三幸製菓荒川工場で2022年2月に起きた火災事故で業務上過失致死傷罪で書類送検され、代表取締役CEOが退任。経営者が責任を取るべきタイミングは。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

三幸製菓は、2024年3月22日に、佐藤元保代表取締役CEOが退任し4月1日付けで交代することを公表しました。

退任の理由となったのは、三幸製菓が、2022年2月11日に荒川工場内で煎餅のかけらを発火させるなどし、従業員の男女6人を焼死させ、1人に一酸化炭素中毒の傷害を負わせる火災事故を起こしたことです。

2年以上前の事故であったにもかかわらず、このタイミングで退任することになったのは、2024年2月2日に佐藤元保氏ら4名が業務上過失致死傷罪で書類送検され、また、三幸製菓と佐藤元保氏は労安衛法違反でも書類送検されたことが影響しているのだろう、と思います。

今回は、この退任についてのあれこれ、です。

退任する「CEO」と後任の「社長」の役職名の違い

リリースによると、現在の佐藤元保氏の役職名は「代表取締役CEO(最高経営責任者)」であるのに対し、後任の山下仁氏の役職名は「代表取締役社長」であり「CEO」ではありません。

三幸製菓は非上場会社であり、その株式のすべてを不動産等資産管理会社である三幸製菓グループ株式会社(代表取締役は佐藤元保氏)が保有し、かつ、三幸製菓グループ株式会社の株式のすべてを資産管理会社である株式会社サトカメ(代表取締役は佐藤元保氏)が保有しています。

佐藤元保氏が三幸製菓の「代表取締役」を退任した後も、三幸製菓の「経営」に対して「最高」の影響力を有し続けていることは容易に想像できます。

それ故に、後任の山下氏の役職名は、三幸製菓という会社のトップ(長)を意味する「社長」ではあっても「最高」「経営」責任者を意味する「CEO」ではないのでしょう。

三幸製菓に限らず、役職名などの肩書きは会社の実態を対外的に示す広報の要素を含んでいます。

法律上の地位以外に会社独自の役職名や肩書きをつける場合には、その役職名や肩書きをつけることによって社外にどのような情報を発信したいのか、目的や狙いを定め、「なんとなく雰囲気が格好いいから」というのは止めましょう。

経営者が退任すべきタイミング

さて、三幸製菓が2022年2月11日に火災事故を起こしてから、佐藤氏が三幸製菓の代表取締役CEOを退任するまでに、2年かかりました。

退任の理由について、以下のように、安全な職場環境と体制の構築・整備、経営体制の整備、供給責任の目処が立ったことなどを挙げています。

火災事故発生以来、事故を起こした会社の代表として、二度とこのような事故を起こさぬよう、従業員が安心して働ける安全な職場環境と体制を構築・整備することこそが私の責務であると決心し、これまで取り組んでまいりました。現在では、再発防止策を全ての生産拠点において実施・継続できる体制の構築ができたと考えております。また、社内外から広く意見を集約し協議できる経営体制を整備するとともに、今後の供給責任について一定の目途が立ちました。これらを総合的に勘案し、この機を一区切りとして、職を辞すという考えに至りました。新たな体制に移行しましても会社一丸となって再発防止策を徹底し、安全に対す
る取り組みが継続されることと思います。

https://www.sanko-seika.co.jp/wp-content/uploads/2024/03/73c12776451d5cad01904fd04b8dde2e.pdf

一見もっともらしく思えます。

これが、代表取締役が交代した直後に前任や過去の代表取締役や経営陣の不正や不祥事が発覚した場合なら、新しい代表取締役に交代したからこそ前任や過去の不正・不祥事が露わになったのであり、新しい代表取締役こそがそのままトップであり続け、新しい体制の構築や整備をするのが望ましく、また不正・不祥事との決別にも期待ができます

例えば、2011年4月1日にマイケル・ウッドフォード氏がオリンパスの社長に就任するや過去の損失隠しのための粉飾を暴いたケースでは、むしろ、マイケル・ウッドフォード氏がそのまま社長であることが望ましいケースでした(ところが、2011年10月14日にマイケル・ウッドフォード氏は電撃解任され、菊川会長(当時)が社長兼任で復帰することになりました。2017年には代表訴訟によって菊川氏ら3名に対し粉飾の責任として594億円の賠償を命じる判決が出ています)。

