ形になりました。

この見直しが手をつけたのは、予算ではなく、誰を選ぶかの仕組みです。

社内で人材投資という言葉を使うと、たいていは教育予算の話として受け取られます。経費の一項目として扱われ、業績が厳しい年には削る対象になります。

研修を何本増やすか、教育予算を何割上げるか、という議論に落ちていきます。数字にすれば取締役会に報告できるため、報告する側にとっても扱いやすい形です。

しかし、取締役会が確かめるべきは金額ではありません。

予算の増減が示すのは、会社がいくら使ったかという事実だけです。その数字からは、5年後に会社が誰の手で動いているかが見えてきません。

確かめるべきは、どの事業を誰が率いるのかという問いに、具体的な名前を挙げられるかどうかです。名前を挙げられるということは、求める要件が決まり、候補が選ばれ、経験を積ませる道筋まで敷かれているということです。

名前を挙げられないうちは、人的資本への投資はまだ予算の話に留まっています。株主との対話でも、金額を答えるにとどまり、成長の道筋を誰が担うのかという話にはなりません。

適切な分配は、事業をどう組み替えるかの話

適切な分配は、事業ポートフォリオの見直しと一体の判断です。

伸ばす事業に人と資金を移すには、どの事業を縮小するかを決める必要があります。賃金や株主還元の水準を決める前に、どの事業に資源を置き続けるのかを決めることになります。

経営資源は事業だけではありません。手元の現預金、工場や土地といった実物資産、保有している他社の株式も、会社が抱えている資源です。

改訂版コードは、これらを含めた経営資源の配分が経営戦略や経営計画に照らして適切かどうか、取締役会が不断に検証すべきであるとしました。検証する内容として、現預金等の金融資産や実物資産を成長投資等に有効活用できているかが例示されています。

適切かどうかは、その資源を今の場所に置いておくことが中長期的な企業価値の向上にどうつながるかで測られます。置いたままの資金や使っていない土地があるなら、それが将来の成長にどう結び付くのかを言えるかどうかです。

政策保有株式の見直しも同じ流れにあります。改訂版コードは、毎年、取締役会で個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、便益やリスクが資本コストに見合っているかを精査すべきものとしています。取引関係があるから持っている、という説明では足りません。

改訂の趣旨を説明した成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂についてには、補足があります。会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りにおいて、適正な水準の現預金等を保有することも配分の一環として考えられる、という内容です。

持っていること自体が否定されるわけではありません。問われるのは、それが企業価値の向上にどうつながるかを説明できるかどうかです。説明のないまま置かれている資金や資産は、株主から見れば動かせる余地として映ります。

取引先との公正・適正な取引も、この配分の話の中に置かれました。解釈指針には、サプライチェーンにおける適正な価格転嫁を含む、と明記されています。

原価の上昇を取引先に負担させたまま利益率を保っている部分があるなら、それは自社が稼いだ利益とは言えません。

株主が求める利益率の改善と、取引先への適正な価格転嫁は、同じ会社の中で逆を向きます。どちらを削り、どこに配るのかを決めて説明することが、今回の改訂が取締役会に求めている中身です。

2027年7月末までに、取締役会で決めておくこと

改訂版コードに沿ったコーポレートガバナンス報告書の提出期限は、2027年7月末です。東証のコーポレートガバナンス報告書の更新についてでは、それまでの定期更新は改訂前のコードに沿って行っても差し支えないとされています。

作業の本体は、報告書の書き換えではありません。先に決めるのは、経営陣が自分の言葉で企業価値の向上を語れる状態を作ることです。

改訂版コードは、経営戦略や経営計画の策定・公表にあたって、自社の資本コストを踏まえた収益計画や資本政策の基本的な方針を示し、収益力・資本効率等に関する目標を提示すべきものとしています。企業価値を高めるという言い方だけでは足りず、数字で示すことが前提になっています。

その説明を支えるのが、前の計画の結果を経営陣自身がどう評価したかです。届いた部分も届かなかった部分も、なぜそうなったのかを読み解いておく必要があります。ここが空白のままだと、次の計画の数字は根拠を持ちません。

評価が定まると、経営資源をどう配るかの判断ができるようになります。今の配分を維持する、事業の間で組み替える、新たに資金を投じて厚みを増す、といった選択肢があります。

伸びている事業に追加で投資する判断もあれば、配分は変えずに事業の進め方や投資の順序を見直す判断もあります。いずれの選択であっても、それが企業価値の向上にどうつながるのかを示して、初めて成長の道筋を語ったことになります。

判断の材料として要るのは、手元にある経営資源を数字で見える形にすることです。

現預金、政策保有株式、遊休不動産がそれぞれいくらあり、どれだけの収益を生んでいるのか。事業ごとの資本コストと収益率も同じです。

数字にすると、なぜ持ち続けているのかをその場で言えないものが出てきます。企業価値の向上にどうつながるのかを説明できない経営資源です。株主との対話で最初に問われるのは、この部分になります。

そのうえで、投じる先を検討します。設備、研究開発、知的財産、M&A、人材といった投資機会のどれにいくら振り向けるのかを、自社の成長の道筋と結び付けて決めることになります。

経営資源の状況と投じる先が揃ったら、両者を一本の話につなげます。どの経営資源を何に振り向け、その結果として収益力や資本効率をどこまで高めるのか。この筋道が、株主との対話で語る中身そのものになります。

配分をどう決めても、それを担う人がいなければ計画は動きません。5年後に事業を率いる人材の名前を挙げられるかどうかを、同じ取締役会で確認しておくことが必要です。

ここまで揃えば、配分の中身は社内の取締役でも説明できます。

しかし、株主が知りたいのはそれだけではありません。その配分が取締役会でどう検証されたのか、異論や留保はなかったのか。この点は、執行に携わらない立場からしか答えられません。

改訂版コードも、独立社外取締役が自ら株主との対話を行うことなどを通じて、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に反映させるよう努めることを求めています。

事例集にも、社外取締役と投資家との対話を、CEOやCOOが臨む場合とは分けて設定している例が載っています。監督する側としてどう見ているか、という観点での対話です。

株主に対して成長の道筋と配分を説明するのは、経営陣です。

社外取締役が株主との対話で受け止めた問題意識は、取締役会に持ち帰られます。経営陣が取締役会でそれを問われて説明を組み直すのか、次の対話の席で株主から直接指摘されるのか。

経営陣が来年の対話でどこまで説明できるかは、この違いから変わってくると思います。


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アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタル・オンラインに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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