日本製麻の前社長が取締役を辞任。大株主兼取締役会長を務めるゴーゴーカレーに株式を買い付けさせたインサイダー取引の疑い。事案の本質と再発防止策に必要な視点。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

日本最古のパスタメーカーでもある日本製麻の宮森前社長が、2024年2月21日付けで取締役を辞任しました。

ゴーゴーカレーに株式を取得させたインサイダー取引疑惑

きっかけは、宮森氏が、ゴーゴーカレーグループ(以下、ゴーゴーカレー)に日本製麻の株式を買い付けさせたインサイダー取引疑惑です。

宮森氏は、ゴーゴーカレーと日本製麻との3月10日付け合意に基づき、2023年4月6日に日本製麻の取締役に選任され、かつ、代表取締役に就任し、2023年8月21日に解職されるまで日本製麻の代表取締役社長でした。また、宮森氏は、ゴーゴーカレーの創業者・支配株主であり、取締役会長でもあります。

そうであるところ、2023年7月3日から解職当日の8月21日にかけて、ゴーゴーカレーが日本製麻の株式を取得しました。

この結果、EDINETで確認する限り、ゴーゴーカレーは、2023年8月28日時点で日本製麻の発行済み株式のうち19.24%を保有することになりました(ファンドを抜いて筆頭株主に?)。

日本製麻の特別調査委員会は、2023年7月19日の臨時取締役会の翌7月20日から8月21日までに株式を取得したことについて、日本製麻の未公表の事実(半期や四半期決算情報の数値の変動の結果、通期の予想値に大きな変動が確定的に生じたとまではいえないものの、その見込が高い確度で生じた)をもとに宮森氏がゴーゴーカレーに株式を買い付けさせたもので、インサイダー取引の構成要件に該当する可能性があると判断しました。(2023年11月22日付け特別調査委員会調査報告書)。

インサイダー取引というよりも事案の本質は敵対的買収ではないか?

調査委員会が認めたインサイダー取引の動機・目的

調査報告書は、その動機・目的について、次のように認定しています。

X社(※ゴーゴーカレー)は、2022 年~2023 年 3 月までの期間、当社(※日本製麻)に対し、企業価値向上策として当社設備投資の必要性及び費用確保のため第三者割当増資を行い、X社が引受先となることを提案し、当社から拒絶されると、経営陣交代を迫るための臨時株主総会招集請求を行い、X社・当社間で経営陣交代等の合意に至り、2023 年 4 月、対象取締役(※宮森氏)は当社代表取締役社長に就任した。そうすると、X社は、当社経営権取得等の目的達成のために当社株式を取得する動機があり

(中略)

当社では、2023 年7 月頃、同月19 日の臨時取締役会に先だって、監査等委員会から当社取締役会議長交代の議案が提出されるなど、対象取締役の当社における立場は揺らいでいた。そのような最中、X社は、翌7 月20 日から当社株式取得を再開していることからすれば、X社・対象取締役による当社の支配体制を維持強化することを目的による株式取得であること、すなわち、2023 年7 月20 日の株式取得再開及びそれ以降の株式取得は、対象取締役の指示によるものである可能性が高い。

調査報告書第2.2(2)

「経営権取得の目的」「支配体制を維持強化することを目的」とあるように、敵対的買収と目的は同じであるように思えます。

事案の本質は敵対的買収

一般的にインサイダー取引は、未公表の事実をもとに株価その他有価証券の価値が変動する前に株式その他有価証券を売買し、直接に金銭的な利益を得たり、損失を回避するために行われます。

しかし、今回は、宮森氏がインサイダー取引によって金銭的な利益を得たり、損失を回避することが直接の動機・目的ではなく、ゴーゴーカレーの日本製麻に対する持株比率を増やして、宮森氏・ゴーゴーカレーによる「支配体制の維持強化」が動機・目的です。

「半期や四半期決算情報の数値の変動の結果、通期の予想値に大きな変動が確定的に生じたとまではいえないものの、その見込が高い確度で生じた」との重要事実(インサイダー情報)が公表されれば日本製麻の株価が上がり、ゴーゴーカレーが日本製麻の株式を取得するために必要なコストは余計にかかります。

ところが、株価が上がる前に株式を取得してしまえば、コストを節約しながら「支配体制の維持強化」との動機・目的を達成することができます。

コストを削減でき、かつ、株式の保有割合を増やして、「支配体制の維持強化」の目的・動機も達成できる。

言わば、敵対的買収という目的のために、手段としてインサイダー取引が行われたにすぎない、と理解することもできるケースです。

果たして、日本製麻は、調査報告書を受けて、2023年11月29日に宮森氏に取締役辞任勧告を取締役会で決議しました。

ゴーゴーカレーはこれに対して、特別調査委員会の独立性・中立性の欠如、調査方法の不合理性を主張する声明を発表するなど抵抗しましたが、最終的には、日本製麻と宮森氏とが協議を重ねた末、今回の取締役からの辞任に至りました。

日本製麻は、宮森氏とゴーゴーカレーによるインサイダー取引疑惑というミスがあったが故に、結果的に、敵対的買収を防衛することができました。

とはいえ、依然としてゴーゴーカレーは日本製麻の株式を継続して保有しているので、いつでも取締役に戻ってくる可能性は残ります。

必要な再発防止策はインサイダー取引規制よりも買収防衛策の強化では

調査報告書が「上場会社役員としての法令遵守意識の欠如」「上場会社役員の資質に欠いている」「内部情報管理体制の不備」を原因として指摘したことを踏まえ、日本製麻は「内部者取引管理規程の改訂」「役職員向け研修の実施」を再発防止策として掲げました。

ただ、これが再発防止策として機能するかと言えば半信半疑です。

調査報告書に「経営権取得の目的」「支配体制の維持強化の目的」とあるように、今回のケースの本質は、ゴーゴーカレーと宮森氏による日本製麻への敵対的買収と理解することもできます。

2023年4月に取締役に選任され代表取締役に就任し、自己が取締役会議長から交代されそうになるや株式の保有割合を増加させようと考えて実行した者に対して、インサイダー取引規制の強化やコンプライアンス意識を植えつけようとしても、端からそこに関心がないとすれば、その再発防止策では効果があるようには思えません。

むしろ、今回の再発防止策として必要なのは、手段を封じるという意味でインサイダー取引規制をすることや教育することはもちろんのこと、

  • そもそも取締役を送り込めないようにすべく任意の指名委員会を設置し(現在はないようなので)、その人選にある程度の拘束力を持たせること
  • 日本製麻の株式を保有する者・保有する法人の役員は、日本製麻の取締役候補者となる資格がないようにすること(法的に拘束力はなくても任意の指名委員会を設置し、その中の基準とすることはできるのでは~)
  • そもそも現在導入している敵対的買収防衛策を見直して、今後類似の事象が生じそうになったときに発動できるように条件を緩やかにしておくこととホワイトナイト候補を探しておくこと

なのではないでしょうか。

しばらくは、日本製麻対ゴーゴーカレーグループの進捗状況を外から注目していようと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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