マイケル・ウッドフォード氏の著書「解任」に詳細が載っています。

しかし、三幸製菓のケースは、マイケル・ウッドフォード氏がオリンパスの過去の不正を暴いたケースとは違います。

2022年に火災事故を起こし死傷者を生じさせた時点の代表取締役である佐藤氏は、それまでに火災事故を予防できる体制を構築できるのに構築していなかったから、火災事故を起こしたのです。

三幸製菓の荒川工場は2019年までに8回火災を起こし、2019年には新崎工場でも火災事故を起こし、2020年には消防の立入検査によって消火器の設置場所不良、火災報知機の作動不良、避難誘導灯の作動不良などの不備を指摘されていました(2022年3月3日週刊文春)。

そうだとすれば、それまでに体制を構築・整備できていなかったトップがそのままトップであり続けて新たな体制を構築・整備しようとしても、実効性のある体制の構築や整備をすることは期待できず、また世の中の人たちへの説得力もありません。

むしろ、火災事故を起こした時点で代表取締役を退任して、新しい体制を構築・整備するのは後任の代表取締役に委ねるべきだったのではないでしょうか。

もちろん、これは突発的な事故や予期せぬ事故のときにまで経営トップがその責任をとって辞任することまでを求めているのではありません。

同種の事故が繰り返し発生しているのに、それでもなお防止するための体制を構築・整備できていなかった場合には、経営トップは責任を取るべきだという趣旨です。

なお、火災事故が発生した後の佐藤氏の危機管理広報の観点からの対応も不十分でした。

当時はリリースを自社サイトに掲載するのみで、佐藤氏は直後に記者会見を行うこともなく事故から3か月以上が経過してから初めて記者会見を行うなど、火災事故に積極的に向き合う姿勢を見ることはできませんでした。

危機管理広報の観点からの問題については、広報会議2022年5月号で原稿を書いていますので、良かったら読んでみてください(有料です)。

なぜ事故発生時点で責任を取らない経営トップが現れるのか

三幸製菓の佐藤氏やビッグモーターの兼重社長(当時)のように責任を取るタイミングが遅れる会社に共通するのは、社長や家族の資産管理会社が会社のオーナーである非上場会社であることと、会社の財務状態が良いということ、です。

会社のオーナーが社長自身や家族の資産管理会社である場合には、株主や投資家からの目線での牽制はそもそも存在せず、また「自分の会社」である意識が強く、日頃から社会への影響などを意識していない限り企業の社会的責任(CSR)の意識も芽生えにくいです。

三幸製菓の場合には、火災事故が起きたことで生産を停止した2022年9月期こそ売上高は前年度比50%以下まで減少しましたが、工場の稼動を再開した2023年9月期には売上高は大幅に回復しているので、生産ができてさえいれば顧客は離れないともいえ、消費者や取引先の期待に応えるために経営トップが責任をとる意識も低いでしょう。

強いて言うなら、メインバンクから貸し剥がしされる場合は取引先であるメインバンクからの期待に応えるためにという意識が生じるかもしれませんが、三幸製菓ほどの地場の有力企業になると、メインバンクもおいそれとは貸し剥がしなどしないので、経営トップがそうした危機感に芽生えることもないでしょう。

強いて言えば、従業員離れが起きれば従業員の期待に応えるために経営トップが責任を取る可能性も期待できますが、しかし、三幸製菓のように地場の有力企業である場合には従業員離れも起きないので、従業員の期待に応えるために経営トップが責任を取るという意識も同様に生じにくいと考えられます。

ビッグモーターの社長が退任することになったきっかけは、取引先である損害保険会社各社やビッグモーターに対して金融庁からの検査が行われたことです。

三幸製菓の代表取締役CEOが退任するきっかけも、警察による業務上過失致死傷罪での書類送検や労働基準監督署による労安衛法違反での書類送検があったからだ、と考えられます。

どちらも結果的に責任を取らざるえをえない状況に追い込まれただけ、と言えるかもしれません。

非上場会社で、かつ、自分や家族の資産管理会社がオーナーであっても、いざというときには自らを律して責任をとれる、そんな経営トップが現れることを期待します。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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