こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
日本テレビが2025年6月26日、外部委員会の設置を明らかにしました。
国分太一によるコンプライアンス上の問題行為と
ことの発端は、タレントの国分太一氏について、過去のコンプライアンス上の問題行為が複数合ったことを確認したとして、番組「ザ!鉄腕!DASH!!」からの鋼板を決定したことを、日本テレビが2025年6月20日に公表したことです。
なお、日本テレビは、社長による記者会見まで行ったものの、「プライバシーの保護」を理由に、国分氏の「コンプライアンス上の問題行為」の具体的内容については何ら明らかにしませんでした。
「コンプライアンス上の問題行為」の被害者(?)のプライバシーに配慮することは理解できます。
しかし、「コンプライアンス上の問題行為」という漠たる公表内容に留まったことが、国分氏が行ったことがパワハラなのかセクハラなのかそれとも他の問題なのかなど余計な憶測を生んだり、国分氏の過去の言動について複数のメディアが掘り起こすなどに繋がっています。
少なくとも、パワハラなのかセクハラなのかそれとも他の問題なのか、ある程度のジャンルに絞れる程度の情報を流さなければ、何も説明していないに等しいです。
これでは、日本テレビに対して株主・投資家、CMを出稿する取引先、制作会社などの取引先、顧客である視聴者、関心を抱く世の中の人たち、従業員は、何を信じたら良いのかすら判断できません。
結果、「日本テレビは適切な対応をした」などの判断すらできず、日本テレビに対する信頼・信用を抱くことさえできません。危機管理広報上、適切は言えないように思います。
外部委員会を設置した目的
外部委員会によって何を行うのか?
日本テレビは外部委員会を設置した目的について、「様々な知見を有する有識者から評価・意見をいただき、今後のガバナンス強化等につなげるため」と説明しました。
より具体的には、「本事案の覚知から公表・会見に至るまでの会社としての対応等について、人権擁護や国民の知る権利とそれにこたえるテレビ局の説明責任の観点から評価し、ご意見をいただきます。併せて、弊社が今後一層ガバナンスを強化し、コンプライアンスの徹底や人権の尊重に配慮しながら、事業を進めていくための視座・助言なども示していただくことにしています。」としています。
危機管理の妥当性・適切性の検証
「本事案の覚知から公表・会見に至るまでの会社としての対応等」「人権擁護」とした部分は、社内の危機管理の妥当性・適切性についての検証という意味だと理解できます。
フジテレビのケースでは、中居正広氏による性加害(?)について代表取締役社長にまで報告があがったにもかかわらず、その後調査も対応もしなかったことが、「ビジネスと人権」の問題とガバナンス上の問題として批判されました。
日本テレビのケースは、事案を知ってから社内調査し公表・会見にまで至っているので、フジテレビとの対比だけでいえば「ビジネスと人権」やガバナンス上の問題はないように見えます。
危機管理広報の妥当性・適切性の検証
「人権擁護や国民の知る権利とそれにこたえるテレビ局の説明責任の観点」とした部分は、危機管理広報の妥当性・適切性の検証という意味だと理解できます。
被害者(?)の「プライバシーの保護」と、信頼の回復のために具体的な情報を提供しなければならない必要性の狭間にあって、日本テレビは「コンプライアンス上の問題行為」とだけ明らかにすることを選択しました。
フジテレビのケースでは、週刊文春の報道などもあり、被害者の特定と中居正広氏による性加害などが先行して起きてしまいました。また、複数回行った会見では「女性アナウンサー」ということまで明らかにしてしまいました。
フジテレビとの対比でいえば、こうした特定が起きないようにするために、情報をなるべく出さないことは妥当性なようにも思えます。
他方で、危機管理広報の目的としての信頼の回復、企業価値の維持・向上という観点からは、情報を出さなさすぎという印象は否めません。
これが妥当・適切だったのかという検証です。
仮に、これで外部委員会が不当・不適切との評価を下した場合、日本テレビは再度公表し直すのでしょうか?
日本テレビは現在人選を進めているとのことですが、「憲法学や企業ガバナンスなどに詳しい複数の専門家」を対象として、危機管理広報に詳しい専門家を念頭に置いていない時点で、ある程度、お察しです。
株主代表訴訟対策?
フジテレビのケースでは、事後対応の不適切さによりCM出稿が停止になるなどの損害が発生したとして、旧経営陣15人に総額233億円の損害賠償を求める株主代表訴訟が提起されています。
この訴訟では、事後対応(危機管理)の不適切さ、ガバナンスが機能していたかなどが争点になることが予想できます。
日本テレビが今回、外部委員会を設置し、自らの危機管理や危機管理広報の妥当性・適切性を事後検証することの狙いも、こうした株主代表訴訟が提起されることを想定したようにも思えます。
とはいえ、事後検証をによって妥当性・適切性があると判断された場合はいいですが、そうではなく、仮に妥当性・適切性を欠くと判断された場合、日本テレビの取締役らはその後、損害賠償責任を担う、あるいは代表訴訟を受け入れる覚悟があるのでしょうか?
そうであるにもかかわらず、事後検証をしているなら、外部委員会は結論ありき、ということにもなります。
どういう狙いなのかがよくわかりません。