さくらフォレストの機能性表示食品に優良誤認表示/不実証広告を理由とする初めての措置命令。消費者庁は、同一の機能性関与成分で、科学的根拠が同一の他の届出88件を調査。不実証広告にならないためには何を準備すべきか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年6月30日に、消費者庁が、さくらフォレストが供給する機能性関与成分の「きなり匠」と「きなり極」の「酸化LDLコレステロールを減少させる」「血圧を下げる」「中性脂肪を低下させる」などの表示が、表示の内容を裏付ける合理的な根拠がなく、優良誤認表示であるとして、景品表示法に基づく措置命令を行いました。

機能性表示食品の表示を不実証広告として処分した日本初のケースです。

消費者庁が機能性表示食品の表示の科学的根拠の有無を調査

消費者庁は、この件をきっかけに、措置命令の対象となった2商品と同一の機能性関与成分であって、科学的根拠が同一であるという他の届出88件について(※機能性表示食品は消費者庁への届出が必要)、7月3日から、科学的根拠として疑義がある点を指摘し、2週間以内に届出者から合理的な根拠があるかどうかの回答を求めました。

具体的には、機能性関与成分としてDHA・EPA、オリーブ由来ヒドロキシチロソール、モノグルコシルヘスペリジンを表示し、各機能を表示している届出88件について、科学的根拠の有無の回答を求めたのです。

その結果、15件が届出を撤回し、回答した73件は、7月27日から消費者庁のサイトに公開されています。

これは「科学的根拠がある」と各事業者が回答しただけで、表示の合理的根拠といえるか(不実証広告かどうか)は消費者庁がこれから確認します。

※2023/08/17までに80件が届け出を撤回しました。一覧はこちら

なお、消費者庁は、現在、PRISMA声明2020年に対応するため、機能性表示食品の届出等に関するガイドラインの改訂に取り組んでいます(2023年8月7日までパブリックコメントを募集していました)。

不実証広告とならないためには・・・合理的根拠の基準

合理的な根拠の提出を求められる表示

商品やサービスの効果や性能に関する表示について、消費者庁は、表示の根拠となる合理的根拠の提出を求めることができ、一定期間以内に回答しない場合や回答したけれども合理的根拠とはいえない場合には、不実証広告であり、優良誤認表示と評価されます。

効果や性能に関する表示は、例えば健康食品などの痩身効果、ニキビ除去効果などのほか、開運・金運など神秘的内容、気分爽快など主観的内容、健康になるなど抽象的内容に関する表示でも、それが購入の決め手になり、優良誤認表示の疑いがあるときには、消費者庁から合理的根拠の提出を求められることがあります。

合理的か否かの判断基準

消費者の求めに応じて事業者が提出した資料が合理的根拠と言えるためには、

  1. 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
  2. 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応している

の2つの要件を充たしていることが必要です(不実証広告ガイドライン)。

提出資料が客観的に実証された内容であること

提出資料が客観的に実証された内容であるとは、

  1. 試験・調査によって得られた結果
  2. 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献

のいずれかに該当することが必要です。

No.1表示と同じく、試験・調査方法の客観性が必要です。

体験談やモニターの意見等を表示したときに、その収集結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合には、無作為抽出法で相当数のサンプルを選定し、作為が生じないように考慮して行うなど、統計的に客観性が十分に確保されている必要があります。

自社の商品やサービスにとって都合の良い体験談やモニターの意見があったからといって、それだけを表示するのでは許されません。

また、生薬の効果や古来からの言い伝え等、長期に亘る多数の人々の経験則による効果、性能を表示するときにも、その経験則の裏付けとなる根拠は、専門家等の見解又は学術文献によってその存在が確認されている必要があります。

表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応している

表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していない典型は、試験・調査の結果を提出資料としたけれども、商品を購入した消費者が実際に使用する環境とは異なる環境での試験・調査の結果であるというものです。

2023年4月に6億0744万円の課徴金納付を命じられた大幸薬品の「クレベリン」は、空間除菌などの効果を表示していたものの、根拠資料となった実験は閉鎖空間であったため、不実証広告として優良誤認表示と判断されました。

2015年2月には、アース製薬、興和、大日本除虫菊、フマキラーの各社が販売する「バポナ 虫よけネットW」「ウナコーワ虫よけ当番」「虫コナーズ」「虫よけバリア」など計30種類が、風通しを考慮しない環境での試験・調査の結果であり、実際に使用される人の出入りがある場所や風通しのある場所での結果ではなかったとして、不実証広告による優良誤認表示として措置命令を受けています。

せっかく実験・調査を行ったのに使用環境と異なることを理由に消費者庁から合理的根拠であることを否定され、不実証広告/優良誤認表示と判断されてしまうのは、もったいないです。

開発部門と商品・サービスの宣伝広告を考える部門との連携が必要不可欠です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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