ウクライナがDMG森精機の子会社を「戦争支援企業」に指定。事業撤退時のガバナンスとして、在庫の把握・管理の重要性を理解する。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年9月28日、ウクライナがDMG森精機のドイツにある子会社を、ロシアの軍事関連企業への製品供給が続いていたことを理由に「戦争支援企業」に指定しました。

これに対し、DMG森精機は、9月29日に、2022年2月24日以降、ロシアに対して機械や部品を供給していないことなどを内容とする声明を自社サイトに掲載しました。

ロシアによるウクライナ侵攻後のDMG森精機の対応

DMG森精機は、2022年3月3日に受注機のロシアへの出荷停止、組立工場での生産中止を公表し、また2022年6月9日には朝日新聞のインタビューで組立工場を閉鎖し従業員約200人を解雇したことを明らかにしています。

日系大手メーカーの中で最も早くロシアから撤退する意思決定をしたこともあり、DMG森精機が、日頃から、企業の社会的責任(CSR)を意識しているとの印象を与える経営判断でした。

2022年3月3日のリリースにも、一日も早い紛争解決と平和な生活へも言及されており、DMG森精機が、人権や平和を強く意識している企業であることがわかります。

なぜ戦争支援企業に指定されてしまったのか

DMG森精機が推察する原因

人権や平和への意識が高い企業であるにもかかわらず、なぜ、DMG森精機のドイツ子会社は「戦争支援企業」に指定されてしまったのでしょうか。

DMG森精機は、今回のリリースでは、その原因について

現時点では、2022 年春の生産停止後、ロシアによるウクライナ侵攻開始前からロシア国内に存在した機械が、適切な担当者への通知または同意を経ずにロシア国内の DMG MORI の拠点から出荷された可能性が高いと思われます。

と推察しています。

よくある産業スパイのパターンとは違う

日本メーカーの機械製品が外国で軍事転用されてしまうパターンとしては、

  1. 海外の産業スパイがスパイであることを秘して日本メーカーに取引を持ち掛け、
  2. 取引に応じた日本メーカーが無関係な第三国にいったん輸出した後、
  3. 海外の産業スパイが第三国から自国に転売(転々)し、日本の輸出管理規制を逃れる

という「不正調達」の例があります。

このパターンの過去の実例については、以前説明しましたので、そちらをご覧下さい。

DMG森精機が推察する上記原因をみる限り、今回のケースは、こうした産業スパイによる「不正調達」の事例とは違うようです。

本当の問題点はグローバル・ガバナンス

DMG森精機が推察した原因どおりだとすれば、今回のケースは「撤退時のガバナンスが機能していなかったから発生した」と言い換えることができます。

「撤退時のガバナンス」というと漠然としているので、より具体的に推察すると、

  • 製品がロシア国内に散在し、所在の把握・管理ができていない(在庫管理≒棚卸し)
  • 3月に撤退を決めたときに、ロシア国内の未出荷の製品を引き揚げられていなかった(資産・財産の管理)
  • 3月に撤退を決めた方針が、ロシアの現場の末端まで適切に届いていなかった(情報の伝達)
  • 3月に撤退を決めた方針が、ロシアの現場の末端が理解していなかった(ガバナンスの浸透)
  • ロシアの現場の末端にまで撤退の方針は届き、現場もその意味を理解していたけれど、現場/中間管理職が製品の出荷に関する手続を無視した(個の問題)
  • 現場に産業スパイが入り込んでいて、未出荷の製品をはじめから奪うつもりでいた

に分けられます。

さらに分類することもできますが、大筋こんなところではないではないかと思います。

このうちのどれなのかは今後、DMG森精機が「戦争支援企業」リストから外れるための対応をしていくうちに明らかになるでしょう。

産業スパイが入り込んでいたのであればどうしようもありませんが、それ以外は、会社としてガバナンスをより一層厳しくすることで対処できるはずです。

特に、事業撤退時には、散在し会社が把握・管理できていな在庫があり、かつ、それを引き揚げられていなかったたために、それを事業撤退時に従業員や取引先が業務上横領することは、頻繁に発生します。

製品の所在管理、在庫管理、引き揚げ未了のせいで会社が事業継続の危機を迎えるのは避けたいことです。

日頃からの製品の所在管理、在庫管理や事業撤退時の製品の引き揚げは整理整頓や財務の観点からだけではなく、事業継続に関する思わぬ危機の発生を防ぐためにも重要であることを理解してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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