日大がアメフト部部員の薬物事犯で記者会見。危機管理広報としては、またも失敗。その原因を危機管理広報の基本に戻りながら考える。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年8月8日、日本大学が、アメフト部部員が覚せい剤取締法違反・大麻取締法違反(所持)で5日に逮捕されたことを受け、理事長、学長、副学長の3人で記者会見を行いました。

日大アメフト部に関わる記者会見は、2018年5月に関西学院大学との練習試合で危険なタックルをした後の記者会見が批判されたのが記憶に新しいところです(当時の夕刊フジの見出しは「世紀のクソ会見」とまで踏み込んでいます)。それなのに、またも危機管理広報としては失敗しました。

今回は、危機管理広報の基本をポイントだけ触れながら、その原因を探ります。

危機管理広報を考えるときの視点

不正・不祥事発生のあとに行う危機管理広報は、漠然と危機管理っぽい雰囲気で行うのではなく、目的、方法、内容をキチンと理論立て、なぜそれを行うのか理由をつけながらすることが必要です。そうでないと、なぜうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのか、成功も失敗も原因を分析できません。

以下では、この3つのポイントにわけて説明していきます。

危機管理広報の目的

危機管理広報を行う第一の目的は、ステイクホルダーからの信頼の回復、維持です。

大学なら在籍している現役学生・卒業生、これから大学を受験するであろう生徒やその保護者、世の中の人たち(社会)、大学に勤務する教職員からの信頼を回復できるよう、信頼を維持できるような広報をすることが求められます。

この目的をきっちり定めることが危機管理広報の成否、ひいては危機管理そのものの成否を決める大きな要素です。

信頼の回復、維持なんて当たり前だろうと思うかもしれません。しかし、ここが腹落ちしていないと自己保身や責任逃れの発言や文書をリリースしてしまいます。また、誰からの信頼の回復、維持なのかが明確でないと、誰に向けてのメッセージなのかが曖昧になりぼやけてしまいます。

危機管理広報の方法

目的が決まれば、危機管理広報の方法も決まります。

方法とはリリースを出せば済むのか、会見や説明会まで必要なのか、またそれをいつ行うのか、ということです。

なお、上場会社の開示と危機管理広報でいうリリースは別ものです(詳しくは以前書きました)。

今回のケースは、6月30日に警察からアメフト部の寮での大麻使用の疑いの情報が提供されたため、同日、大学が立入検査したものの発見できなかったところ、7月6日も再度警察から情報が提供されたので、同日、再度立入検査をし植物片の入ったビニール袋と錠剤が見つかったことが発端です。

ところが、大学は7月18日になってから警察に報告。20日に警察に植物片等を渡し、28日に警察の鑑定結果が明らかになりました。

この過程だけでも、信頼の維持からほど遠い対応です。

理事長以下を一新してまでコンプライアンスに問題がある事象に対して厳しい姿勢で臨んでいることを示し、大学への信頼の維持に努めたい意図を有していたのだとすれば

  • 警察から提供された情報をもとに部内を調査して発見した7月6日の時点で警察に事実を知らせ、植物片等の鑑定を依頼する
  • 警察の鑑定結果が判明した同日には、たとえ逮捕されていなかったとしても、学生やアメフト部の処遇に対する方針を決め、薬物が発見された事実も含めて公表する

ことが必要でした。

この時点なら、他の大学でもあるように、一学生が違法薬物を使用していたので処分することにした旨と他の学生や保護者に対するメッセージを込めたリリースだけで済んだように思います。

ところが、対応が後手後手になってしまったことで、8月2日には理事長がマスコミから囲み取材を受けることになり、8月8日の記者会見に繋がりました。

すべては、大学の遅い対応・姿勢から、コンプライアンスに厳しい姿勢が見られず、信頼を維持・回復しようという意図が感じられなかったことが原因です。

もっとも、7月28日にリリースを出していたとしても、8月5日にアメフト部の部員が逮捕されたので、その当日には記者会見は免れなかったかもしれません。

一般の学生が逮捕されただけなら大学が記者会見まで行う必要性は乏しいと言っていいでしょう。しかし、今回は、警察からの情報提供によって体育会系アメフト部の部員が逮捕されたこと、アメフト部は2018年のタックル問題もあり何かと注目度が高いことから、仮にリリースを出していたとしても記者会見を追加で行うことは必要なケースでした。

それでも、7月28日時点でリリースを出していればその後の記者会見で、事実を隠蔽していたのではないかとの疑いのもとで記者が理事長以下を詰問する事態は回避できたように思います。

リリースで済むのか、記者会見まで必要なのか、どの時点で何をするかといった勘所は、ある程度の危機管理広報に対応した経験がないと判断に迷うと思います。マニュアルでは対処できません。

危機管理広報の内容

今回のケースに対するメディアや世の中の最大の関心事は、大学のガバナンス、コンプライアンスに対する姿勢です。

会社であれば、取締役・取締役会のガバナンスに関する法的責任は、

  • 通常予想される不正行為を防止できる程度の体制が整備されていたか
  • 前例はなかったか(再発は防止できる程度の体制は整備されていたか)

が問題になります(日本システム技術事件、リソー教育事件など)。

これを今回のケースにあてはめて考えてみれば、

  • アメフト部での再度の不祥事を防止できる体制がなぜできていなかったのか
  • 理事長まで報告が上がってこない・適切な危機管理ができない大学の体制や組織風土の要因はなぜ改善されていなかったのか

がメディアや世の中の関心事であり、また、記者会見までする以上は大学はこの点を明確に答えられることが求められていました。

ところが、会見では、「教育機関」であることを免罪符のように主張したり、情報が共有されていなかったことを正当化する弁明に終始し、ガバナンスに問題があることを認める回答はありませんでした。

これだけでも「非を認めるべき所は認める」という危機管理広報の基本から離れていて、大学の信頼の維持・回復はまたも遠いなと感じざるを得ませんでした。

その他にも見せ方の問題など多々問題はあります。

危機管理広報の勉強をするためには

危機管理広報の基本は、2015年に私が書いた「危機管理広報の基本と実践」にて丁寧に解説しています。SNSが全盛となった今のトレンドから見ると少し古いところはありますが、基本の考え方は参考になると思います。

版元の中央経済社でも在庫切れになっているようなので、新刊は手に入らないかもしれません。KDPで改訂版をセルフ出版しようかな・・。

また、雑誌広報会議の毎年1月号は危機管理広報特集号です。こちらにも参加していますので、こちらを手に取っていただいても断片的ではありますが、参考になると思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。