ジャニーズ事務所が社名変更、補償後廃業、新会社設立を発表したけれど、廃業するなら社名を変更する必要ないのでは?その他新会社に関する疑問点+α

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

故・ジャニー喜多川氏による性加害疑惑を理由に、2023年10月2日、ジャニーズ事務所は、今後の方針として、

  • ジャニーズ事務所は17日付けで社名を変更する
  • ジャニーズ事務所の株式は創業家である前社長が100%保有し続ける
  • ジャニーズ事務所は被害者に対する補償が完了した後に廃業する
  • 1か月以内をめどに新会社を設立する
  • 新会社は役員と従業員が出資し、ジャニーズ事務所の前社長は関与しない
  • 新会社はエージェント事業とタレントのマネジメント育成を行う

などを公表しました。

理屈や狙いはわかるのですが、いくつか疑問点も残ります。なので、その点を今日はツラツラと・・。

ジャニーズ事務所と新会社設立

今回ジャニーズ事務所が発表した内容を実現するには、

  • 新会社を設立してから事業を譲渡するパターン
  • 新設分割してから新会社の株式を譲渡するパターン

が考えられます。

これを図解したのが以下のものです(詳細が公表されていないので想像の部分もあります)。

新会社設立後事業を譲渡するパターン

新会社を設立してからジャニーズ事務所の事業を譲渡するパターンでは、新会社は相応の譲渡対価をジャニーズ事務所に支払います。

新会社から得る譲渡対価は、被害を主張する人たちへの補償の財源となります。

新設分割によって新会社設立後、新会社の株式を譲渡するパターン

ジャニーズ事務所からの会社分割を利用して新設分割し、その後に株式譲渡するパターンは、次のような内容です。

新会社はジャニーズ事務所から会社分割によって設立し(新設分割)、分割した後に、ジャニーズ事務所が保有する新会社の株式を新しい株主となる企業やファンドに譲渡します。

新会社から得る株式の譲渡対価は、被害を主張する人たちへの補償の財源となります。

新会社を設立する目的

新会社を設立する目的は、現行のジャニーズ事務所を被害を主張する人たちへの補償に特化する会社にすることで、

  • 新会社は補償に関する負債を引き継がない
  • 現行のジャニーズ事務所とのCM契約を打ち切った取引先の人権に関する行動指針の問題をクリアできる
    • 新会社は人権侵害を行っていないから、取引先は人権侵害を理由として取引を拒絶する理由はなくなる

の2点だろうと思われます。

新会社を設立した後に事業譲渡するパターンなら、ジャニーズ事務所から従業員・タレントとの契約を移管し、ファンクラブなどの事業を譲り受けるために支払う譲渡対価が、被害を主張する人たちとの金銭的関わりの上限とすることができます。

新設分割後の株式譲渡のパターンなら、新しい株主が新会社の株式譲渡対価として支払う額が、被害を主張する人たちとの金銭的関わりの上限とすることができます。

いずれのパターンにせよ、新会社を設立することによって被害を主張する人たちとの関わりを絶ちやすくなります。

ジャニーズ事務所の株主を変更しない目的

ジャニーズ事務所の株主を前社長1人に100%保有させるなら、ジャニーズ事務所から新会社への事業譲渡の対価をいくらに設定するか/あるいはジャニーズ事務所から新しい株主に新会社の株式をいくらで譲渡するか、ジャニーズ事務所が譲渡対価として得た全額を被害を主張する人たちに厳格な事実認定なしに支払っても、ジャニーズ事務所の東山社長らが株主代表訴訟で訴えられるリスクはありません。

仮にジャニーズ事務所のまま事業を継続するとして新しい株主を入れたとしたら、厳格な事実認定なしに会社の資産を被害を主張する人たちに補償として支出することは、その支出の経営判断の合理性が問題になりえます。

すなわち、事実認定や因果関係がないのに補償を支払うことは企業価値を損ねる支出である、補償額の妥当性を検証しないことも企業価値を損ねる支出であるとして、取締役の善管注意義務違反が問題になってしまいかねません(少なくとも新しい株主にしてみれば、むやみに会社の財産が流出するのは防ぎたい)。

そうした問題をクリアするために、ジャニーズ事務所は株主を前社長1人のままとして補償に特化した会社にする、と理解することができます。

新会社設立に関する疑問

新会社を設立すること自体は手続上簡単です。

しかし、新会社を設立後に事業譲渡するパターンなら、新会社が相当額の譲渡対価を支払う必要があります。

ジャニーズ事務所の従業員・タレントの契約、ファンクラブなどの事業の対価ですから億単位の譲渡対価になることが予想されます。

この財源はどこなのでしょうか? 

新会社に譲渡対価に見合うだけの額を出資するファンドや企業の候補がいるのか、それとも新会社に譲渡対価に見合うだけの額を貸し付ける金融機関がいるのか・・・。

また、新設分割後にジャニーズ事務所から新会社の株式を新しい株主に譲渡するパターンでも、譲渡対価を支払うだけのファンドや企業が必要です。新しいスポンサー候補がいるのか・・。

2023年10月2日の会見では、マイクを使わない制御不能な記者が現れたようですが、せっかく貴重な時間を使って他のメディアの時間を奪うなら、こういう疑問点を解消する意味のある質問をして欲しかったです。

社名変更

根本的な疑問ですが、新会社を設立し、ジャニーズ事務所は補償が完了した後には廃業することを前提としているなら、ジャニーズ事務所から社名を変更する必要はあるのでしょうか。

補償が完了するまでどくれくらいの期間がかかるのかわかりませんが、その短い間でも、被害を主張する人たちがジャニーズ事務所という名前を聞くことが耐えられないであろうと心配したのでしょうか。

判例が出てから何年も放置していたのに、今から数か月間だけ社名を変更しても意味があるのでしょうか。狙いがよく理解できない配慮です。

CMを打ち切った各社の言動への疑問

ここからはプラスアルファです。(ニュースの番組名ではありません)

ジャニーズ事務所とのCM契約を打ち切った会社の意思決定が、各社の人権に関する行動指針によるものであろうことは先日記事として書きました。

その際、

  • 企業の社会的責任(CSR)、ESG、人権に関する行動指針に照らすと、ジャニーズ事務所とのCM契約を終了させるとの意思決定は筋が通っている
  • ただし、故・ジャニー喜多川氏による過去の性加害問題であるので、ジャニーズ事務所が故・ジャニー喜多川氏による性加害問題に真摯に向き合い、また再発防止のためのガバナンス体制を再構築したことが確認できるまでは、取引を終了させるという時限的な取引停止になるのではないか

とまとめました。

ただ、その後の報道を見ていると、CM契約を打ち切った会社やメディアの中には、前社長が株式を保有し続けていることがおかしい、役員構成がおかしいなど、その他諸々無茶なことを要請しているものもありました。

正直、これは取引先に対する要望としては、要請しすぎではないか?何の権限があってそこまで求めているのだろう?との疑問に感じるものもありました。

無茶な要請をしている会社は、CM以外の日常的な取引でも下請先・協力会社に対して無茶な要請をしている可能性があります。

そういう無茶な要請をしている会社は、日頃から、優越的地位の濫用、または下請法違反的な言動をしているのだろうな、とニュースを見ながら感じました。

日頃の態度、その会社の本音は、こういう弱っている会社に対する言動に現れます。

周囲の会社は、ジャニーズ事務所だけでなく、ジャニーズ事務所に対して厳しいことを言っている企業の言動も見ておくと、その会社の本質・企業風土がわかっていいのではないかと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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