オーケーが競合店に対抗して商品の販売価格を値下げした額分を納入業者に負担させていたことについて、公正取引委員会が優越的地位の濫用の観点から調査を実施。オーケーは自発的に取りやめる対応。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年8月10日に、公正取引委員会が優越的地位の濫用に関する公表をしました。

スーパーマーケットのオーケーが、『万一、他店より高い商品がございましたら、お知らせください。値下げします。』のポスターや『競合店に対抗して値下げしました。』のPOPを掲げ、競合店に対抗して商品の販売価格を値下げした額の全部または一部を、納入業者に負担させていたことについて、公正取引委員会が優越的地位の濫用の観点から調査を開始したところ、オーケーが自発的に取りやめたので公正取引委員会はこれ以上の対応をしない、とする内容です。

これを受けて、オーケーも公式サイトに今後の対応をやめるとの見解を公表しました。

スーパーマーケットの優越的地位の濫用の特例

優越的地位の濫用については、公正取引委員会が公表している「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」がすべての業種に適用されるほか、前事業年度の売上高が100億円を超えるスーパーマーケットなどの大規模小売業者の場合には「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」が特例として適用されます。

オーケーの2023年3月期の売上高は約5524億円に達するので、大規模小売業者の特例が適用されます。

公正取引委員会が今回調査しようとした競合店に対抗して商品の販売価格を値引きした額分を納入業者に負担させていたことは、特例が定める「(商品購入後の)不当な値引き」あるいは「不当な経済上の利益の提供(収受)」に該当するおそれがあります。

仕入れた商品を店頭では値引きして販売したことを理由に、当該仕入れ商品の購入価格を事後的に値引くことが「不当な値引き」で、当該仕入れ商品の購入価格はそのままだけれど次の仕入れ時に同じ商品の値引きを求めたり、リベートなどの名目で利益を提供させたりすることが「不当な経済上の利益の提供」です。

下請法に該当するおそれ

オーケーのように小売業者が納入業者や下請先に商品価格の値下げ分を負担させるケースは、優越的地位の濫用にならない場合でも、下請法違反で問題になることが多々あります。

企業危機管理としての対応

オーケーに関して公正取引委員会が公表した資料からは、最近の公正取引委員会の優越的地位の濫用に対する動向と、調査の対象とされた企業側のあるべき動向を学ぶことができます。

公正取引委員会の優越的地位の濫用に対する動向

公正取引委員会の公表資料には、

公正取引委員会は、原材料価格等の高騰を踏まえた価格転嫁の円滑化に向けた独占
禁止法執行の強化活動の一環として、大規模小売業者と納入業者との取引適正化のた
め、取引実態について情報収集を積極的に行っている
ところ、オーケー株式会社(以
下「オーケー」という。)が、納入業者との価格交渉に当たり、納入業者に対し、競
合店対抗値下げ補填の要請を行っているとの情報に接した。

と記載されています。

これは、公正取引委員会が優越的地位の濫用と下請法違反について積極的に情報収集を行っていることを意味します。

実際、公正取引委員会は、「令和5年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を公表し、令和5年度において、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関して、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の価格転嫁が適切に行われているかなどを把握するための更なる調査として特別調査を実施しています。

また、違反行為に関する情報提供も積極的に受け付けているので、弱い立場にたつ企業が積極的に情報を提供していくことも見込まれます。まだまだ情報提供フォームの認知度が低いので、そこまで活用されていないかもしれませんが、今後認知度が高まるにつれて、フォームからの情報提供が増加していくことは容易に予想がつきます。

企業としての対応

優越的地位に立つ側や下請法が適用される親事業者となる側の企業は、公正取引委員会からの処分等を予防するために、これまで以上に、優越的地位の濫用や下請法を意識して、慎重に取引を行う必要があります。

その前提として、現場の営業職・営業部門には、優越的地位の濫用や下請法に関する研修・教育を繰り返し行って下さい。一度研修・教育をしても、上から売上のノルマを課せられ、また日々の営業活動でいっぱいいっぱいになると、いつの間にか優越的地位の濫用や下請法の問題が頭から抜けてしまうことがあるからです。繰り返し、繰り返し行うことで、脳裏に焼き付けることが不可欠です。

また、オーケーのように公正取引委員会からの調査が開始されたときには、正直に対応することが必要です。

調査には協力し、非があれば認めて原因を究明し再発防止に力を注ぐ、非がないなら公正取引委員会に理解してもらうようにするのが、コンプライアンスやガバナンスの観点からのあるべき姿です。

優越的地位の濫用が認められると課徴金納付を命じられるおそれもあるので、公正取引委員会による調査が始まったら処分を受けないように手を尽くすのが、企業価値の低下を防ぐための取締役の善管注意義務でもあります。

今回のオーケーのように、公正取引委員会からの処分を免れたとしても、自社の今後の取り組みについて自社サイトに公表することも危機管理広報として望ましい対応です(今回の場合は公正取引委員会からの公表が先行したという事情もあるでしょう)。

公正取引委員会から調査を受けたことでさえ取引先からの信頼を回復するために有効活用することは、企業危機管理の一つの戦略であるように思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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