洋上風力発電に関して、日本風力開発が国会議員に3000万円を贈賄した疑い。政治献金と賄賂の分水嶺はどこにあるか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

政府が導入を促進している洋上風力発電事業に関して、風力発電会社である日本風力開発が国会議員に約3000万円を贈賄したとの被疑事実で、東京地検が捜査をしています。

事業会社が自社の事業に関する支援を求める趣旨で国会議員に政治献金を行うことはよくあります。というか、政治献金の目的は、ほぼその趣旨です。

他方で、公務員の職務に関し、対価を提供・収受、要求、約束すれば、それだけで単純贈収賄罪が成立します。請託(不正行為に限らず一定の行為を依頼)すれば、受託贈収賄罪です。

政治献金と単純贈収賄、受託贈収賄とは紙一重の関係にあります。

では、政治献金と贈収賄とはどこで分かれるのでしょうか。献金する会社の立場では絶対に理解しておく必要があります。

洋上風力発電に関する贈収賄被疑事実の概要

報道によると、事案の概要は次のとおりです。

  1. 2017年に国会議員は国土交通政務官に就任。洋上風力発電の導入を促進する再エネ海域利用法の整備を推進。
  2. 2018年12月、再エネ海域利用法が成立。
  3. 2019年2月、国会議員は衆議院予算委員会で洋上風力発電の青森沖での事業化の促進に関し発言。それ以外にも国会質問などで発言。
  4. 2019年7月に国会議員がJRAの馬主登録をする際に、日本風力開発が約3000万円を提供。
    • 個人馬主として登録するには継続的に保有する資産が7500万円以上必要
  5. 2021年秋に共同で設立した馬主組合に、2023年6月までに約3000万円を支出
  6. 2021年12月、日本風力開発が洋上風力発電の政府プロジェクト第一次公募に応募するも落選。
  7. 2022年2月、国会議員は衆議院予算委員会で第二次公募での事業者選定基準の見直しを発言。
  8. 2022年10月、経産省資産エネルギー庁が選定基準の見直しを発表した翌日に、日本風力開発から国会議員に現金1000万円が提供(馬主組合宛の3000万円に含まれるのか?)。

日本風力開発から国会議員に提供された約3000万円が賄賂の疑いで捜査され、これとは別に約3000万円の合計約6000万円が提供されたと報じられています。

政治献金と賄賂の違い

対価性

賄賂罪が成立するのは、公務員に提供等した利益が、職務の「対価」であることが必要です。

仮に政治資金規正法を守っていたとしても、対価関係が認められれば賄賂となり、贈収賄罪が成立しえます。

なお、ここでいう職務は、個別具体的な職務行為である必要はなく、一般的職務権限に属する行為で足ります(ロッキード事件最高裁判決(1995年2月22日))。また、職務密接関連行為も含みます。

なので、国会議員の場合には、自身が所属する委員会が別で法案に対する権限がなくても、国会本会議での質問や各委員会での発言、議案の採決に向けて他の議員を説得する行為など議員活動としての行為は、職務に含まれると考えて良いでしょう。

大阪タクシー事件判決

大阪タクシー事件最高裁判決(最高裁1988年4月11日)は、政治資金規正法の届出をしている政治献金が賄賂になることを認めました。

被告人は、タクシー等の燃料に用いる液化石油ガスに新たに課税することを内容とする石油ガス税法案が、既に内閣から衆議院に提出され、当時衆議院大蔵委員会で審査中であつたところ、Aほか五名と共謀の上、衆議院議員として法律案の発議、審議、表決等をなす職務に従事していたB、Cの両名に対し、単に被告人らの利益にかなう政治活動を一般的に期待するにとどまらず、右法案が廃案になるよう、あるいは、税率の軽減、課税実施時期の延期等により被告人らハイヤータクシー業者に有利に修正されるよう、同法案の審議、表決に当たつて自らその旨の意思を表明するとともに、衆議院大蔵委員会委員を含む他の議員に対して説得勧誘することを依頼して、本件各金員を供与したというのであるから、B、Cがいずれも当時衆議院運輸委員会委員であつて同大蔵委員会委員ではなかつたとはいえ、右金員の供与は、衆議院議員たるB、Cの職務に関してなされた賄賂の供与というべき

なお、大阪タクシー事件控訴審判決(大阪高裁1983年2月10日)は、政治献金と賄賂の関係について、以下のように一歩踏み込んだ判示をしています。

案ずるに、政治献金とは、もともとは、政治家の政治的手腕やその人格識見に信頼を寄せる者が、自己の政治的理念や主張の実現をその人に託する意図で拠出するものであつて、このような献金者の利害に関係のない、いわば浄財的な資金の贈与が賄賂にあたらないことはもちろんであるが、政治献金がなんらかのかたちでの利益の見返りを期待してなされるという現状にかんがみると、献金者の利益を目的とする場合でも、献金者の利益にかなう政治活動を一般的に期待してなされたと認められる限り、その資金の贈与は、政治家が公務員として有する職務権限の行使に関する行為と対価関係に立たないものとして、賄賂性は否定されることになると思われる。しかしながら、上記の場合とは異なり、資金の贈与が、政治家が公務員として有する職務権限の行使に関する行為と対価関係に立つと認められる場合、換言すれば、職務権限の行使に関して具体的な利益を期待する趣旨のものと認められる場合においては、上記の政治献金の本来の性格、贈収賄罪の立法趣旨ないし保護法益に照らし、その資金の賄賂性は肯定されることになると解すべきである。

なお、この賄賂性の判断基準は、元労働大臣である参議院議員が、国会本会議での代表質問において、ある施策の実現のため有利な取り計らいを求める質問をして欲しい旨を請託され、さらに、他の参議院議員を含む国会議員に対し国会審議の場において同旨の質疑等を行うよう勧誘説得して欲しい旨を請託されて金員を受領したことが、その職務に関し賄賂を収受したものと判断された、KSD関連元労働大臣収賄事件(第一審;東京地判2003年5月20日、控訴審;東京高判2005年12月19日、上告審;最判2008年3月27日)でも、そのまま適用されています。

今回の洋上風力発電の場合

大阪タクシー事件最高裁判決や控訴審判決、KSD関連元労働大臣収賄事件などを参考に考えると、日本風力開発が国会議員に提供した約3000万円が、国会議員が行った予算委員会での発言や、洋上風力プロジェクトの第二次公募の選考基準の見直しに向けた発言などへの対価と言えるかどうかが問題になってきます。

一見すると馬主登録のための資産への貢献、馬主組合への支出のように見えますが、その趣旨はなんだったのかが問題になるでしょう。

ブライダル補助金の場合

2023年8月15日には、別の国会議員が、ブライダル業界の会社から100万円の寄付を受けた2021年4月30日の直後である5月27日に結婚の応援に関するブログ記事を投稿し、ブライダル補助金事業(補助金はブライダル業界の会社に支払われるもの)に向けた動きをしていることが明らかになりました。

これも、100万円の寄付とブライダル補助金事業への支援との対価性などによっては、贈収賄の問題に発展する可能性がないわけではありません。ブライダル補助金事業の詳細を良く知らないので、なんとも言えませんが。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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