東京電力福島第一原発のALPS処理水を海洋放出へ。なぜ科学的真実を広報しても理解してもらえないのか?危機管理広報の観点から考える

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

東京電力HDは、2023年8月24日以降、福島第一原発のALPS処理水を海洋放出することを明らかにしました。

政治的なスタンスから国内外からALPS処理水の放出に懐疑的な声も挙がり、また、政治的に中立な人からも不安の声が挙がっているようです。

ALPS処理水に関する積極的な情報発信

政府(経産省)や東京電力HDは、政治的に中立な人の一人でも多くに不安を払拭してもらうために広報活動を積極的に行っています。危機管理広報です。

経産省は、廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイトに加えて、ALPS処理水に特化したサイトを開設し科学的根拠に基づく情報を提供しています。

東京電力HDも、福島第一原発の廃炉事業についての取り組みを解説するサイトの他、ALPS処理水への取り組みを解説した処理水ポータルサイトで情報を提供しています。

情報を提供する側は親切のために次々とサイトやページを更新しているのでしょう。

しかし、情報を見る側からすると、色んなサイトがあり、どこが最新の情報で、どこを見れば最も信頼できるのかがわかりにくくなっています。

危機管理広報の基本は情報発信源の一本化です。

2011年の東日本大震災が発生した直後に、情報発信源が複数に分かれていたために、被災者・視聴者がどこの情報が最新のもので、誰が言っていることを信じればいいのかがわからず、混乱したときと同じ様相を呈しています。

一応、経産省のALPS処理水に特化したサイトには、経産省のポータルサイトと東京電力HDの処理水ポータルサイトへのリンクが貼ってあるので、情報発信源の一本化への意識はあるようです。

民間と政府(経産省)の違いはあるのかもしれませんが、情報発信源を一本化できるように調整できなかったのかなと少し残念です。

結果的に、経産省、東京電力HDの各サイトよりも、NHKのサイトのほうが情報がわかりやすい印象を受けました。

情報の伝え方

経産省、東京電力HD、NHKの各サイトでも、ALPS処理水の安全性を科学的根拠に基づいて説明し、人体への影響などにも触れ、世の中の人たちの不安を払拭するように試みています。

しかし、それでも、不安を払拭しきれないのは、情報の出し方がわかりにくいからです。

例えば、経産省のALPS処理水ポータルサイトでは、

  • 薄めた後のトリチウムの濃度は、国の定めた安全基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)未満になります
  • 日頃から近海の魚を多く食べる場合を想定するなど、国際的な方法に基づいて海洋放出による人体への影響を評価したところ、日常受けている放射線(自然放射線)からの影響と比べ約100万分の1から7万分の1と、影響が極めて小さいことが確認されており、近海でとれる魚に安全上の問題はありません

などと記載されています。

事実としては間違いないでしょう。

でも、安全規準の40分の1、飲料水基準の約7分の1がどういうことを意味するのか。自然放射線からの影響と比べて約100万分の1から7万分の1がどういうことを意味するのか。情報を見る人にはイメージが湧きません。

例えば、環境省は、自然からの被曝線量についての資料を作成しています。

このような感じで、自然にある食材の中のトリチウムやその他の放射線の量と、ALPS処理水に含まれるトリチウムその他の放射線量などを比較すると、わかりやすくなるはずです。

これは、今回のケースに限らず土壌汚染や水質汚染の場合にも参考になる情報発信の方法です。

危機管理広報は情報を受け取る側の視点で情報を発信するように

危機管理広報としての情報を発信するときには、どうしても発信する側の目線で、あれも、これもと手を広げがちです。

正確性や専門性を追求するのはよいですが、情報を受け取る側は専門家ではありません。

小学6年〜中学2年くらいの学力が中くらいのレベルの子が読んでわかるような想定で情報発信をすると、危機管理広報はうまく行くと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。