香港投資ファンドのオアシス・マネジメントが「より強い花王」と題する声明を公表し、経営戦略を提言。コーポレートガバナンス・コードが定める「株主との対話」はどうあるべきか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年4月1日、香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントが、「より強い花王」に関するオアシスの声明を公表し、専用のウエブサイト「より強い花王」まで開設し、今後の経営政略を提言しました。

花王は3月22日に定時株主総会を終えたばかりであったので、おそらく寝耳に水のことだったでしょう。

オアシスが「より強い花王」として提言する項目

オアシスが「より強い花王」として提言する項目は、

  1. 主要な化粧品およびスキンケアブランドの国際的な成長に重点を置く
  2. グローバルな経験を有する最高マーケティング責任者(CMO)または同等の人材を直ちに起用し、マーケティングに対する同社のアプローチの変革を行う
  3. ブランディングおよびマーケティングの経験を有する社外取締役を任命する
  4. 低採算のブランドおよび SKU を削減する
  5. 情報開示の透明性を向上させる
https://www.abetterkao.com/wp-content/uploads/Statement-by-Oasis-on-_A-Better-Kao_-JPN.pdf

の5点です。

オアシスの「より強い花王」のサイトを見て知ったのですが、モルトンブラウンって花王のブランドだったのですね。

タバコアブソリュート(EDT)の葉巻の香りが好きで愛用していたけれど、花王とは知りませんでした。

なお、モルトンブラウンは「沼る」と全部揃えたくなります。

花王は今でも十分に優良企業だとは思いますが、「沼る」人を増やして、伸びる可能性を秘めているという意味では、オアシス・マネジメントが

花王は素晴らしい資産、優れた技術、魅力的なブランドを持ち合わせており、すべてのステークホルダーに資する優良企業になるポテンシャルがあります。今こそ、花王がそのポテンシャルを発揮させ、より強い花王を実現させるときです。

https://www.abetterkao.com/ja/

と言っていることも理解できます。

花王の反対意見

オアシスの提言に対して、花王は、4月4日に「当社株主による主張について」と題するリリースを公表しました。

リリースでは、まず、「2023年度決算で示した積極的なポートフォリオ管理と構造改革について、十分な理解がされていません」との反対意見を示し、かつ、「中期経営計画「K27」の戦略を遂行」していく決意を表明しました。

他方で、反対意見を表明するだけではなく、同時に「当社の価値提案を強化し優れたリターンをもたらすために、オアシス・マネジメント及びすべての株主との直接かつ建設的に関わり、また、課題を解決するための新たな視点を歓迎します」と、株主・投資家からの提案を歓迎する姿勢を示しました。

これによって、現任取締役は独り善がりな経営判断をしているのではなく、会社のオーナーである株主・投資家の意見を反映しながら企業価値を一緒に向上させていこうとする経営陣の姿勢を見せられています。

短いながらも、よく考えられた良いリリースです。

話しはズレますが、花王のサイトは、どこになんの情報があるかわかりにくい。

「K27」と呼ばれる中期経営計画がどこにあるのかと思ったら、「2023年度決算説明会」の資料の一部(23ページ以下)に綴じ込まれていました。

色々なところで引用する計画なのだから、独立した資料(ファイル)にしたらいいのに(「K25」は独立した資料になっている)。

この点も、オアシスが提言する項目5(情報開示の透明性向上)に関連するといったら関連するかもしれません。

コーポレートガバナンス・コード「株主との対話」に求められる程度

オアシス・マネジメントの提言に対する花王の反対意見を見て感じたのは、コーポレートガバナンス・コードが求める「株主との対話」の基本原則に照らして、花王の対応は十分と言えるのか、です。

コーポレートガバナンス・コードに基づく一般的な対応

コーポレートガバナンス・コードは、【基本原則5】において、

上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf

と定め、かつ、派生原則として「株主との建設的な対話に関する方針」「経営戦略や経営計画の策定・公表」を定め、補充原則も定めています。

花王は、これらの原則に基づいて、コーポレートガバナンス・ポリシーの5(2)に「株主等との建設的な対話と情報開示の充実」を定め、かつ、毎年のコーポレートガバナンス報告書にて実施状況(Ⅲ2.「IRに関する活動状況」。15ページ)を開示しています。

機関投資家との関係では、コーポレートガバナンス・ポリシーに、以下のように定めています。

機関投資家との対話に関する取り組みについては、国内外の機関投資家との日常のミーティング対応のほか、経営戦略等の概略・進捗、業績や事業の状況及び株主還元等に関する説明会等を行います。企業価値向上に向けた⾧期的な視点での対話ができる機関投資家と直接の対話の機会を持ち、対話結果の経営や経営の監督・監査への反映を容易にするため、できる限り社⾧執行役員をはじめ役員が参加します。

上記の説明会等の際の質疑内容や機関投資家から寄せられた意見等は、必要に応じて取締役会や執行役員会又は監査役会に報告し、当社グループの今後の経営や経営の監督・監査に活かします。

https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/policies/pdf/governance-policy.pdf

内容は同じではないにしても、このような方針の策定は、花王に限らず、上場会社ならどこも行っていることでしょう。

内容的には、これで十分だと思います。

機関投資家への対応

気になったのは、今回の花王の対応です。

株主の株主である機関投資家のオアシスは、あえて、「より強い花王」と題する声明を公表し、専用のウエブサイトまで開設して今後の経営戦略への提言を表明しました。

IR担当者が投資家と行っている「日常のミーティング」の状況とは明らかに違うはずです。

コーポレートガバナンス・ポリシーに「企業価値向上に向けた⾧期的な視点での対話ができる機関投資家と直接の対話の機会を持ち、対話結果の経営や経営の監督・監査への反映を容易にするため、できる限り社⾧執行役員をはじめ役員が参加します。」と定めている以上は、今回のような場合、花王の社長執行役員をはじめ役員が参加して、機関投資家であるオアシスと緊急にでも意見交換を含めた直接の対話を行い、オアシスの理解不足を解き、あるいは意見が決裂してから反対意見を公表する、他の株主・投資家からの提言も歓迎する姿勢を示す、といった手順を踏むべきではなかったかと思います。

コーポレートガバナンス・コードが求める「株主との対話」を形式的なものに留めるのではなく、実を伴ったものにするなら、定期的な説明会の開催などに留まらず、「対話」が必要なシチュエーションでこそ意見交換を含めた直接の対話をすべきなのではないでしょうか。

もしかしたら報道などで表に出ていないだけで、花王が反対意見を公表するまでに、裏では花王の役員とオアシスとの間でミーティングをしていたら申し訳ありません。

その場合は一般論として、上場会社と「株主との対話」とのあるべき姿論としてご理解ください。

もちろん、これが総会屋など株主権を濫用する者や、乗っ取りを企画する者、グリーンメーラーからの面会要求や株主提案であればガン無視して構いません。

しかし、今回はスチュワードシップ・コードを踏まえた機関投資家からの経営戦略への提言だったので、かつての総会屋などとの対応とは違うはずです。

お互いがウエブサイトに意見を表明し合う「空中戦」は、メディアやSNSでの格好のネタになり、レピュテーションが下がる(株価にも影響する)だけなので、その意味でも止めた方がいいと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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